文=高橋智樹
2020年の世に燃え盛る魂と轟音の極致。
約3年ぶり18thアルバムが描き出す絶景
ギター/ベース/ドラム/ボーカルというバンド音楽の要素は、どれだけ純粋に人間の魂に迫り、その衝動の熱量を体現することができるか――という命題に日々挑むかのように、その楽曲と音像を磨き続けてきたeastern youth。前作『SONGentoJIYU』から約3年ぶり・18作目のアルバムとなる今作はまさに、そんな彼らの歩みの究極形と呼ぶべき作品だ。
アルバムの幕開けを飾る①「今日も続いてゆく」の柔和なイントロから一転、YAMAHA SG-1000越しに吉野寿がくり出す、熾烈にして清冽なる轟音。吉野の渾身の絶唱と同様に、折れず屈せず前進するeastern youthのアティテュードを象徴するようなギターの音色それ自体が、聴く者を鼓舞し奮い立たせる波動の如き訴求力とスケール感に満ちている。
続く②「存在」冒頭で3人一丸となって轟かせるキメの迫力と美しさ。心に焼きつくようなバッキングのギターが灼熱の風のようなドライブ感を描き出す③「カゲロウノマチ」。前のめりな吉野のギタープレイと変拍子を織り込んだビートの疾走感が、夕闇迫る街の焦燥感と重なり合う④「雑踏に紛れて消えて」……。DTMも生音もありとあらゆる音楽の手法が並列に存在する2020年のシーンに、3ピースのアンサンブルでバンドの&ギターの存在証明を打ち立てるような音響が、どこまでもスリリングに胸を震わせる。
『ボトムオブザワールド』(2015年)後に訪れた二宮友和脱退の衝撃を、後任ベーシスト=村岡ゆかを迎えて作り上げた『SONGentoJIYU』(2017年)の決然としたサウンドで払拭してみせたeastern youth。かつては3人の猛者が斬り結ぶような緊迫感を常に湛えていた音の質感が、現体制では吉野の詞曲の喜怒哀楽を伸びやかにアンサンブルの弾性へと昇華していくような開放感をもって伝わってくる。①や③の曲頭で一瞬聴かせる和やかなアレンジが、やがて来る真摯な爆音との明快なコントラストを生み出しているのも印象的だ。
1曲ごとに感情の密度を増していくようなアルバムの展開は、凛とした歌メロとエモーショナルなギターソロがせめぎ合う⑧「月に手を伸ばせ」からさらに高まっていく。震撼必至のアルペジオとオクターブ・フレーズが秒刻みで押し寄せる⑨「合図を送る」を経て、最後にひときわアグレッシブに突き上げる⑩「あちらこちらイノチガケ」は、現代という名の灰色の焼け野原を生命の戦場として再定義するかのようなダイナミズムを備えている。
作品データ
『2020』 eastern youth
裸足の音楽社/HOS-004/2020年8月19日リリース
―Track List―
01.今日も続いてゆく
02.存在
03.カゲロウノマチ
04.雑踏に紛れて消えて
05.夜を歩く
06.それぞれの迷路
07.明日の墓場をなんで知ろ
08.月に手を伸ばせ
09.合図を送る
10.あちらこちらイノチガケ
―Guitarists―
吉野寿