現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回は、ヒューストンが生んだ早逝のヒップホップ・レジェンド、DJスクリューの『3 ‘N ザ・モーニン』を紹介。カセット・テープの特性を生かした、ローファイなサウンドとスローなテンポが心地良い。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2024年4月号より転載したものです。
クルアンビンがスローに演奏するのは、彼からの影響が大きい。
僕の地元、テキサス州ヒューストンが誇るヒップホップの名作アルバムを紹介しよう。
まず、このアルバムのテープ・バージョンを僕がレコメンドしていることを強調しておきたい。YouTubeには色々なバージョンがあるけど、Spotifyにはテープ・バージョンはないはずだ。
DJスクリューはこのジャンルの音楽をヒューストンで作り出した張本人で、ファンクやリズム&ブルースだけじゃなく、時にはロックやポップ・ミュージックを取り入れている。それらをスローにしてプレイしているのがポイントだ。ターン・テーブルだけじゃなくて、TASCAMみたいなメーカーの4トラックのレコーダーも使ってるみたいだよ。ちなみに全部ライブ・レコーディングされた作品で、しかもテープに録音しているんだ。
僕がテープのバージョンを大好きなのは、テープってヒス・ノイズが混ざるだろう? あのテクスチャーが加わることで、ヴァイブやフィーリングに磨きがかかるんだ。全体的に甘ったるくてサイケデリックな感じが増すし、僕は大好きなサウンド感だね。
DJスクリューはヒューストンが誇るレジェンドで、偉大なるヒップホップ・ミュージシャンだよ。この影響力の大きさをぜひ僕から伝えていきたいんだ。何を隠そう、クルアンビンも影響を受けているからね。クルアンビンはスローにプレイすることで知られているんだけど、そこは彼からいただいているようなところがあるんだ(笑)。