GAMECHANGER AUDIO未来のスタンダードを書き換える革新と狂気のインテリジェンス GAMECHANGER AUDIO未来のスタンダードを書き換える革新と狂気のインテリジェンス

GAMECHANGER AUDIO
未来のスタンダードを書き換える革新と狂気のインテリジェンス

洗練されたデザインとプレイヤーの創造力を刺激する独創的なサウンドで、ブランド創立から数年で世界から注目されるブランドへと成長を遂げたGamechanger Audio(ゲームチェンジャー・オーディオ)。シーンに新たな価値観を提示してみせたユニークな製品はどのように生み出されたのだろうか? 革新性と狂気の知性を併せ持つ気鋭のエフェクター・ブランドの魅力を紐解いていこう。

解説=今井靖 編集=尾藤雅哉 撮影=星野俊

※本記事はギター・マガジン2021年11月号に掲載された『GAMECHANGER AUDIO 未来のスタンダードを書き換える革新と狂気のインテリジェンス』を再編集したものです。

HISTORY
飽和したエフェクター産業への強烈なカウンター・アクション

設立後からわずか数年の間に、世界から熱い注目を集めるまでに成長したGamechanger Audio。ここでは未知なる可能性にチャレンジし続けるブランドの歩みを振り返ってみよう。

左からディジス、クリスタプス、マルティンス、イルヤ。“ラトビアの媒体でインタビューを受けた時に、アーティストっぽくキメて撮影した写真だよ”とイルヤ談。

高度な技術と前衛的な音色、造形で魅せるアート・ギミック

 “この世にあるほとんどのギター機材は「退屈」だね”──確信を込めてそう言い放つイリヤ・クレメンスからすれば、自らが立ち上げたGamechanger Audioの世界的な成功ですら、積み上げたロジックの単なる帰趨(きすう)に過ぎないのだろう。

 高度なエレクトロニクス、アバンギャルド・サウンド、そして造形で魅せる優美なアート・ギミック。それらすべてを完璧に整合したまったく新しい価値への探求は、この刺激的なギア・メーカーにおいて創業時から変わらぬたったひとつの推進力である。

 ブランドのプロダクト・デザイナーであるイリヤ・クレメンスは、幼少期をラトビア共和国の首都リガで過ごした。旧共産圏から独立して間もない母国に新たに広まった西側カルチャーの中でも、特にカントリーやロカビリー、ロックンロールといったアメリカン・サウンドに強く傾倒し、16歳になる頃には地元のロカビリー・バンドでプロとして演奏をするレベルになっていたという。

 やがて本格的に音楽を勉強するためにICMP(The Institute of Contemporary MusicPerformance)ロンドン校へ渡った彼は、そこでステージ経験もほとんどない海外の若いギタリストたちが複数のストンプ・ペダルで音作りに奔走していたことを知る。

 ペダル文化圏のトラディショナルな価値観をあえて否定はしなかったものの、そうした機器の多くは初歩的な電子知識さえあれば簡単に構築できるものであり、似たり寄ったりのその見た目や、それらがもたらす“わずかなサウンドの差”を問題視する傾向に触れるたびに、彼の反骨心はクリエイティブな衝動を禁じ得なくなっていった。

世界にインパクトを与えた斬新な製品たち

 2015年、故郷のリガへ戻ったイリアはICMP在学中に蓄えたアイデアを形にするために、エレクトロニクス分野に精通した仲間を集め始める。最初に意気投合したのはメカニカル・エンジニアとして実績のある技術者、クリスタプス・カルバであった。続いて、クリスタプスの友人で経験豊富な回路設計者であるマーティンス・メルスキがチームに加わり、プロジェクトは本格的に動き出した。

 3人が目指したのは、“形状からそれがどんな効果をもたらすのか直感的に理解でき、そこからさらにインスピレーションを与えることのできるデバイス”の具現化だった。最初のプロトタイプが完成間際になった同年9月、4人目の仲間となる営業・財務担当のディジス・ドゥボスキースが加わり、彼らはついに自らのブランドGamechanger Audioを発足させる。

 そこからさらに試行錯誤を重ね、2017年のNAMM Showで大々的にお披露目されたその画期的なサンプリング・サスティナー・ユニットであるPLUS Pedalは、ピアノをイメージさせる真鍮製フット・バーの美しさ、正確かつ自由度の高いループ・テクノロジー、あらゆる創造性を刺激する音楽的なエフェクト・スプリードのすべてを兼ね備え、「Gamechanger(形勢逆転)」の名に恥じないインパクトとともに全世界に彼らの偉業を知らしめることとなった。

PLUS Pedal

 クラウドファンディングによって早々にPLUS Pedalの量産化の目処をつけた彼らは、その年の夏のNAMMの帰りに立ち寄ったケンタッキー州のゲスト・ハウスで、さらなる斬新なペダルのアイデアに遭遇する。そこに設置されていた電撃殺虫灯の耳慣れないスパーク・ノイズに触発されたクリスタプスが、高電圧なキセノン管の放電ノイズをディストーション・サウンドに利用したペダルを思いついたのはまさに僥倖(ぎょうこう)であった。

 翌2018年、PLASMA Pedalと名付けられたその未知の機構を持つ歪みペダルは、リリースと同時にブランドにかつてない富と名声をもたらしただけでなく、彼らのもうひとつの夢をも実現させることとなる。それは、かねてより敬愛していたジャック・ホワイトからのオファーであった。

PLASMA Pedal

 イリヤたちはジャックの運営するサード・マン・レコードと綿密なやりとりを数ヵ月続けた末、PLASMA Pedal にマーティンスが考案した新開発のオクターバーを搭載したコラボレーション・モデル、PLASMA COILを完成する。

PLASMA COIL

 PLASMA COILの開発過程で生じた充実した研究の成果が注がれたシリーズ最上位モデルPLASMA RACKが、それから1年も経たずに発表されたことは自然な成り行きだった。

PLASMA RACK

真にオリジナルであり、高度で美しく創造性に富むこと

 絶え間なく訪れるチャンスを短期間に次々に成功へと導く道程の裏には、ジャック・ホワイトのように、新たなプロダクトのたびに彼らに力を貸す最適な協力者がいたことも幸運であった。

 電気モーターでアナログ信号を生成するMORTOR SYNTH(日本では2021年末〜2022年に発売予定)には、ドローン・モーターのエキスパートや、ムーグのデザイン・チームとの連携があった。世界初の光学スプリング・リバーブ・システムを搭載したLIGHT PEDALの開発で地道な実験を続けた社内エンジニアのテオドール・ケリモフや、新作のBIGSBY Pedalをバックアップしたフェンダー社やビグスビー社もそうである。

LIGHT PEDAL
BIGSBY Pedal

 今や、世界中の名だたる大企業、技術者たちが、このブランドだけが実現し得る革新的プロダクトへの参画を惜しまない。こうした環境の成熟こそが、全方位の独創性を担保するために彼らがブランド発足当初から積み上げ続けたポリシー、そして技術力に裏付けられた妥協のないブレイン・ストリーミングの賜物なのだ。今後もそれは彼らの誇りとなって、自身の創作を支えていくことだろう。

 真にオリジナルであること。高度で美しく、創造性に富むこと。GamechangerAudioが切り開く地平には、飽和したペダル・エフェクター産業が忘れ去ってしまった“始まりの夢”が溢れている。まだ誰も知らないペダル・エフェクト……その未知数の可能性を、彼らだけは知っているのだ。

PLASMA COILを発表したサマーNAMMでのチーム写真。イリヤ曰く“NAMMで見かける人の多くは、ジーンズにメーカーのプリントがされたTシャツというイケてない姿なので、僕らはスーツでクールにキメることが多いんです。この時は、ジャック・ホワイトが主宰するサード・マン・レコードの本拠地であるナッシュヴィルで開催されたので、レーベルのイメージ・カラーである黄色と黒でコーディネートしてみました”とのこと。