現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚は、スティーヴィー・ワンダーの音源にも参加した、ロバート・マーゴレフ&マルコム・セシルによるグループ、トントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンドの『ゼロ・タイム』。アナログ・シンセサイザーが奏でる瞑想的なサウンドが味わえる1枚だ。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年12月号より転載したものです。
至高のサイケデリック電子音楽。去年録音したような完成度だ。
僕は初期のエレクトロ・ミュージックに興味があって、これは至高のサイケデリック電子音楽だ。彼らの手法には驚きしかないよ。入手できうるシンセサイザーのすべてを用いて、1つの巨大なポリフォニック・サウンドを作り、個々のボイスにオシレーターをアサインしている。
つまり、ビッグなコードを作っているのは複数のモーグ・シンセの組み合わせだったりするんだ。このアルバムが放つヴァイブは本当に素晴らしい。まるで去年録音したんじゃないかと思えてしまうくらいの完成度だよ。
有名な話だと、このアルバムを聴いたスティーヴィー・ワンダーが“コイツらに自分のアルバムをプロデュースしてもらいたい”と思ったらしい。実際、『Innervisons』のようなシンセサイザーを多用した70年代のスティーヴィーの名作群は、彼らのサウンドをたくさん聴くことができるよ。
そもそも、僕が彼らを知ったのはスティーヴィーを介してのことだったんだ(笑)。ヘンで、サイケデリックで、エレクトロニックな音楽を教えてくれたスティーヴィーには感謝しないとね。
当時のシンセサイザーがもたらす世界観を、自分もギターという楽器で表現できないかと考える。もちろん、僕はギター・シンセを使ったりは絶対しないけど、あくまでギターらしさを残したまま、ある特定のスタイルやトーンをプレイしてみたいね。大抵の場合、フィルターとディストーションでできる気がするけど。ワウを半踏みにして、BOSS DS-1を踏んでリバーブも加れば、近いヴァイブが得られるかもね。