山下達郎の新作『SOFTLY』に際し、都内で行なわれていたツアー・リハ現場にお邪魔することができた。今回は山下がステージで使用する8本のギターをご紹介!
文:山本諒 撮影:星野俊
*本記事はギター・マガジン2022年8月号に掲載された『Axis’ Gear』を一部抜粋/再編集したものです。
Guitars
1978-80
Fender Telecaster
日本で最も有名なカッティング・マシン
山下のトレードマークであり、“日本で最も有名なカッティング・マシン”と言って差し支えない78~80年製のテレキャスター。80年に友人から5万円で譲り受け、翌年あたりから絶対的なメインの座についている。材構成はホワイト・アッシュ・ボディにメイプル・ネック、ローズウッド指板。ペグやフレット、ナット、電気系統は劣化するたびに交換しており、フロントPUはギター・テックの篠原勝(SHINOS)が手巻きで製作したものに変更されている。
テレキャスターの場合、フロントとリアPUを逆磁極にすることでミックス時にハム・キャンセルされる個体もあるが、本器はどちらも同じ磁極になっていたことが判明。それにより発生していたノイズを除去するため、篠原自らが新しいPUを製作、交換した。基本的にミックス・ポジションで使用するゆえ、音の違いが気になるところだが“若干変わりはしますが、気になるほどではない(篠原)”とのこと。ちなみに、特徴的なブラウン・カラーはオリジナルの可能性が高く、フェンダーでの正式なカラー名は“ウォルナット”である。
1957/70
Fender Stratocaster
ソロなどで長年愛用のハードテイル・ストラト
「LOVE TALKIN’(Honey It’s You)」や「BOMBER」の録音などでも使用し、実はテレと双璧をなす重要な1本であるハードテイル・ストラト。NYでボディ(57年製)のみ300ドルで購入し、青山徹(g)の持っていた70年製ローズ指板ネックを取り付けてある。“無理矢理くっつけたんで若干ねじれている”と本人が以前語っていたとおり、ジョイント・プレートがかなり湾曲していた。PUはもともと70年代後期のものが付いていたが、“交換してある可能性が高い(篠原)”そう。本ツアーでは不使用。
1991
Gibson Chet Atkins SST
サウンドホールが削れたステージのメイン・エレアコ
ステージでエレアコとして重宝しているのがギブソンのチェット・アトキンス・モデル。ソリッド構造のエレアコのはしりとして、ガット仕様が1982年に発売、このスティール弦モデルは87年に発売された(2006年に生産終了)。本個体は20年以上使っている91年製で、ダミー・サウンドホール付近の木部がえぐれている。内部のピエゾPUは、バランスが悪いためマイク部分のみ新品に交換済み(下の90年製も同様)。チューニングはレギュラーで、本ツアーのメイン・エレアコである。
1990
Gibson Chet Atkins SST
初期の仕様を持つ半音下げチューニング用
半音下げチューニングにセッティングされたチェット・アトキンスSST。上のものより1年だけ年式が古い90年製で、ヘッドが初期型のものになっている。材構成はボディ・トップがスプルース、バックとネックがマホガニー、指板がエボニー。スケールはレギュラーの648mmである(上下のモデルも同じ)。2連構造のトーン・ノブ(TrebleとBass)は、演奏中に動いてしまわないようにテープで固定されている。なお弦は上のモデルよりも太い.012〜.053を使用(上は.010〜.047)。
1993
Gibson Chet Atkins SST
コントロールがサイドに移動したノンホール型
こちらは星形インレイ&ダミー・ホールがないタイプの93年製チェット・アトキンスSST。ボリュームとトーンのコントロールがサイドに移動されているのも特徴だ。PUはオリジナルを搭載。“達郎さんはダミー・ホールがない見た目がそんなに好きじゃないみたいですけど、つい最近まで状態はこれが一番良かった(篠原)”とのことで、以前はこちらがメインだった。だが今回は使用せず、ツアーにも持ち回っていない(撮影日にはなかったもう1本のダミー・ホールありの個体をサブ器として用意)。
c.1970
Martin D-28
繊細なサウンドが魅力のマーティン王道モデル
70年前後と推定できるマーティンのD-28。半音下げチューニングで使用されることが多い。サウンドホールに付いているのはSkysonicのPro-1で、これはマグネティックPUとコンタクト・ピエゾ、コンデンサー・マイクの3種がセットになったもの。山下が弾く際はコンデンサー・マイクの出力のみやや絞り、ほかは全部フルで設定しているとのこと。本ツアーでは使わず、レコーディングやアコースティック・ツアーなどで使用する。マーティンらしい繊細なサウンドが魅力の1本だ。
1984
Guild D-50 NT
より骨太な音が出せる所有アコギで最も大きな1本
山下の代表的なアコースティック・ギターといえば、このギルドD-50だろう。長年の相棒であった67年製(もともと岡林信康が所有していたもの)はボディが割れてしまったため、84年製の本器が用意されていた。チューニングはレギュラーだ。上のマーティンと同様、サウンドホールにはSkysonicのPro-1が装着されている。今回撮影できたアコースティック・ギターの中では最もサイズの大きなモデルで、骨太でロックな音が魅力のギターである。今回のツアーでは使っていない。
1968
Gibson J-50
レコーディングで活躍 取り回しの良い定番器
レコーディング&アコースティック・ライブ専用器として重宝しているギブソンのJ-50。シリアルから年式は1968年製だと推定できる。ブリッジ・サドルはもともと付いていた木製のアジャスタブル・タイプからオーソドックスな牛骨タイプに交換されているほか、ペグはクルーソンからグローバーに変更済み。ギルドD-50などよりもサイズが小さく、取り回しの良さがお気に入りのポイント。

ギター・マガジン2022年8月号
『スタジオ・ミュージシャンの仕事』
本記事はギター・マガジン2022年8月号に掲載された『Axis’ Gear』を一部抜粋/再編集したものです。カポや使用弦など、さらに細かな内容は、本誌電子版などでチェック! 表紙特集『スタジオ・ギタリストの仕事』では、音楽の歴史に欠かすことのできない職人たちの名仕事に迫ります!