ジャマイカの至宝=アーネスト・ラングリン。スカ、ロックステディ、レゲエと、ジャマイカ音楽の発展における最重要ギタリストの名演を、プレイリストでお届けしよう。
文/選曲=編集部
ジャマイカの至宝=アーネスト・ラングリンは、スカ、ロックステディ、そしてレゲエと、ジャマイカ音楽の発展における最重要ギタリストである。
そんなラングリンの名演を集めてみたのが上記のプレイリスト。
軽快なロックステデイあり、ソウルフルなレゲエあり、涼やかなジャズありと、真夏にぴったりなので、ぜひとも楽しんでほしい。
以下、ラングリンの大まかなバイオグラフィをお送りするので、プレイリストが気に入ったという人はご一読あれ(内容はギター・マガジン2017年9月号からの抜粋)。
アーネスト・ラングリンの来歴
文=ワダマコト ※以下の文章はギター・マガジン2017年9月号からの抜粋です。
フジロックやブルーノート東京での公演など、近年もたびたび来日して現役っぷりを見せつけてくれた名ギタリスト、アーネスト・ラングリン。
1932年生まれというから、御年85歳、まさしくジャマイカ大衆音楽と共に歩んできた人生である。
そのキャリアの出発点は50年代。チャーリー・クリスチャンらの影響を受けたギター・スタイルで、リズム&ブルースやスウィング・ジャズ、メントなどを演奏し、頭角を現わすようになっていった。
ローランド・アルフォンソ(T.sax)、トミー・マクック(T.sax)、ドン・ドラモンド(Trombone)ら、のちにスカタライツへと発展する顔ぶれと共に残した1962年録音の『Jazz Jamaica From The Workshop』は、当時のジャマイカのジャズを生々しく伝えてくれる名作だ。ラングリンが身を置いたこんなシーンから、ジャマイカ独自のビート、“スカ”が産み出されたのだ。ラングリンが参加したセオフィラス・ベックフォード(vo,p)の「Easy Snapping」などを聴けば、アメリカ南部産の訛ったブギウギ・ビートからスカまでが地続きな様子がうかがえる。そう、まさにスカ誕生の瞬間に立ち会ったのがラングリンやスカタライツの世代だったのだ。
ラングリンは50年代からたびたび海外公演を行なっていたというが、1963年には一時ロンドンに渡り、ミリー・スモール(vo)の「My Boy Lollipop」をプロデュースし、スカの世界的な流行にも大きく貢献した。この際に、ロンドンでジャズ・ミュージシャンたちともセッションを経験しており、その卓越したギターは多くの共演者を驚かせたという。ジャズ・ギタリストとしても超一流の腕前。すでにスカやジャマイカの枠を越えた名ギタリストであり、名コンポーザーでもあったのだ。ちなみに、この63年あたりにリン・テイトがトリニダードからジャマイカにやってきているのもおもしろい符合だと思う。
ジャマイカ帰国後のラングリンの重要作は、何と言っても1966年の『Mod Mod Ranglin』だろう。
スカとロックステディの狭間の時期に、ギター・インストで歌い上げた名作だ。メロディのフェイクの仕方、トレモロ・ピッキング、コード・ソロ、効果的なミュート、すばしっこいパッセージなどなど、この時代のラングリン・スタイルの魅力を総括するような名演が聴ける。ストレートなジャズ・アルバムである『Guitar In Ernest』(1965年)を始め、ラングリンがフェデラル・レーベルに残したこの時代のリーダー作は、DUB STORE RECORD(国内レゲエ専門レコード店)からリイシューや発掘が進んでいるので、それらにもぜひ触れてみてほしい。その歌心と多彩な表現力にクラクラするハズだ。
60〜70年代にかけて、スタジオ・ワンのハウス・バンドがスカタライツからソウル・ヴェンダース、サウンド・ディメンションへと移り変わり、それと同時にサウンドもスカからロックステディの時代へ突入するが、ラングリンはギタリストとして、またディレクターとして多くのシンガーのバックに関わっている。そんな一方、インスト曲ではユニークなチャレンジをたくさん試みており、それらがまた新しい時代のサウンドへの架け橋となっていった。ジャズ、リズム&ブルース、ソウル、ファンク、ラテンなど、さまざまな新しいエッセンスを取り込んで見事に料理するアレンジの手腕にも注目すべきだろう。
それらと並行して、同郷のジャズ・ピアニストであるモンティ・アレクサンダーとの共演も何度か録音しており、ジャズ・ギタリストとしても最先端であり続けている。そんなコンビで作り上げた1976年の『Ranglypso』は、まさにこのふたりでしかあり得ない素晴らしいカリビアン・ジャズ・アルバムだ。
かたや、同年に録音された『Ranglin Roots』では、メロウ・ソウルやフュージョンの風も感じつつの最先端サウンド。ここでの弾き倒しっぷりもなにげにすごい。それらを経て、ジャマイカ・テイストとジャズが見事に融合した代表曲「Surfin」を産んだのが70年代末のこと。
80年代に入ってからは、ティミー・トーマス(vo)やベティ・ライト(vo)、ボビー・コールドウェル(vo)といったマイアミ人脈と作り上げた『From Kingston JA To Miami USA』なんて作品も残している。本当に驚くべき柔軟性だ。しかし、どんな曲を弾いても、どんなリズムをバックにしても、常にラングリンはラングリンであるというのも、またすごいではないか。
ジャズとリズム&ブルースをヒントにスカが生まれたように、その時代ごとのあらゆる刺激をジャマイカのグルーヴに反映させるというチャレンジを未だ続けているのがラングリンなのかもしれない。
近年も、フェラ・クティのアフロ・ビートを支えた名ドラマー、トニー・アレンとの共演作(『Modern Answers to Old Problems』)を始め、ラングリンの進化とチャレンジの旅は続いている。スカ誕生の原動力をいまだ体現するラングリンは、まだまだ刺激的な存在なのだ。
『Mod Mod Ranglin』 アーネスト・ラングリン
Dub Store Records JPN/DSR-CD-506