西田修大による試奏を交えて、ブランドを代表する4機種の魅力に迫っていこう。
取材:辻昌志 解説:今井靖
*本記事はギター・マガジン2022年9月号の特集『Chase Bliss』を再編集したものです。
Blooper
Creative Looping Device
8つのレイヤーと多数のエフェクトを備えた怪物ルーパー
生成したトラックに対して限界まであとづけの試行錯誤をくり返すことにフォーカスした、型破りな怪物ループ・ユニット。Chase Bliss、3 Degrees Audio、“Knobs(ペダルの特殊な使用法を紹介するYouTubeチャンネル)”の3者によりデザインされたその圧倒的に柔軟な機動力は、ライブなどでの使用はもちろん、むしろ精密なパターンを必要とするアカデミックなパフォーマンスでこそ力を発揮する性能と言えそうだ。
ベストなフレーズの収集には欠かせないアンドゥ/リドゥ機能を備えた8層にも及ぶレイヤーや、“STABILITY”や“MODIFIER”といったアタッチメント・エフェクトを含んだAdditiveモードのループ・トラックの構築などはほんの入り口である。“REPEATS”によるフェードアウト・コントロール、Normalモードのドライ音抽出、Samplerのトリガー・マニュピレーションに始まり、MODIFIERのカスタマイズや“RAMP”、MIDIによって、あらゆるコントロールの連携とレイヤーに深く介入した理想のループを編み上げる絶対的な快感は、単にループを重ねて遊んでいるだけでは決して味わえるものではない。ルーパーの聖域への扉は、もう目の前だ。
Impression by 西田修大
“ちょっとしたテクスチャーが欲しい!”って時に超便利
Blooperは普段から使っているのですが、僕の中では現在、最強のルーパーです。サウンド・オン・サウンドしていくルーパーとして優秀なことは間違いないですが、8つのレイヤーを重ねられるのが素晴らしい。しかも、ツマミの操作で各階層に戻れるので便利です。
一番の魅力はMODIFIER(エフェクト群)ですね。僕は再生速度をスムーズに可変させるSmooth Speedをよく使います。例えばサビ前にリバース・シンバル的なフワ〜っとした音が欲しいなと思った時に、リバーブを飛ばしながら音を作ったり。
Stepped Speedも必須かな。ループのキーを保ちながら再生スピードを変えられるので、曲中で使うのに向いていますね。
あとはサンプラー的な使い方もできます。ラジオの音声をピックアップから拾って、それにMODIFIERをかけていくとテクスチャー的になるんですが、その上でさらに演奏するってことはよくやりますね。
どちらにせよ、演奏中に“ちょっとしたテクスチャーが欲しい!”って時に超便利。複雑でも、慣れれば直感的にイジれますよ!
【スペック】
■コントロール:RAMP/VOLUME、LAYERS、REPEATS、MOD A、STABILITY、MOD B、トグル・スイッチ×4(モディファイアA選択、モード切り替え、モディファイアB選択、セーブ/ロード)、フット・スイッチ×2(録音/再生、ループ停止)、MODIFIERスイッチ×2、DIPスイッチ×16
■入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション、外部スイッチ/MIDI
■電源:9Vアダプター
■外形寸法(突起含む):74(W)×124(D)×60mm(H)
■重量:約380g
【価格】
76,450円(税込)
MOOD
Granular Micro-looper/Delay
独立/協働する2つのチャンネルでループと空間を制御
複雑に交差する美しいアンビエンス領域に遊び心溢れるクロック・コントロールを組み合わせることのできる、壮大な残響実験室。極めて磊落なディレイ/ルーパーを生成する2つのチャンネルは、それぞれ独自の空間系サウンドに定評のある前衛ペダル・ブランド、Old Blood Noise EndeavorsとDrolo FXが担当していることもこのモデルの大きな特徴だ。
OBNEチャンネルはお得意の高密度で反射の少ない空間演出が持ち味で、位相に干渉するリバーブやフリーズ機能までカバーした多彩なエフェクトを装備。一方のDrolo FXチャンネルでは、常時キャプチャーを継続するループ・エンジン(バイパス時にはOBNEチャンネルを持続的に転写)として動作しながら、プレイに有機的に連動するカットインやストレッチ機構が時間軸を自在に飛び回る。それらを直結させれば、互いがトリガーの役目を果たすミラクルな音の回廊が発現するという仕組みだ。
そして、最後の一押しにBounceによるアイロニーな脈動を加えれば、このペダルは無限のフレキシビリティーを発揮することだろう。閉じた世界に積み上がる、螺旋のエネルギー……そのアツさに酔いしれてほしい。
Impression by 西田修大
どうイジっても気持ち良く収まってくれる
実はコレも持っています(笑)。MOODは常時録音してくれるので、直前に弾いたフレーズを瞬時に取り出して加工できるんです。だからBlooperよりは感覚的に使えますね。
僕は純粋なループというより、テクスチャーで使える効果音がいきなり出る設定にしています。それで間を持たせ、その時間にBlooperでさらに音を重ねるってこともやりますね。
操作としては、CLOCKツマミがキモなんじゃないかと。チャンネルによって色んなパラメーターが変化するのですが、どうイジっても気持ち良く収まってくれるんですよ。例えばオクターブ上の音を足しても、ワーミーやピッチ・シフターのような極端な変化がないというか。原音ににじませてくれる質感なので、“やりすぎ感”が出ずに曲にハマるんです。
あと、Droloチャンネルで出せるホワイト・ノイズもめちゃくちゃ好き。シンセじゃないと出せないようなデジタル・ノイズをギターで担えるんですよね。
Chase Blissのペダルの中では、比較的すぐに良い感じで鳴らせるし、かつ新鮮な変化を得られますよ。
【スペック】
■コントロール:TIME、MIX(RAMP)、LENGTH、MODIFY×2、CLOCK、トグル・スイッチ×4(空間系エフェクト切り替え、ルーティング切り替え、マイクロ・ルーパー切り替え、プリセット)、フット・スイッチ×2、DIPスイッチ×16
■入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション/CV、MIDI
■電源:9Vアダプター
■外形寸法(突起含む):74(W)×124(D)×60mm(H)
■重量:約380g
【価格】
53,900円(税込)
Habit
Echo Collector
過去に遡ってディレイ音を収集する予測不能のディバイス
さあ、ディレイで好きな絵を描こう! それが楽曲の風景に変わるまで──。ポップなカラーに彩られた箱の内側にデザインされたのは、積層エコーで空間を編み上げることに特化した予測不能の動的ストア・デバイス。基本的な操作感は、何もないカンバスの上に、形や跳ね方の異なる物質でリズミックなパターンを描き出す感覚に近い。
時間にして3分というサンプリング領域に始まるシグナル・ソースは、連続し、重なり合い、時には散り散りに砕かれながら、いつしかプレイを飛び越えて“音楽”へと変わっていく。かつては直感だけが頼りだったポスト・エコーとの有機的な干渉を、“COLLECT”(記憶領域へのオーバー・ダビング)や“SPREAD”(サンプル上のマルチ・タップ因子の生成)によって理知的に磨き上げる行為は、ディレイをツールとして使うすべてのプレイヤーの色彩感覚をまだ見ぬステージへと導くに違いない。
そして、帰結したループに“FEED”を解放した瞬間に、自ら組み上げたあらゆるサウンドのフローを飲み込みながら決壊する世界。劇薬か、それとも福音か。これがループ・オブジェクトの理(ことわり)にアクセスするための最先端のアイテムだ。
Impression by 西田修大
偶発性が高く、Habitを軸にして積極的な音作りをしていけそう
今、適当にイジってみましたが、すでにほかのChase Blissのペダルにはない独自の音が出てきますね。立ち位置的には、論理と感覚で音を構築していくBlooperと、瞬発力に優れたMOODの中間にある印象です。ただ、2つと比べると偶発性が高く、Habitを軸にして積極的な音作りをしていけそう。
面白いのはSCANですよね。過去のプレイを自動で取り出すAUTOモードにするだけで雰囲気のある伴奏をしてくれるし、SCANの音だけにMODIFIER(エフェクト群)もかけられると。あとは音を切った時、残響音が残るかどうか選べるトレイル機能も嬉しいですね。
それと、これは重要なことですが、ディレイの音質が非常に良い。音が良くないと“飛び道具”になっちゃうんですよね。単に変な音なのか、不思議な響きだけど感動的な音かの境目って、1つは音質に要因があると思っていて。音を可変させた時にローまで音域が入るか、ハイが気持ち良い解像度になるかどうか……Habitを使ってみて、音質の高さも魅力だと改めて感じました。買いますね、コレは(笑)。
【スペック】
■コントロール:LEVEL、REPEATS、SIZE、MODIFY、SPREAD、SCAN、トグル・スイッチ×4(モディファイア選択、モディファイア・バンク選択、ルーティング変更、プリセット)、フット・スイッチ×2(タップ/ホールド、バイパス)、DIPスイッチ×8
■入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション/CV、タップ/MIDI
■電源9Vアダプター
■外形寸法(突起含む):74(W)×124(D)×60mm(H)
■重量:約380g
【価格】
61,600円(税込)
Dark World
Dual Channel Reverb
キャラクターの異なる2つの独立したリバーブを搭載
異空のパノラマを結びつけ、挑戦的なエア・ピースを組み上げることのできるコンポジション・リバーブの傑作。艶やかなディレクションで空間を歪めるD(Dark)チャンネルはCooper FX、ハイファイな残響が泉のように湧き上がるW(World)チャンネルはKeeley Electronicsの手によるもので、完全にベクトルの乖離したデュアル・リバーブによる相乗効果がこれほどまでに味わい深いクロス・スケープを形成することを、Chase Bliss以外の誰が予見できたというのだろうか。
当然のように“RAMP”ノブのリアル操作(ランピングはできない)やEXペダルと相性は抜群で、背景となるスペクタクルそのものに“動き”の概念を加えることにより、時間感覚を伴なった4次元的な空間演出にも楽々と到達できてしまう。
加えて、両チャンネル間の順逆あるいはパラレル・ミックスを自在に設定できるため、それらの工程で得られる有効なマテリアルの豊富さに驚くばかりだ。擦過音を撒き散らすパワフルなグリッチや、フリーズしたオーロラ・シマーを、組み合わせひとつでまったく新たな空間系エフェクトに元素転換させる媒体としてのセンス。それを“叡智”と呼ぶことに躊躇いはない。
Impression by 西田修大
残響音が消えるまでの解像度の高さが気持ち良い
チャッと弾いた時のビチャッとした音。WorldチャンネルのSpringモード、良いですね! 音が硬かったり、デジタル臭さが残るペダルもあったりするのですが、コレは音に奥行きがあって立体的に聴こえます。残響音が消えるまでの解像度の高さも気持ち良い。
DarkチャンネルはGeneration Lossからインスパイアされただけあって、さすが普通の音じゃない(笑)。この音色からインスピレーションをもらってフレーズができそう。特に、Shimモードで下のオクターブが出せることが僕にはドンズバでした。
今って“キレイで幻想的な音”としてシマー・リバーブを使う流行が少し落ち着いた、と個人的には思っていて。でもコレの場合、少し濁った質感も出せるからイマ面白いんじゃないかと。とにかく、各機能の思想がかなり強いので、ハマる場面が必ずあると思います。
あと、最近はMIDI関連機器が小型化して扱いやすくなっているから、Dark Worldを多機能リバーブとして置きつつ、Chase Blissのペダルを何個かつないで使うのもオススメですね。
【スペック】
■コントロール:DECAY(RAMP)、MODIFY、MIX、TONE、DWELL、PRE-DELAY、トグル・スイッチ×4(Darkリバーブ・モード選択、Worldリバーブ・モード選択、ルーティング変更、プリセット)、フット・スイッチ×2(Darkチャンネル、Worldチャンネル)、DIPスイッチ×8
■入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション/CV、MIDI
■電源:9Vアダプター
■外形寸法(突起含む):74(W)×124(D)×60mm(H)
■重量:375g
【価格】
53,900円(税込)
西田修大 PROFILE
にしだ・しゅうた●1988年生まれ、広島県出身。君島大空 合奏形態、KID FRESINO、UA、Songbook Trio、中村佳穂BAND、Ortance、石崎ひゅーいなど、様々なミュージシャンのライブやレコーディングで活躍中。
ギター・マガジン2022年9月号
『JEFF BECK WITH……』
2022年8月12日(金)発売