CHICのギタリストであり、名プロデューサーとして多くのヒット曲に携わってきたナイル・ロジャース。彼が愛用するフェンダーのストラトキャスターは、いつしか“ヒットメーカー”と呼ばれるようになった。そして、CHIC、ダイアナ・ロス、マドンナ、デヴィッド・ボウイ、ダフト・パンクと、70年代から現代にいたるまでの長きにわたり、正真正銘の“ヒットメーカー”として活躍し続けている。今回はそんな伝説の名器をご紹介しよう。
文=福崎敬太 Photo by Richard Ecclestone/Redferns/Getty Images
20億ドルを稼いだ“ヒット曲製造器”!
2022年、フェンダーからシグネチャー・モデルとして発売され話題となった、CHICのナイル・ロジャースが長年愛用しているストラトキャスター、通称“ヒットメーカー(Hitmaker)”。
このギターからくり出されるクリアで歯切れの良いカッティングは、ディスコ・ブームを盛り上げたCHICの数々の名曲、ダイアナ・ロスの「Upside Down」を始めとした名プロデュース・ワーク、そしてダフト・パンクの「Get Lucky」のようなゲスト参加曲など、数多くの世界的ヒット曲に彩りを添えてきた。まさしく“ヒットメーカー”というわけだ。
ナイルがこのストラトキャスターを手に入れたのは1973年。入手してすぐに楽器店へ行き、ボディをリフィニッシュすることに。本人曰く“ジミ・ヘンドリックスが好きだから白に塗ったんだ。でも新品のような真っ白は嫌だったから、黄色とかを上から塗って今のような色にしたのさ”とのことだ。その塗装もステージ/レコーディング問わずの酷使により大きく剥げ落ち、現在は貫禄たっぷりの1本となっている。
ミラー・ピックガードとスピード・ノブを備えた1960年製のボディに、メイプル指板の1959年製ネックが取り付けられたユニークな1本。スポット・ライトを観客に跳ね返せるようにピックガードをミラー仕様にしたと語っているが、その着想はディスコのミラー・ボールから得たのかもしれない。また、このピックガードにはシールディングの効果もあるようで、ノイズの低減に一役買っているという。
ハードテイル・ブリッジ仕様は、ナイルのタイトなカッティング・サウンドに大きく貢献しており、シュパーゼル製のロック・ペグへの変更はチューニングの安定性をもたらしている。あくまでも実践向きにセットアップされた、唯一無二のギター。
2022年現在で70歳を迎えたナイルだが、約50年にわたり本器を愛用。このギターから生み出された音楽は、20億ドル以上も稼いできたと言われている。エヴァーグリーンな彼のプレイは、今後もその価値を伸ばし続けるだろう。