マーティンの代表モデル、D-28の歴史と愛用ギタリスト マーティンの代表モデル、D-28の歴史と愛用ギタリスト

マーティンの代表モデル、D-28の歴史と愛用ギタリスト

今さら人には聞けないアコギ名器の常識。まずは、誰もがその名を耳にしたことのある、D-28をご紹介しよう。上写真はジミー・ペイジだが、ほかにも多くのレジェンド級ギタリストがその音色に魅了されてきた。そんな歴史的名器、ギタリストであれば基本情報くらいは知っておくべきだろう。また、本特集の初回であるため、マーティンの型番についても少し解説をしておいた。以降の参考にしてほしい。

文=久保木靖 Photo by Michael Ochs Archives、Nigel Osbourne/Redferns/Getty Images


スティール弦の導入で“フォーク・ギター”を発明

ギターと言えばヨーロッパ産の“クラシック・ギター”が一般的だった19世紀から20世紀初頭にかけて、アメリカを拠点としたマーティン社は、ボディ・サイズの大型化とスティール弦の採用という一大改革を敢行した。大袈裟でも何でもなく、これがいわゆる“フォーク・ギター”の起源である。

そもそもマーティンにそうさせたものとは?

スティール弦のルーツは、黒人奴隷たちが自作のシガー・ボックス・ギターに張った鉄線とも、マンドリンやバンジョーの鉄弦とも言われているが、いずれにせよ、ブルースやカントリーといったアメリカ音楽の発展とともに、大音量化が求められたからだ。加えて14フレット・ジョイント仕様の誕生により、それまで一般的だった12フレット・ジョイントに比してハイ・ポジションのプレイアビリティが格段に向上した。スティール弦の張力に耐え得るボディにするために、Xブレイシングを考案したのもマーティンだ。

アコースティック・ギターの世界標準、D-28

14フレット・ジョイントの1930年代製マーティンD-28
14フレット・ジョイントの1930年代製マーティンD-28。

今回紹介するD-28は、そんなマーティン・ギターの中でも“最もマーティンらしい”と言われるもので、まさにアコースティック・ギターの世界標準。エレクトリックだったら、テレキャスターといったところだ。

1931年に製造が始まり、1934年には先述した14フレット・ジョイントが導入された。トップ=スプルース、サイド&バック=ローズウッド、フィンガーボード=エボニーといった基本仕様は現在まで踏襲されてるが、ポジション・マークがスノーフレークスからシンプルなドットとなるなど、ディテールは幾度かの変遷を経ている。インレイやバインディングといった装飾を“ほどほど”にし、実用性重視の路線を突き進むことでプレイヤーからの絶大な信頼を得ていった。

現行品の価格は30万円前後。ビンテージ・モデルは年式や状態によって異なるが、1950年代以前のものは100万円を超えることが多い。

さて、ここでマーティン・ギターの型番の意味をざっと説明しておこう。ハイフンを挟んで左側は「ボディの形状」を表わしており、[0(シングル・オー)→00(ダブル・オー)→000(トリプル・オー)→D(ドレッドノート)]と大きくなっていく。“ドレッドノート”は“戦艦”の意味で、その大型ボディ・サイズから音量が稼げると同時に、低音が豊かに響くという特徴がある。

一方、右側の数字は木材や装飾を表わす「スタイル」で(発売当初は価格でもあった)、例えば、“18”はマホガニーのサイド&バック、“28”はスタンダードなローズウッドのサイド&バック、“35”は3ピース・バック、“45”は豪華装飾を施したプレミアム・グレード、といった具合だ。つまり、D-28の場合は、“ボディ・サイズが最大で、サイド&バックの木材がローズウッド”ということ。

D-28をどう活かすか、それはギタリスト次第!

D-28のクリアな高音域と迫力あるベース・ラインを重視したのはドク・ワトソンやクラレンス・ホワイト、トニー・ライスといったブルーグラス界の超絶ギタリストたち。また、全弦を同時に鳴らした際のバランスの良さは、弾き語りの際にストロークを行なうニール・ヤングやジョニ・ミッチェルといったシンガーソングライターに愛された。

昨今の叩き系のルーツ的存在であるマイケル・ヘッジスは、ソロ・ギターとの相性の良さを証明。さらにロック界では、ジミー・ペイジがレッド・ツェッペリン『IV』以降のメイン・アコースティックとして使ったことで知られている。

『ギター・マガジン2021年3月号』
特集:ギター・ヒーローが愛した、アコースティックの世界。

クラプトン、デュアン、フルシアンテ。キースにピートにジョン・メイヤー。Jマスキスにガルシアにハウ。コイツら全員、アコギもヤバい!!!