AB’S 、山下達郎、角松敏生 、松原みき 、パラシュート…etc。 シティ・ポップの名曲を彩った、ファンキーでキラキラ、ちょっぴり切ないカッティング・ギター。 その頻出ギター・コード・フォームを一挙紹介! 実際に使われている楽曲を聴きながら、響きも確認しよう!
解説=ピュアトーンミュージック
※本記事はギター・マガジン2019年4月号の特集『シティ・ポップを彩った、カッティング・ギターの名手たち。〜昼下がりのメロウ・グルーヴ篇〜』の一部を抜粋・再編集したものです。
m9th ── キラめく切なさ。
シティ・ポップならではの都会的な切ない楽曲で多く使用されるのがマイナー9thコードだ。
マイナー・コードのトライアドにトップ・ノートとして9th音を加えたのがこのコード・フォーム。サウンドの特徴は4弦がルートとなるのでコードとしての安定感を保ちつつ、トップ・ノートがテンション音になることからバランスのよいモダンな響きとなる。
村田和人「So Long,Mrs.」(アルバム『ひとかけらの夏』収録)で登場。
『ひとかけらの夏』 村田和人
m9th ── 都会の響き。
もうひとつのマイナー9thのバリエーションとしてはずせないのがこの形。
5弦ルート、2&3弦がそれぞれ9th&7thで、テンション感が強い。5弦のルートと4弦の短3度だけでマイナー・コードの響きが完成されているのも特徴だ。非常にキレイな音の積み重ねとなるので、ソフトなニュアンスのサウンド感を持つ。
芳野藤丸がONE LINE BAND「YELLOW MAGIC」(『YELLOW MAGIC』収録)やソロ作「Who Are You」(『YOSHINO FUJIMAL』収録)で愛用。
『YELLOW MAGIC』 ONE LINE BAND
『YOSHINO FUJIMAL』 芳野藤丸
△7th ── 明るくてモダン。
シティ・ポップでは△7thコードが多用されるが、その代表的なフォームがこちら。
3弦ルート、2弦3rd、トップ・ノートの1弦がメジャー7th。7th音の煌びやかさが強調されてシティ・ポップならではのモダンなニュアンスが強く出せる。また、2&3弦のセーハを同一フレットの4弦まで伸ばすバリエーションもある。
角松敏生「If You…」(『AFTER 5 CLASH』収録)、AB’S「Fill the Sail」(『AB’S』収録)などで登場。
『AFTER 5 CLASH』 角松敏生
『AB’S』 AB’S
メジャー・トライアド ── マイナー7thでもOK。
高音弦を使ったメジャー・トライアドの代表的フォーム。松任谷由実「真珠のピアス」(『PEARL PIERCE』収録)で登場。
3弦ルート、2弦3度、1弦5度というキレイなボイシングで、コードの安定感としては抜群のサウンドを演出する。人差指の押弦が1弦となるので、他弦をミュートしにくいという側面も。
また、マイナー7thのフォームとしても使用され(3弦3rd/2弦5th/1弦7th)、松田聖子「~南太平洋~サンバの香り」(『SQUALL』収録)などで聴ける。
『PEARL PIERCE』 松任谷由実
『SQUALL』 松田聖子
△7th ── 海辺をドライブ。
△7thの定番フォームとして欠かせないのがこちら。
4弦のカッコがルートになるが、ルートを押弦せず1~3弦のみで弾くことも多い。4弦からのボイシングは1度から7度までがキレイに積み上がっているので、ピアノ的で素直な響きが特徴だが、押弦がやや難しいので注意が必要。
山下達郎「LOVELAND, ISLAND」(『FOR YOU』収録)や野口五郎「スクランブル・エッグ」(『ON THE CORNER』収録)など。達郎の大名曲「SPARKLE」(『FOR YOU』収録)の冒頭もほぼコレ。
『FOR YOU』 山下達郎
『ON THE CORNER』 野口五郎
メジャー・トライアド ── 何だか落ち着くね。
メジャー・コードの3和音のみを使ったトライアドの最も代表的なフォーム。
親指で6弦をミュートするフォームだが、無理がなく非常に押さえやすい。4弦&1弦がルートになり、コード感を強く出すことができる。3本の弦を使ったカッティングでは4弦を発音させない場合も。
山下達郎「LOVELAND, ISLAND」(『FOR YOU』収録)、スペクトラム「Motion」(『オプティカル・サンライズ/スペクトラム2』収録)、パラシュート「COMMUNICATION」(『6 Kinds 6 Sizes』収録)で登場。
『FOR YOU』 山下達郎
『オプティカル・サンライズ/スペクトラム2』 スペクトラム
『6 Kinds 6 Sizes』 パラシュート
9th ── THEファンキー
シティ・ポップの中でもファンクやブルース系の楽曲で多用されるのがこちら。
5弦ルート、4弦3度という低音域の安定感と、2弦9度、3弦7度というテンション感の強さの組み合わせで独特な響きを持ったコードだ。シティ・ポップでは、キメで一瞬入れたりするなど重宝されている。先で紹介したマイナー9thコードの3度(4弦)が半音上昇した形だ。
チャーの「THRILL」(『THRILL』収録)で登場。
『THRILL』 Char
7(♯9)th ── ジミヘンもシティ?
俗にジミヘン・コードとも呼ばれるフォーム。
他の9th系コードと同様5弦がルートとなるが、大きな特徴は4弦の長3度とと2弦♯9th音が半音でぶつかっている点だ。これにより、不協和音的なニュアンスを持っている。ロックやブルースで多用されるが、シティ・ポップではマイナー系楽曲のセクションの変わり目やキメなどでも効果的に使われる。
チャーの「THRILL」(『THRILL』収録)、寺尾聰「ルビーの指輪」(『Reflections』収録)で登場。
『THRILL』 Char
『Reflections』 寺尾聰
m7th ── メジャーでも可。
マイナー7thの最もスタンダードなフォームから、ルート音(5弦)をはずした形。1~4弦で統一したカッティング・フレーズでよく見られる。親指でネックを握り込むスタイルで押弦しやすいので、使用頻度は高いだろう。
松原みき「ウィークエンドは軽い病気」(『Cool Cut』収録)で登場している。
また、2弦をルートとした場合は、メジャー・コードのフォームとしても使用されることも多い(4弦3rd/3弦5th/2弦ルート/1弦5th)。
『Cool Cut』 松原みき
6(9)th ── 半音で動くのも◎
メジャー系のオシャレでポップな楽曲で登場することが多いフォームで、ジャズやフュージョンでも使われる。
5弦がルートになるが、カッティングでは低音弦を省略することが多いので、1~4弦や1~3弦のパターンがよく見られる。トップ・ノートの1弦は5度で、2弦が9度、3弦が6度というボイシングが特徴だ。
芳野藤丸「Who Are You?」(『YOSHINO FUJIMAL』収録)のフレーズのように、半音で動くアプローチもよく見られる手法。
『YOSHINO FUJIMAL』 芳野藤丸
ギター・マガジン2019年4月号
『シティ・ポップを彩った、カッティング・ギターの名手たち。〜昼下がりのメロウ・グルーヴ篇〜』