1965年の欧州ツアーで、現地の人も気になっていたであろう“ウェスの愛用機材”。ここでは彼がヨーロッパの舞台で使ったギターやアンプについて紹介しよう。
文=久保木靖 Photo by Takashi Hoshino(ギター・マガジン2008年1月号より)
ハートのインレイが印象的なギブソン L-5 CES
ヨーロッパ・ツアーへ旅立つ1年前、ヴァーヴへ移籍して商業的な成功を収めたウェスをギブソンは放っておかなかった。エンドース契約を結ぶと、さっそくウェスのために2本のL-5を製作。そのうちの1本が、DVD『Jazz 625』やDVD『Live In ’65』、Blu-ray『The NDR Hamburg Studio Recordings』などで見られる、通称“ハートのL-5”だ。
一般的なL-5 CESとの最大の違いは、ピックアップがフロントのハムバッカー(PAF)1基のみということ。これはリアをほとんど使用しないウェス本人の希望によるもので、スウィートで芯のあるサウンドはこのピックアップと親指ピッキングから生み出される。また、ウェスが親指ピッキングをする際、親指以外の指をボディ・トップに固定するが、その部分を摩擦から保護する目的で、ウェスの名が印字されたハート型のインレイが配置された。このハートのL-5はウェスの死後に行方不明となり、1995年に発見されたときには火事による大きなダメージを受けていたが、その後、ギブソンが2年以上の月日を費やして修復している。
ちなみに、ギブソンが作った2本目のL-5は”ダイアのL-5”。2本とも金属製のチューン・オー・マティック・ブリッジが採用されているのが特徴だ。これはウェスが明るい(鋭い)トーンを好んだためとも、より正確なチューニングを望んだためとも言われている。
ウェスのアンプの代名詞、スタンデル Super Custom XV
アンプは1965年に発売されたばかりのスタンデル社のSuper Custom XVの使用が見て取れる。これは同社のThe Custom Lineの最上位機種であり、トランジスタ(ソリッド・ステート)回路で約70Wの出力を持ちJBL D-130-Fという15インチのスピーカーを1基搭載したもの。大きさはフェンダーのTwin Reverbとほぼ同じだが、重量は23kgとTwin Reverbに比して6kg軽い。ヨーロッパ・ツアーを敢行するにあたり、それまで使用していたブラック・フェイスのTwin Reverbより軽量のものを選んだ格好だ。
ちなみに、アンプ製造会社として始まったスタンデルだが、現在はマイクロフォンやケーブル、ヘッドフォン、ヘッドフォン・アンプなども扱う総合音響機器メーカーとして展開している。
Standel Co.
主にアンプを扱う。
Requisite Audio Engineering
主にマイクロフォンやケーブルを扱う。
RAAL-requisite
主にヘッドフォン、ヘッドフォン・アンプを扱う。
作品データ
『The NDR Hamburg Studio Recordings』
キングレコード/KKJ-1049(CD+Blu-ray)、D-78078(LP+Blu-ray)/2021年3月20日リリース