おそらく、地球上のほとんどのギタリストが一度はピックを手にした経験を持っていることでしょう。価格も安いため、“たかがピック”ととらえられがちですが、ここでは声を大にして“されどピック”と叫びたい! シンプルな分、本当にバリエーションが豊富ですし、運良く自分にぴったりのピックが見つかれば、間違いなくギターの上達スピードもアップするはずです。まずは、ピックの基礎情報をおさらいしていきましょう。
文=井戸沼尚也
ピックの三大要素①
形【Shape】
ピック選びの第一関門
“どの形を選ぶか!?”
ピックの形として最も一般的なものは「おにぎり形」(三角、トライアングルなどと呼ぶ場合もあります)と、「ティアドロップ形」です。それに加えて、より小型で細かいコントロールがしやすい「JAZZタイプ」(ジムダンロップのJAZZⅢというピックが大ヒットし、それに類する形がこう呼ばれるようになりました。ジャズ専用ではありません)が、現代の3大標準ピックといってよいでしょう。
さらに、マンドリン用ピックから転用された細長い「マンドリン型」や、「ホームベース型」、「丸型」といった変形の定番タイプに加え、近年では人間工学から考えられた雲の形のような「エルゴ・タイプ」など、さまざまな形のピックが開発されています。これらはすべて、形が異なることで握り心地や弦に当たる打面の広さ、深さが変わり、演奏性や音色に大きく影響します。
おにぎり/
トライアングル形
しっかりとしたグリップ感と、ピックが弦に当たる面積が大きくなりやすい点が特徴です。そのため、弦の抵抗が大きいコード・ストロークにもしっかり対応でき、バッキングとの相性抜群! また使用できる角が三箇所あるため、経済的でもあります。
ティアドロップ型
グリップ面はある程度の大きさを確保しながら、弦をヒットする先端部分は鋭角で、弦に当たる面積が小さく、素早く振り抜きやすいため、リード・ギタリストに好まれるタイプです。使える箇所は基本的には1箇所なので、非経済的な点がデメリットです。
ジャズ型
ティアドロップよりもさらに小型で、しなりも少なく、弦に当たる面積も小さくなるよう工夫されています。そのため速いパッセージも比較的演奏しやすく、ジャンルを問わずテクニカルなプレイヤーに好まれる傾向があります。
変形型
一口に変形型といっても、実際にはいろいろな形のものがありますが、どれをとっても主流とは一味違う弾き心地とサウンドを持っています。人とは違う自分だけのプレイ、サウンドを求める人は、ぜひ試してみてください。デメリットは、購入先が限られることと、一度ハマると他のタイプのピックではプレイできなくなることでしょう。
ピックの三大要素②
素材【Material】
ピックの達人を目指すなら、
素材にもこだわれ!
化学の進歩にともない、ピックに使用できる素材も年々増えています。素材によって、握った時のすべり具合、弦に当てた時のしなり具合、アタック音、サステインなどが大きく変わってきます。素材は、形状や厚さと同様に、演奏性やサウンドを決定する重要なファクターと言えるでしょう。自分の好みの素材を知っておくことは、最適なピック選び、ひいては自身のプレイ・スタイルの確立に欠かせない知識だということを、覚えておいてください。
セルロイド(セルロース)
硝酸セルロースをもとに開発され、1871年に米国で商標登録されたプラスチック素材。1960年代までのピックの主流で、現在でもクラシック・ロックやブルースには最適な素材として使われている。
ナイロン
1938年に商用化された合成化学繊維素材。当初はストッキングに使われて広く普及した。硬さや曲げ、圧縮に対する弾性に優れる。吸湿した際に強靭性が増すが弾力性は低下することを、汗かきさんは知っておきたい。
ポリアセタール
(ジュラコン/デルリン/セルコン)
1930年代より研究が進められた素材で、摩擦が低く、摩耗に強い。ピックに使われると“比較的減りにくいが、少し滑りやすい”ということになる。セラニーズ社の「セルコン」、ポリプラスチックス社による「ジュラコン」、デュポン社による「デルリン」は、この系統の素材。
ウルテム
1970年代に開発されたポリエーテルイミド(PEI)樹脂系エンジニアリング・プラスチック。1982年にGE社が「ウルテム」の商標を取得している。曲げ弾性率が極めて高く、多くのピック・メーカーが「爪の音に近い」、「べっ甲の使用感に近い」など、天然素材との類似性をアピールしている。
カーボネート
(ポリカーボネート、メタカーボネート)
炭素イオンを含む化合物の総称で、ポリカーボネート、メタカーボネートと呼ばれるものも、この仲間。透明度が高く、デザイン性に優れたものを作りやすい。ピックにした場合はクセがなく扱いやすい。
PPS
ポリフェニレンスルフィルド。1973年にフィリップス・ペトロリアム社により商品化されたもの。曲げ弾性率、曲げ強度などに高い数値を示し、ピックにした場合は適度にしなりつつ、硬質なアタックを持つ。
PVC(ポリ塩化ビニール)
19世紀前半に発明され、1930年代から商用利用されている素材。可塑剤の添加によって硬さを自由に調整できるので、ピックにした場合も柔軟性に優れるものから硬質なものまで様々。各メーカーのものを試してほしい。
アクリル
ポリマー/合成樹脂の一種。透明度の高い製品を生み出すことができる。航空機の一部や水族館の大型水槽に使われるほど衝撃に対して強靭で、曲げ弾性率も良く、ピックにした際には独特のカツンとしたアタックが得られる。
金属
フラットピックとしてはメジャーな素材ではないが、金属のピックが金属の弦に当たるアタック音を好む人もいる。使用される素材としては、ニッケル、ブラス、ステンレス、アルミ、銅、ジャーマン・シルバーあたりが多い。
べっ甲
古くからピックの素材としてはメジャーな、ウミガメ(タイマイ)の甲羅を用いた天然素材。独特なクリアなサウンドを持っており、ピックの素材としては最高のものの一つだが、タイマイの取引がワシントン条約で規制されていること、また加工が難しいこともあり、高額になってしまうのが難点。
木材
これまでのどの素材とも異なるアタックを持つ、天然素材。エボニー、ローズウッドなどの製品が市販されている。ナイロン弦のアコースティック・ギターで使われることはあるが、エレクトリック・ギターではそれほど普及していない。
タスク
人造象牙とも言われているが、素材の詳細はグラフテック社の企業秘密。ナットやブリッジ・サドルとしても使われ、ピックにした場合には本べっ甲に匹敵する強さと、この素材特有の周波数特性を持つと言われている。
ピックの三大要素③
厚さ【Thickness】
音色に大きな影響を与える“厚さ”を侮るなかれ!
ピックそのものが持つ音色を決定するファクターとして、侮れないのが厚さです。形状、素材はもちろんですが、この厚みによっても大きく音色が変化します。もちろん、握り心地や弦離れの感覚も変わりますから、演奏性にも大きく影響します。
一般的に、ピックは厚いほうが実音がしっかりと出て、太く、少しダークな音色になります。粒立ちの良い、安定したピッキングを望む人にはある程度厚いほうが向いているでしょう。一方の薄いピックは、実音は小さく細いですが、華やかな倍音が出て、生で弾く場合にはピック自体が鳴る音も加わり、全体として明るい音色になります。また薄いピックは握り込む力を変えたり、つまむ指を3本にしたりすることで音色のコントロールがしやすいため、音数は少なくても音の表情を重視したい人に好まれる傾向があります。どちらにしても弦のゲージとの相性もありますので(例えば極太弦に極薄ピックでは、ピックがしなりすぎて弾きにくい)、弾きやすさとサウンドのバランスが自分に合っている厚さを探しましょう!
『自分にぴったりのピックが見つかる本』
本記事が収録された書籍『自分にぴったりのピックが見つかる本』には、ギタリストの必需品であるピックにまつわるあらゆる情報が詰まっています。この本を読めば、自分のプレイやサウンドを向上させてくれる生涯の相棒に出会えるかも!?