現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚は、1961年に公開された黒澤明監督映画『用心棒』のサウンド・トラック。合計300本以上の日本映画音楽を手がけた北海道出身の作曲家、佐藤勝による作品だ。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年10月号より転載したものです。
映画音楽のヴァイブは、アレンジの肥やしになることが多いんだ。
黒澤明の映画について、今さら僕から言うことは何もない。評論家たちの文章を読んだほうが良いだろう。
僕がこの映画を観たのは黒澤映画にハマったばかりの頃だった。昔、クリント・イーストウッドが出演する古いウェスタン映画を父とよく観ていて、日本のサムライ映画はそこと通ずるものを感じるね。あ、サムライじゃないか……ローニン(浪人)だね、この映画は。
とにかく正義対悪の構図で、名もなき浪人という設定はまるで、ウェスタン映画に出てくる一匹狼のガン・スリンガーと同じだ。アティチュードというか、生き様そのものがね。
それで、このサウンド・トラックには、たくさんのアティチュードが散りばめられている。楽器の選び方がまず素晴らしいよね。妖しいギター・リフっぽい音がところどころ出てくるけど、実は管楽器のバンドによる演奏だったりする。楽器によって作り出されるフィーリングやヴァイブを楽しむのが映画音楽なんだ。
しかも映画の音楽って、テーマとなる1つのメロディに手を替え品を替え、様々なテンポやキー、アレンジでくり返しプレイするだろう? ああいうのはアレンジの肥やしにもなるよね。
あとは、映画のシーンが変わる合図になるような、動きのあるオーケストラ・アレンジもポイントだ。たった10〜20秒の曲というのも珍しくなくて、そういうのがあって初めてシーンが成立したりする。
だからこのアルバムはたくさんのトラックが収録されていて、“パン! ダダダン!”だけのトラックがあったりするんだ(笑)。とにかく、楽器の音とアンサンブルによって情景を伝える音楽というのは、いちミュージシャンとしても学べる部分が多いよね。