ウッドストックの怪演を担った、ジミ・ヘンドリックスの1968年製ストラトキャスター ウッドストックの怪演を担った、ジミ・ヘンドリックスの1968年製ストラトキャスター

ウッドストックの怪演を担った、
ジミ・ヘンドリックスの1968年製ストラトキャスター

ギター・マガジン2022年7月号の表紙特集は『名手が明かす、最高のストラト・サウンドの鳴らし方!』。その中の目玉企画の1つ、「伝説に残る10本のストラトキャスター」では、10人のレジェンドたちの愛器の物語を、ギターの詳細なデータとともにお届けした。今回は特別に、ウッドストック・フェスティバルでジミ・ヘンドリックスがかき鳴らした“あのギター”の逸話を、抜粋してご紹介しよう。

文:fuzzface66 Photo by Nigel Osbourne/Redferns
※本記事はギター・マガジン2022年7月号『伝説に残る10本のストラトキャスター』から一部抜粋/再編集したものです。

Jimi Hendrix’s 1968 Fender Stratocaster

Jimi Hendrix's 1968 Fender Stratocaster
こちらがジミ愛用の68年製オリンピック・ホワイト・ストラト(実物)。ラージ・ヘッドに貼りメイプル指板のこの1本が、ストラト隆盛の歴史を大きく左右したのは間違いない。ウッドストック出演時にすでになかったリア・ピックアップ付近のピックガードのネジがそのままになっているほか、セレクター・スイッチのノブが欠落しているのも特徴。
年式1968年
入手の経緯不明(NYのマニーズ・ギター・ショップが関わっていた可能性あり)
材構成アルダー(ボディ)、メイプル(ネック)、メイプル(指板)
カラーオリンピック・ホワイト
使用作品/ライブ『Live At Woodstock』など、おもに1969年以降のライブ・パフォーマンスやスタジオ録音等
使用時期1968年10月頃~1970年9月(生前最後の公式ステージでも使用)
シリアル・ナンバー240981
推し名演ウッドストックでの「Star Spangled Banner (アメリカ国歌)」を含む怒涛のハイライト・メドレー(1969年)
おもな特徴ラージ・ヘッド&貼りメイプル指板

ジミヘン・スペックである
“ラージ・ヘッド&貼りメイプル指板”

 ストラトキャスターを広めた最重要人物といえばずばり、ジミ・ヘンドリックス。そう断言して差し支えないだろう。その短いキャリアでいくつかのストラトを使用したジミだが、中でも代表的な1本というと、やはりウッドストックで弾いたオリンピック・ホワイトのモデルが浮かぶ。モンタレー・ポップ・フェスティバルで燃やされたストラトも捨てがたいが、使用期間の長さやスペックのデータなど、語れることは白ストラトのほうが多い。それに、今では完全にヘンドリックス・スペックとして認識されている“ラージ・ヘッドに貼りメイプル指板”という仕様を持つことからも、やはり白ストラトがジミにおける“伝説の1本”と位置付けて問題ないはずだ。

 ジミの全キャリアを通して最も広く認知されているであろうステージ“ウッドストック・ミュージック&アート・フェア(1969年8月18日)”。決して色褪せることのないあの神がかり的な熱演と共に強烈な印象を残したのが、上写真で見られる1968年製の白いストラトキャスターである。

 かつてファンやコレクターの間で“White One”と呼ばれたこの白いストラトをジミが使い始めたのは、ウッドストックのおよそ10ヵ月前、1968年10月頃と言われている。最初に写真でとらえられたのは11月1日に行なわれたミュニシパル・オーディトリアムでのステージだった。それから生涯にわたってメイン・ギター(同スペックで同時期に使い始めたブラック・モデルとの2本体制)となり、ウッドストックはもちろん、エクスペリエンス時代の名演と言われるロイヤル・アルバート・ホールやLAフォーラム、サンディエゴ・スポーツ・アリーナ、晩年のバークレー・コミュニティ・シアター、アトランタ・ポップ・フェスティバル、マウイ島レインボー・ブリッジ等々、数多くのステージで使用され、公式ラスト・ステージとなった独フェーマルン島ラブ&ピース・フェスティバルでも登場した。

いくつかの仕様から推察する
“ジミのために特注された個体”説

 当時、貼りメイプル指板はオプション扱いだったようだが、ジミが行きつけの楽器店(ニューヨークにあったマニーズ・ミュージック・ショップ)を通してフェンダー社にオーダーしたのか、楽器店がフェンダー社にオーダーしたものをジミが店頭で気に入って購入したのかは定かではない。しかし、細かくスペックを見ていくと、ジミが使用することを前提にして製作されたのでは? と勘ぐりたくなるようなポイントがいくつかある。その詳細を見ていこう。

 まず、ご存知のようにジミは右用のギターを左で弾くため、弦を逆に張る必要がある。しかし、ストラトキャスターの場合、最もナットから遠い1弦用ペグに6弦を張ることになるので、テンションが不足するという問題が発生してしまう。このためジミは、以前から6弦を逆方向に巻き付けてテンションを稼ぐという工夫をしていたのだが、この白いストラトキャスターは最初からストリング・ガイドの取り付け位置が違った。通常よりも目測で1.5cm~2cmほどナット側に寄った位置にあるのだ。そうしたテンション不足の改善を図ったかのような仕様に、最初からなっていたのである(同時期に使用開始したブラック・モデルも同じ仕様)。個体差と言われればそれまでなのだが、実際これらの貼りメイプル・ストラトキャスターでは6弦を逆方向に巻き付けていないステージ写真もチラホラと確認できる。

 次に、ネック・エンドにスタンプされたシリアルが“13MAR68C”という点。最初の数字“13”は当時のフェンダー社のモデル識別番号で、ストラトキャスターを示す。“MAR”は3月、“68”は1968年の意。そして最後のアルファベットはナット幅を表しており、レギュラー・サイズの“B(約41mm)”よりも太い“C(約44.5mm)となっている。つまりネック自体がワンサイズ太いということになるが、これはジミのあの大きな手に合わせたのでは? と考えられなくもないだろうか。

 ジミの死後、この白いストラトキャスターはドラムのミッチ・ミッチェルが約20年間所有していたが、1990年にサザビーズ・オークションに出品され198,000ポンドで落札された。そして、その後も何度かオークションにかけられたのち、最終的にマイクロソフト社の共同創設者ポール・アレン氏の手に渡り、現在はアレン氏の計らいでジミの故郷であるワシントン州シアトルのMoPOP(旧EMPミュージアム。アレン氏が私財を投じて設立したロック・ミュージックの博物館)に展示されているそうだ。

 また、2002年にはフェンダーカスタムショップにより数本のクローンが製作されたほか、2019年にはウッドストック50周年を記念して“イザベラ”と新たなモデル名を冠したシグネチャー・モデルが世界250本限定で製作された。

ギター・マガジン2022年7月号
『名手が明かす、最高のストラト・サウンドの鳴らし方!』

本記事はギター・マガジン2022年7月号にも掲載されています。表紙特集はストラトキャスター!! 国内の名手たちがストラトの魅力や実践的な使い方などを語ってくれています。歴史的名器を追った「伝説に残る10本のストラトキャスター」も必読!!