現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回は、ブルックリン発のトリオ、ドーン・オブ・ミディの『ディスノミア』。ピアノ、ベース、ドラムで構築するミニマルなアンサンブルがクールな1枚。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2024年3月号より転載したものです。
ドーン・オブ・ミディ『ディスノミア』
/2013年
有機性と無機性が交錯する
生楽器によるミニマル音楽
インド、モロッコ、パキスタンという多国籍メンバー3人で結成されたブルックリンのグループ。本作は2ndで、ピアノ、ベース、ドラムによる生楽器編成のミニマル・ミュージックを展開している。有機性と無機性が交錯する非常に興味深い作風だ。もともとフリー・ジャズ界隈で活動していたそうで、ジャズやポスト・ロック、テクノなどが好きな人にもお薦め。
天体の軌道を表現している。ミニマルでたまらなく僕好みだね。
実にミニマルな作品だね。アコースティック・ピアノ、アップライト・ベース、トラディショナルなドラムという、いわゆるジャズの典型的なトリオ編成なんだけど、プレイの仕方は全然違う。最小限の音数とくり返しループするようなフレーズによって、生音なのにエレクトロニックなサウンドになっているんだ。
このアルバムに収録されている曲のリズムは、3つの楽器すべてが異なっていて、別々に動いている。それでいて調和が取れているような表現だ。もともとのコンセプトは、どうやら特定の星や天体の軌道を表現することにあったみたいだね。かなりアカデミックでちょっとヘンなんだけど、サウンドがたまらなく僕好みなんだ。
このアルバムは2、3回通して録音してみたという話だけど、グルーヴが噛み合ってなかったらしくてね。録音は苦労したみたいだ。ビートに関しては決して優秀な作品というわけではなくて、ほとんどの曲がシンプルなキック・ドラムのパターンに基づいている。ある意味クラブ・ミュージックやハウス、テクノといったものに近いのかもね。けれども楽器は少なくて、やっていることはアヴァンギャルドでミニマルなんだ。
それから、ピアノの中に手を入れて弦をミュートしながらプレイするジョン・ケージっぽいスタイルのプレイも聴けるよ。個人的に凄く好きな音で、かなりクールだよね。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。