マーク・リーボウのセラミック・ドッグ最新作『HOPE』で使用した機材について、本人に解説してもらおう。また、本作でも活躍した近年の愛器である1960年代製ビンテージ・ジャガーも特別に掲載する。
インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成/文=福崎敬太 ギター写真=星野俊
JAMペダルズはグレイトなものを作っているよ。
では『HOPE』の使用機材について聞かせて下さい。まずギターはどういったものが活躍しましたか?
このアルバムでは様々なギターを使っていて、ジャガーはもちろん、ライブで頻繁に使っている50年代のギブソンL-48も弾いたよ。セラミック・ドッグでジャガーをプレイする時に、ハイエンドがかなり強いと感じることがあってね。そういう時に1弦が.012~くらいのヘビーな弦を張ったL-48を使えば、ジャズっぽくてトレブリー過ぎない落ち着いたパレットのサウンドになるんだ。あとは、シャザードが所有しているテレキャスターも借りて使った気がする。ほかにも50年代に作られたギルドのAristocrat(M-75)も弾いているね。P-90っぽいピックアップが載ったセミホロウ・ボディで、なかなか面白いサウンドだったよ。
「The Activist」のオクターブ奏法や「Bertha The Cool」のジャジィなプレイはL-48ですか?
たぶんそうだったと思うね。
アンプは何を使いましたか?
僕は基本的にフェンダーのアンプを使うようにしていて、デラックス・リバーブを特によく使っている。でも、このアルバムではフェンダーの12インチ・スピーカー・キャビネットとプリンストン・リバーブをヘッドとして組み合わせて使ったと思う。アンプ・ヘッドだけを僕の側に置いておきながら、スピーカーだけ別の部屋で鳴らすこともよくやるんだ。ギターに長いケーブルを挿して遠く離れたアンプにつなぐというやり方は好きじゃなくてね。アンプ・ヘッドまでは最短の距離でつなぎ、ロー・インピーダンスのスピーカー・ケーブルを使ってスピーカーにつなぐのが僕のやり方だ。
活躍したペダルについては覚えていますか?
よし、何を使っていたか思い出してみよう。リバーブ/ビブラートのペダルは、ストライモンのFLINTってヤツだね。短めのスラップバッグのディレイに関してはメモリーマンを使っている(おそらくエレクトロ・ハーモニックスのMemoryman 550TT)。これはエコーとしての機能以上にシグナル・プロセッシングの仕方が素晴らしくて、ずっと使い続けているものだね。あと、ストライモンのTIMELINEも重宝したな。そしてワウはJAMペダルズってブランドのもの(WAHCKO)だ。ワウってどれがグレイトかを普段はあまり考えない類のものだと思うのだけど、JAMペダルズのものはかなりグレイトなんだよ(笑)。
歪みは何を使いましたか?
ディストーションについては、アナログマンのKing of Toneを使ったね。これはオーバードライブ/ディストーションであって、ファズっぽいものとは違うんだ。
アナログマンのオーバードライブ/ディストーションをメインに使い、アンプのボリュームをどの程度を上げるかでバリエーションを作っている感じですか?
だいたいそんな感じだね。でも、時にはほかのオーバードライブを使うこともあって、ユニオン・チューブ&トランジスターのBuzz Bombを使っていたり、ほかにもJAMペダルズのお気に入りのものを使っている。残念ながら今僕のクローゼットにはないようだけど、JAMペダルズはけっこうグレイトなものを作っているよ。
セラミック・ドッグでは必ずニーヴのプリアンプ使っている。
ソロやほかのセッション現場とセラミック・ドッグの制作で、サウンドの作り方や機材の準備に違いはあったりするのでしょうか?
それはあるね。セラミック・ドッグでは必ずニーヴのプリアンプ使っていて、このサウンドは僕らにとって大切なポイントだ。マイクの使い方にもけっこう気を使っているけど、そこら辺に関しては僕の得意な分野ではないかな。あと、プロデュースをしてくれたランドール・ダンはホットなサウンドにさせるのが好きだから、サウンドを全体的にプッシュしてくれている。ある意味、彼も秘密兵器だね(笑)。
「B-Flat Ontology」から「Nickelodeon」へ切り替わった際、ギターの音がより目の前に近づいてきた印象がありました。マイキングなど、レコーディング・エンジニアリングの部分でのこだわりを聞かせて下さい。
僕はギターにはSM57か58のマイクを使うようにしている。多くのエンジニアがリボンマイクみたいなものも加えて使うことがあるけど、50年代や60年代のクラシックなサウンドも出せるという点でそういったオプションもまぁ悪くはないテクニックだよね。ただ、エンジニアたちはその場で作られたサウンドを完璧に再現させたいと思っているようだけど、僕の作品ってアンプが作り出した音を完璧に再現することはポイントじゃないんだ。レコーディングって“記録すること”を指すわけで、僕はそういう考えで、現場の空気を再現させたいんだ。50年代や60年代のジャズやロックのサウンドってそこを重要視していたわけだし、そもそも極上のノイマンのマイクなんてあったとしてもギター・アンプなんかに使っているわけはなかったからね。
ギターやペダル、アンプなど、ギアがインスピレーションの源になる時はありますか?
イエス、それは絶対あるよね。どのギターも何かしら素晴らしいところがあって、むしろそのギターが何をするうえでグレイトなのか探してしまう。何度もプレイしてバッチリ弾けたフレーズなのに何かがおかしいと思った時って、多くの人が“なんか今日は上手くプレイできないな”と考えてしまう。でも、そういう時ってサウンド的にシックリきていないことのほうが多くて、ギターやマイク、ペダルを変えてみるとプレイしやすくなったりするんだ。プレイして違和感がある時の原因は、9割はサウンドだよ。逆にサウンドがバッチリだったらついついプレイしたくなってしまうもので、ギターが何をプレイするべきか教えてくれるものなんだよ。
Marc Ribot’s
c.1963 Fender Jaguar
最新作『HOPE』でも使用された、近年のトレード・マーク=フェンダー・ジャガー。1963年後半〜1964年前半頃の個体で、ボディの剥がれなど貫禄たっぷりの1本だ。こちらは2018年7月の来日公演時に撮影したもので、ナット下にピエゾ・ピックアップが増設されていた。左手のノイズを含めたサウンドを出したい時にピエゾを選択するようで、アウトプットは別途ヘッド裏に設置されている。そのほか改造ポイントは特になく、おもにフロント・ピックアップを選択して使用しているようだ。
作品データ
『HOPE』
マーク・リーボウのセラミック・ドッグ
P-VINE/PCD-25327/2021年6月25日リリース
―Track List―
01. B-Flat Ontology
02. Nickelodeon
03. Wanna
04. The Activist
05. Bertha The Cool
06. They Met In The Middle
07. The Long Goodbye
08. Maple Leaf Rage
09. Wear Your Love Like Heaven
―Guitarist―
マーク・リーボウ