FUZZ FACEの爆音と繊細さに酔う名演15 FUZZ FACEの爆音と繊細さに酔う名演15

FUZZ FACEの爆音と繊細さに酔う名演15

“ロック・ギターの音”として1つのジャンルを築き上げた、FUZZ FACEによるサウンド。それはファズだからと言って歪みだけではなく、本機をとおした倍音豊かなクリーン・サウンドまで、様々なギタリストのアイディアで多様な使い方が生まれた。今回は、数あるFUZZ FACE名演から15曲を厳選したプレイリストを、この名機の簡単なヒストリーとともにお届けしよう。

選曲/文=細川真平
Photo by Joby Sessions/Guitarist Magazine/Future via Getty Images(写真はジョー・ボナマッサのペダルボード)

FUZZ FACEの爆音と繊細さに酔う名演15

ファズフェイスの運命を決めた、ジミ・ヘンドリックスとの出会い

“FUZZ FACE”は1966年の秋、まさにジミ・ヘンドリックスの渡英時期(同年9月)に、ロンドンのダラス・アービーター社から発売された。その11月からジミが使用。それをきっかけとして、以降、様々なギタリストの間に広まっていった。

もちろんファズ自体はすでに存在しており、1965年のザ・ローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No) Satisfaction」ではマエストロ“FUZZ-TONE FZ-1”が使われたし、その年の夏には“TONE BENDER (Mk1)”が、1966年後半にはモズライト“FUZZRITE”が発売されている(ジミはニューヨーク時代に“FUZZ-TONE FZ-1”を、デビュー後には“FUZZRITE”を使用したこともある)。

そうした中で、ジミが“FUZZ FACE”を選んだのは、安かったことが大きな理由だったという。

イギリス国内製造であり、後発商品だからということもあったのだろう、“FUZZ-TONE FZ-1”が30ポンドだったのに対して、わずか6ドルという価格設定。

駆け出しの新人であり、数多くのギグをこなすための機材も潤沢に必要だったジミにとって、この価格は魅力だった。

また、当時は個体による当たりはずれも大きかったため、ジミは“FUZZ FACE”を何台もまとめ買いして、その中から良いサウンドのものを選んで使用していたというから、この価格でなければ厳しかっただろう。

ギタリストのインスピレーションを刺激する名機

“FUZZ FACE”はヘヴィな低域を持つ荒々しく歪んだサウンドが特徴だが、もう1つの大きな魅力は、ギター側のボリュームを絞った時に、高音成分がキラキラしながら全体的に芯のある素晴らしいクリーン・サウンドを生み出せる点。

この使い方もジミがやり始めたことだが、その後、多くのギタリストに取り入れられていった。

そしてまた、ペダルの“FUZZ”ノブを上げ過ぎずに、アンプの歪みと組み合わせて絶妙なクランチ・サウンドを作ったり、ほかの歪み系ペダル、例えばオーバードライブ・ペダルやブースターなどと組み合わせて独特の音作りをしたりと、“FUZZ FACE”を活用するノウハウは数多く編み出されてきた。

つまり、当初はただ音を歪ませるために作り出されたこのペダルだったが、多彩なサウンドを生み出す重要なファクターとなり、ギタリストのイマジネーションを刺激すると同時に、ギタリストのイマジネーションによっていかなる使い方もできるバーサタイルなペダルへと、(モノとしては不変であるにもかかわらず)進化していったのだ。

プレイリスト収録曲解説

「Love or Confusion」 ジミ・ヘンドリックス

1966年11月24日、この曲のレコーディングでジミは初めて“FUZZ FACE”を使用した。これぞ、“FUZZ FACE”のサウンドが史上初めて記録された瞬間だ。

「Little Wing」 ジミ・ヘンドリックス

ロック史上に永遠に残る、分散和音を使った見事なイントロ。これこそが“FUZZ FACE”のクリーン・サウンドだ。

あるライブ映像では、“FUZZ FACE”をオンにしっぱなしで、ギター側のボリューム・コントロールだけでこの曲のイントロ/バッキングのクリーン〜ソロでの歪みを操っている様子が確認できる。

「Hey Jude」 ウィルソン・ピケット

セッション・マン時代のデュアン・オールマンがギターを担当。彼はこの時期、ストラトキャスターを“FUZZ FACE”で歪ませていた。

この曲のソロをカー・ラジオで聴いたエリック・クラプトンが、すぐに車を道端に停め、誰が弾いているのかを電話でレコード会社に問い合わせたというエピソードは有名。

「25 or 6 to 4(邦題:長い夜)」 シカゴ

シカゴの代表曲で、テリー・キャスが“FUZZ FACE”を使った長尺のソロを展開。ワウ・ペダルとのコンビネーションも見事だ。

「Standing in the Rain」 ジェイムス・ギャング

ギタリストはジョー・ウォルシュの後釜として加入したトミー・ボーリン。この後、ソロや第4期ディープ・パープルで活躍する彼の、“FUZZ FACE”の豊かなトーンを活かした名演が聴ける。

「Time」 ピンク・フロイド

デヴィッド・ギルモアと言えばエレクトロ・ハーモニクス“BIG MUFF”のイメージが強いかもしれないが、1970年代半ばまでは“FUZZ FACE”がメイン。カラーサウンドの“Power Boost”も使用しており、ここで聴けるのは両者を組み合わせたサウンドの可能性も。

「Tightrope」 スティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブル

ブルース・ギター史上に今も燦然と輝くスティーヴィー・レイ・ヴォーン。彼もキャリア途中から“FUZZ FACE”を使用し、エッジが立って荒々しく、しかし限りなくブルージィなトーンを作り上げた。

「Cliffs of Dover」 エリック・ジョンソン

トーンの魔術師、エリック・ジョンソンは、“FUZZ FACE”を使ってバイオリンのような音色を生み出した。“FUZZ FACE”の可能性を広げた1人と言っても過言ではない。

「I’m Buzzed」 マイケル・ランドウ

世界トップ・クラスのセッション・マンであり、ソロでも活躍するマイケル・ランドウ。近年では“FUZZ FACE”はあまり使わないが、1990年代にはメインの歪みだった。

この曲では“FUZZ FACE”の芳醇なサウンドでマジカルなソロを展開している。

「Movin’ on Up」 プライマル・スクリーム

ダンサブルな曲調にアンドリュー・イネスの“FUZZ FACE”サウンドが光る。2022年には、この曲が収録されたアルバム『Screamadelica』のリリース30周年を記念した“FUZZ FACE”が発売されたことも記憶に新しい。

「Problem Child」 ドイル・ブラムホールII & スモークスタック

エリック・クラプトンの右腕として大活躍しているドイル・ブラムホールII。これは2001年のソロ・アルバム『Welcome』収録曲で、野太い“Fuzz Face”サウンドを聴かせている。

「The Meaning of the Blues」 ジョー・ボナマッサ

現代を代表するブルース・ギタリストの1人。この壮大なブルース・ナンバーを聴くと、彼が“FUZZ FACE”を完璧にコントロールしていることがよくわかる。使用しているのは彼のシグネチャー・モデルだ。

「Rest in Blue」 リトル・バーリー&マルコム・カット

リトル・バーリーのバーリー・カドガンは、“FUZZ FACE”のプリミティブなサウンドを楽曲に活かし、レトロさを逆手にとって新鮮に聴かせるのが非常にうまい。このナンバーからもそれがよくわかる。

「Backstabber」 フィリップ・セイス

ジミ・ヘンドリックス、スティーヴィー・レイ・ヴォーン直系のブルース・ロッカー、フィリップ・セイス。“FUZZ FACE”サウンドでブルース・リックを弾きまくる、理屈抜きの醍醐味を味わっていただきたい。

「Too Late, You Waste」 DURAN

最後に、日本を代表してDURANのナンバーを。“FUZZ FACE”以外にも歪みペダルを多数使っているので、それらが混じっている可能性もあるが、基本になっているのはエリック・ジョンソン・モデルの“FUZZ FACE”だ。圧倒的な演奏と、圧倒的なサウンドが聴ける。