2023年に惜しまれつつ休刊した音楽雑誌『Player』。楽器を扱う専門誌として『ギター・マガジン』とは良きライバル関係にあっただけに、その不在はやはり寂しい。音楽業界や楽器業界を盛り上げ、読者に大きな影響を与えたその偉大な55年に敬意を表して、元編集長の田中稔氏にその歴史を綴ってもらう。隔週更新。
文=田中 稔
第14回
70~80年代に発売されていた音楽雑誌
これまでこのコラムでは、『Player』が急成長を遂げた1970~80年代の音楽シーンやギター・シーン、さらにはビンテージ・ギター市場などについて紹介した。『Player』は当初から独自な編集路線で、常にほかの音楽雑誌とは異なる誌面作りを行なってきたが、競合他誌からまったく影響を受けていなかったわけではない。“音楽/ギター”という狭いカテゴリーの中で、雑誌社はお互いに切磋琢磨しながらしのぎを削ると共に、市場における棲み分けや共存が存在していた。では、70~80年代には『Player』以外にどのような音楽雑誌があったのだろう。当時のおもな雑誌を紹介しよう。
数ある日本の音楽雑誌の中で最も長い歴史を誇っていたのは、現在のシンコーミュージック・エンタテイメント(当時は新興音楽出版社)が発刊していた『Music Life』である。その歴史を紐解くと、『ミュージックライン』という名称で流行歌の雑誌として創刊されたのが、なんと1937年(当時は月刊誌ではなく不定期刊行誌)。何度か名称を変更しながら発刊と休刊をくり返し、『Music Life』という名称になったのが戦後間もない1946年である。しかし、これもまたしばらくして休刊となり、復刊したのが1951年。
50年代の『Music Life』は、レコードの売り上げチャートなどを紹介した編集内容で、洋楽誌ではなかった(というより、現在のようなロック・シーン自体が存在していなかった)。1964年4月号に掲載した初のビートルズ特集号が爆発的な売れ行きを記録し、それが大きな転機となって洋楽ロック・マガジン路線に切り替え、国民的なアイドル・ロック雑誌の道を突き進むことになった。
『Music Life』が、ビートルズに続いてベイ・シティ・ローラーズ、クイーンなどの大特集を組んで売れに売れていた頃、『Player』はジョン・マクラフリンやアル・ディ・メオラ、エリック・クラプトンなどをカバーにし、かなりマニアックな編集内容で細々と発刊していた。しかし、そんな歴史のある『Music Life』は残念なことに1998年12月をもって休刊となり、紙媒体を長く継続していくことの難しさを知らされた(『Music Life』は2018年にウェブサイトで復活)。
やはりシンコーミュージック・エンタテイメントの雑誌で、現在も発売されている『Young Guitar』も長い歴史を持っている。『Young Guitar』は、『Player』(当時は『The Young Mates Music』)が創刊したちょうど1年後の1969年5月に創刊された。現在はHR/HM系のテクニカル・ギター路線が定着しているが、創刊当時はフォーク・ギタリストに向けたアコースティック系の音楽雜誌で、ロック系のギタリストが登場してくるのは70年代半ば以降である。そしてヴァン・ヘイレンが登場した1978年を機に、『Young Guitar』はフォーク系からHR/HM系マガジンへと華麗なる変貌を遂げた。
当時の『Player』は、ギタリストのインタビューや楽器の特集などが中心で、譜面関連の記事はあまり掲載していなかった。『Young Guitar』は人気ロック・ギタリストを中心とした実践的な譜面やスコアを充実させ、『Player』誌との差別化を行なった。
そんな日本国内のギター・シーンを見守っていたリットーミュージック(1978年創立)は、『Player』が開拓したマニアックなロック・ギタリスト路線に新たな可能性を見出し、ギタリストのための雑誌『Guitar magazine』を1980年11月に創刊した。創刊号のカバーに選ばれたのは、デビュー当初から天才ギタリストとして注目され、ジャズ・シーンとロック・シーンをまたにかけ、YMOのサポート・メンバーとしても活躍した渡辺香津美だった。当時の『Player』はあまり日本のギタリストをカバーにすることはなかったが、『Guitar Magazine』は積極的に日本のギター・シーンにも着目し、『Player』を意識しつつも独自な路線を目指していた。



このほかにも、『Music Life』に比較的コンセプトが近い洋楽誌『音楽専科』、フォーク&歌謡曲ファンをターゲットにした『新譜ジャーナル』、『ヤング・フォーク』、日本のHR/HMシーンにも注目した『ロッキンf』、70年代の洋楽ギタリストを取り上げた『Guitar Life』、ロックを中心に幅広い音楽ジャンルの演奏を解説した『ロック&アンサンブル』、音楽評論家中村とうようのマニアックなカラーを強く打ち出した『Music Magazine』、歌謡曲やフォークソングの歌本として定評があった『明星』や『Guts』、日本の新たなフォーク、ニューミュージック・シーンをターゲットにした『ライト・ミュージック』、リスナー視線で移りゆく洋楽シーンとカルチャーを紹介した『rockin’on』、内外のマニアックな音楽シーンを紹介した『DOLL』、『Fool’s Mate』、洋楽のコアなリスナーに評価された『レコード・コレクターズ』、1947年に創刊された最古のジャズ・マガジン『スイングジャーナル』、1967年創刊のクラシック・ギター誌『現代ギター』などなど、数えきれないほど音楽関連の雑誌が存在し、しのぎを削っていた。しかし、その多くはリスナーをターゲットにした内容で、『Player』のようにギタリストやプレイヤーをターゲットにした雑誌は限られていた。







次回は、数ある音楽雑誌の中で、色々な意味でライバル誌として比較された『Guitar magazine』と『Player』との意外な関係について紹介しよう。
プロフィール
田中 稔(たなか・みのる)
1952年、東京生まれ。1975年秋にプレイヤー・コーポレーション入社。広告営業部、編集部にて『Player』の制作を担当。以来編集長、発行人を経て1997年に代表取締役就任。以降も『Player』の制作、数々の別冊、ムック本を制作。48年間にわたり『Player』関連の仕事に深く関わった。現在フリーランスの編集者として活動中。アコースティック・ギターとウクレレの演奏を趣味としている。