トントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンド『ゼロ・タイム』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第32回 トントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンド『ゼロ・タイム』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第32回

トントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンド『ゼロ・タイム』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第32回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回の1枚は、スティーヴィー・ワンダーの音源にも参加した、ロバート・マーゴレフ&マルコム・セシルによるグループ、トントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンドの『ゼロ・タイム』。アナログ・シンセサイザーが奏でる瞑想的なサウンドが味わえる1枚だ。

文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年12月号より転載したものです。

トントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンド『ゼロ・タイム』
/1971年

巨大な自作シンセによる
瞑想的サイケ電子音楽

スティーヴィー・ワンダーの『Talking Book』や『Innervisions』、『Fulfillingness First Finale』などにも参加した、ロバート・マーゴレフ&マルコム・セシルによるグループのシンセ作品。自作の巨大な多音色ポリフォニック・アナログ・シンセサイザー“TONTO”を駆使した、トリップ感満載でアンビエントな瞑想的サウンドが味わえる。

至高のサイケデリック電子音楽。去年録音したような完成度だ。

 僕は初期のエレクトロ・ミュージックに興味があって、これは至高のサイケデリック電子音楽だ。彼らの手法には驚きしかないよ。入手できうるシンセサイザーのすべてを用いて、1つの巨大なポリフォニック・サウンドを作り、個々のボイスにオシレーターをアサインしている。

 つまり、ビッグなコードを作っているのは複数のモーグ・シンセの組み合わせだったりするんだ。このアルバムが放つヴァイブは本当に素晴らしい。まるで去年録音したんじゃないかと思えてしまうくらいの完成度だよ。

 有名な話だと、このアルバムを聴いたスティーヴィー・ワンダーが“コイツらに自分のアルバムをプロデュースしてもらいたい”と思ったらしい。実際、『Innervisons』のようなシンセサイザーを多用した70年代のスティーヴィーの名作群は、彼らのサウンドをたくさん聴くことができるよ。

 そもそも、僕が彼らを知ったのはスティーヴィーを介してのことだったんだ(笑)。ヘンで、サイケデリックで、エレクトロニックな音楽を教えてくれたスティーヴィーには感謝しないとね。

 当時のシンセサイザーがもたらす世界観を、自分もギターという楽器で表現できないかと考える。もちろん、僕はギター・シンセを使ったりは絶対しないけど、あくまでギターらしさを残したまま、ある特定のスタイルやトーンをプレイしてみたいね。大抵の場合、フィルターとディストーションでできる気がするけど。ワウを半踏みにして、BOSS DS-1を踏んでリバーブも加れば、近いヴァイブが得られるかもね。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

マーク・スピアー(Mark Speer) 

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。