今回のテーマはFコードの攻略法です。ギター初心者の誰もがつまずく、あの難関のFを楽に押さえられるようになるためのコツを紹介します。
文・図版作成=ギター・マガジン編集部
はじめに
まずFコードの押さえ方はこれです。いつもどおり、指板図と写真は上下左右が逆になっていますのでご注意下さい。
Fは人差指のセーハ(*)を必要とするため、初心者にとっては押さえるのが難しく、これに挫折してギターをやめてしまう人が昔も今も残念ながら多いようです。しかし練習をすれば、誰もが必ず押さえられるようになりますので、がんばりましょう。
*“セーハ”とは、同じフレット上にある複数の弦を1本の指で押さえることです。“バレー”とも呼ばれます。
今回の各項目の見出しは次のとおりです。
1:自分にも絶対できると信じる
2:親指をネックの「背」に置く
3:人差指では6・2・1弦の3本だけを押さえればよいことを意識する
4:人差指の「腹」ではなく「側面」で弦を押さえる
5:人差指は1フレットの近くに置く
6:中指・薬指・小指がとなりの弦に触れていないか確認する
7:6弦から順に押さえながら音を確認する
8:必要最小限の力で押さえる(脱力する)
9:ギターの弦の太さを調べる
10:ギターの弦高を調べる
付録:それでも挫折中の人へ~省略形のFで曲を楽しむ
1:自分にも絶対できると信じる
Fで挫折しないためにまず最初に大事なのは、「自分にも絶対できる」と楽観的に信じることだと思います。
初心者の中には、Fコードを押さえられない理由を「自分は手が小さいから」、「指の力がないから」、「ギターのセンスがないから」といったところに求める人もいるようですが、それはきっと間違いです。Fは、手の大きさや指の力やセンスにかかわらず、押さえられるようになります。
また、Fを最初から楽に押さえられる人はまずいませんので、「自分だけができないのではないか」と悩む必要もありません。誰もが練習の結果、Fを押さえられるようになったのです。
なお、Fが押さえられるようになった人の背景には、「この曲がどうしても弾きたい」とか「バンドをやりたい」とか「ギターが弾けるようになって同じクラスの○○ちゃんに一目置かれたい」などの強い動機があったとみて間違いありません。要するに動機と楽観性と少しの根気があれば、Fはたいした「壁」ではないわけです。
以上は精神論ではありますが、こうしたイメージを持つことが、Fを攻略するためにたぶん役立つと思うので、最初に書きました。
2:親指をネックの「背」に置く
具体的な説明に入ります。
まずFを押さえて(あるいは押さえようとしてみて)下さい。そしてその時の左手の親指の位置が、次の青い○印の写真と赤い×印の写真のどちらに近いかを確認して下さい。
○印の付いた写真は、親指をネックの「背」にあたる部分に置いたものです。この方法で押さえている人は、それでOKです。
×印の付いた写真は、ネックを握り込んだ結果、親指を6弦側に突き出す形になったものです。この方法ではFをしっかり押さえることが困難なので、このやり方をしている人は、ぜひ親指をネックの「背」に置く方法に変えて練習してみて下さい。
なお、ネックを握り込んでしまう理由の1つは、前後のコードにもあります。例えば次は、C-Am-F-G7というよくあるコード進行です。
写真を見るとわかるとおり、CとAmとG7の3つは、ネックを握り込む形でも押さえられるんですね。特にCとAmは6弦を親指でミュートする必要もありますので、必然的に左手はネックを握り込む形になります。しかし親指の位置を変えないままFに行こうとすると、そこで無理が生じます。
よってAmからFに移る瞬間には、親指の位置をネックの「背」に移動させるようにしてみて下さい。練習を重ねるうちに、意識しないでも親指が動くようになってくるはずです。
※クラシック・ギター専門でやっている人は、これらすべてのコードを、親指をネックの背に置く形で押さえる人も多いかと思います。
3:人差指では6・2・1弦の3本だけを押さえればよいことを意識する
セーハというと、「1本の指で全部の弦を押さえる」というイメージを持っている方も多いと思いますが、ことFに関しては、人差指でしっかり押さえればよいのは、6弦と2弦と1弦の3本だけです。なぜならば、5弦、4弦、3弦は別の指で押さえるからです。
次の図をごらん下さい。
指板図は、「人差指で6・2・1弦の3本を押さえてさえいれば、5・4・3弦はわりとどーでもいい」というイメージです。青い三角形は、そこはしっかり押さえなくてもかまわない、という意味で付けました。また、ネックの断面図は、人差指を内側に少し曲げてしまってもいい、ということを示しています。
そして次の図は、「人差指で6本の弦を全部しっかり押さえなければいけないのだ!」という「誤った」イメージです。
このイメージで練習していると、Fを押さえるために必要以上の力が入りがちで、肝心なところに力が入らなくなります。よって人差指のセーハは、先ほどの○印の写真のイメージで行なってみて下さい。
4:人差指の「腹」ではなく「側面」で弦を押さえる
次の写真は、Fを押さえている指を上側から撮影したものです。
人差指を斜めに傾けている(または横倒しにしている)点にお気づきいただけると思います。つまり人差指の「腹」ではなく「側面」で弦を押さえているわけです。また、人差指を少し内側に湾曲させていることも、この写真からおわかりいただけるでしょう。
次の写真は、Fを20秒ほど押さえたあとの人差指を撮影したものです。弦の痕(赤い筋)が指の側面についています。特に6弦、2弦、1弦を押さえていた部分に強く痕が残っています。
初心者の場合、人差指のセーハを、指の「腹」でやろうとする人も多いと思うのですが、実際には「側面」を使ったほうが力を入れやすいはずです。また指を湾曲させることにより、人差指の先端で6弦を、根元で2弦と1弦をがっちり押さえられるようになります。
5:人差指は1フレットの近くに置く
ギターのコードを押さえる時は、なるべくフレットに近い位置で弦を押さえるのが鉄則です。なぜならば、フレットから遠い位置で押さえると、弦がビリついてしまうことが多いからです。
次の写真はどちらもFを押さえたものですが、⚪︎印が付いたものは人差指が1フレットに近く、×印が付いたほうはナットに近い位置になっています。
当然ながら、○印の付いたほうが正解です。×印のついた写真の押さえ方では、他の指のコントロールも困難になります。
Fの指の形を作るのに必死になっていて、気がつくとナットに近いところで押さえている、なんてこともあるので、こうした点も最初は注意するようにして下さい。
人差指のセーハに関するノウハウは以上です。
6:中指・薬指・小指がとなりの弦に触れていないか確認する
人差指のセーハがちゃんとできていても、他の指がだめだと、Fはきれいに鳴らせません。例えば次の写真のうち、⚪︎印がついた方は中指・薬指・小指を立てた押さえ方です。一方、×印が付いたほうは、4弦を押さえている小指が寝てしまい、となりの3弦をミュートしてしまっています。
中指・薬指・小指は、最初のうちは意識して立てるようにしましょう。
7:6弦から順に押さえながら音を確認する
以上を試してもまだFがきれいに鳴らない人は、6弦から1本ずつ指を足していき、各段階で音が確実になっているかどうか、またミュートされてしまう弦がないかどうか、を確認してみて下さい。次の図の①〜⑤がその手順です。
もし①〜⑤のどこかで音が詰まるようなことがあったら、押さえている弦が全部きれいに鳴るように、指の力や角度を変えてみて下さい。
8:必要最小限の力で押さえる(脱力する)
一般論ですが、どんな楽器でも、あるいはスポーツでも、うまい人は必要最小限の力しか使っていません。
そこでFがとりあえず鳴るようになったら、今度はどこかに無駄な力を入れていないかを自分で考え、全体としてなるべく少ない力でFを押さえるようにしてみて下さい。
どこに無駄な力が入ってしまうかについては個人差がありますので、ここで具体的に指摘することはできませんが、とりあえずはしっかり鳴っている弦を押さえている指の力を少し緩めても、なおちゃんと鳴っていれば、そこは少し力を抜いて良い、ということです。とにかく色々と試してみて下さい。
9:ギターの弦の太さを調べる
最初のうちは誰でも、Fを押さえると指が痛くなると思います。しかし、その痛みのつらさがちょっと尋常ではないと感じたら、自分のギターに張られた弦の太さを調べてみて下さい。ひょっとしてそのギターには、初心者には無理なほど太い(固い)弦が張られているかもしれません。特に、友人や兄弟のギターを借りて練習している人は、ギターの持ち主に弦の太さを確認してみましょう。
また、自分のギターがアコースティック・ギターならば、誰かからエレクトリック・ギターを借りてFを押さえる練習をしてみて下さい。エレクトリック・ギターはたいていの場合、アコースティック・ギターよりも細い(柔らかい)弦が張られていますので、難なくFが鳴らせるようになる可能性が高いです。
そして自分が使っている弦が太すぎることがわかった場合は、それよりも細い弦を買ってきて弦交換を行ないましょう。
※アコースティック・ギターにエレクトリック・ギター用の細い弦を張って練習するのも最初のうちは有効かもしれません。ただしアコースティック・ギターは、ある程度太い弦を張ってこそ、本来の(メーカーや製作者が意図した)良いサウンドが鳴らせる、ということも一応知っておいて下さい。
10:ギターの弦高を調べる
ついでに自分のギターの弦高が高すぎないかどうかも調べてみましょう。
弦高とはフレットから弦までの距離のことで、この距離が長すぎると、弦を押さえるのに多くの力が必要になってしまいます。
なお、普通に売っているギターで、Fが押さえられないほどひどい作りのものはないと思いますが、筆者は、友人がゴミ捨て場から拾ってきたギターを弾かせてもらったことがあり、それはもうナットが高すぎる上にネックが反っていて、とても弾けるものではありませんでした。
本当にいつまでたってもFが押さえられない場合、その原因はひょっとするとギターのほうにあるかもしれませんので、一度自分のギターを詳しい人に見てもらいましょう。そして弦高調整をしたり、お店で多少のリペアを施してもらうだけで、自分のギターがすごく弾きやすくなることもあります。
付録:それでも挫折中の人へ~省略形のFで曲を楽しむ
Fが押さえられない人の主な悩みはたぶん、Fそれ自体が鳴らせないことではなく、好きな曲を弾けるようになりたいのにFが出てくるから曲全体を弾き通せない、というところにあるのではないかと思います。
その場合は、とりあえず好きな曲を弾き通すために、次の図のようなFの省略形を使ってみましょう。
また、Fには、6弦1フレットを親指で押さえる方法もあります。これは初心者向きではないかもしれませんが、これでもOKなのだ、という意味で示しておきます。図の中の“T”は親指(Thumb)を示しています。
§
以上のノウハウを全部実行しつつ練習したのにいつまでたってもFが押さえられない、という人は、身のまわりでギターを弾き続けている友達や家族に頼ってみて下さい。自分がFを押さえているところを相手に見てもらい、「この指でここを押さえよう」、「この指はここで曲げよう」などと、細かい点を手取り足取りで指導してもらうと、どこがまずかったのかがすぐにわかるはずです。
……その時ついでにその相手に、Fが押さえられなかった頃のことを聞いてみるのも面白いでしょう。その人はたぶん、鉄棒で逆上がりができず、浮き輪なしでは泳げず、補助輪なしでは自転車に乗れなかった子供時代を回想するように、Fが押さえられなかった頃の自分について語ってくれると思います。あるいは、そんな昔の「ささいなこと」は、まるっきり覚えていないかもしれません。
そんなわけで、Fはギターを始めた人の誰もが最初にぶつかる「壁」ではあるのですが、それは本当に薄っぺらい壁です。逆上がりや水泳ができる方ならば、誰もが克服できます。また自転車の運転と同じく、一度身につけてしまえば、それはもう一生ものになります。
次回は、色々なコードにおいて不要な弦をミュートする方法を詳しく説明する予定です。
本講座の関連コンテンツ
指板図くんのギターコードブック
コード名を選ぶと指板図が表示されて、音も鳴らせる便利なWEBアプリ。弦を押さえる指の指定やコードの構成音も表示されるので、初心者には特にお薦めです。チューニング・モードもあり!
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*本アプリはパソコン推奨です。
初心者だって大丈夫! コードが自分で作れちゃう! 指板図くんのギター・コード講座
本講座を書籍化した本です。オールカラーで144ページ。電子書籍もあります。
【CONTENTS】
◎コードとは?コード進行とは?
◎Cの構成音と、いろいろな押さえ方
◎C6、C7、C△7の構成音と、いろいろな押さえ方
◎Cメジャー・スケールを覚えよう
◎ルートとは?度とは?
◎コードの構成音一覧
◎三和音とは?
◎四和音とは?
◎テンション・コードとは?
◎omit3とは?add9とは?sus4とは?
◎分数コードとは?
◎続・分数コードとは?
◎コードは平行移動で覚えよう
◎続・コードは平行移動で覚えよう
◎フレット数の書かれていないコード・ブック
◎続・フレット数の書かれていないコード・ブック
◎コード・フォームを自分で作る
◎続・コード・フォームを自分で作る
◎自分独自のコード・フォームを作る
◇巻末スペシャル:Fコードの押さえ方と攻略法
◇付録:いろいろ確認できる4つの指板図!