フェンダーが誇る名器を忠実に再現したというアメリカン・ビンテージ2(American Vintage II)シリーズ。そのルーツまでさかのぼりつつ、今作の概要と全ラインナップを解説しよう。
文=ashtei 機材撮影=星野俊(1977 Telecaster Customを除く)
*本記事はギター・マガジン2022年12月号の特集『FENDER AMERICAN VINTAGE Ⅱ feat. KENICHI ASAI:浅井健一が弾くフェンダーの”ニュー・ビンテージ”』の一部を抜粋・再編集したものです。
*このページでボディ・カラーの名前に(※)が付いているものは、フェンダー・オンラインショップのみで販売される限定色であることを意味します。
アメリカン・ビンテージ2とは?
その源泉から全体像を探る
原点は40年前のビンテージ・シリーズ
2022年10月11日、フェンダーは新シリーズ、“アメリカン・ビンテージ2”を発表した。同シリーズは、フェンダーが1950~70年代を通じて発表した歴代の名器の中から、特に象徴的なモデルをピックアップし、当時の仕様を再現して現代によみがえらせたフラッグシップ・シリーズである。
そのルーツは、1982年にさかのぼる。それまでフェンダーは、過去のギターの仕様を再現したリイシュー・モデルの製造をしたことがなかった。しかしながら80年代のビンテージ・ギター・ブームの煽りを受け、1982年に“ビンテージ・シリーズ”を発表。当時のギターのラインナップは’57ストラトキャスター、’62ストラトキャスター、’52テレキャスターの3機種だった。
その後はシリーズ再編に伴い、1998年に“アメリカン・ビンテージ”と改名する。翌年には’62カスタム・テレキャスター、2004年には’69テレキャスター・シンラインと’72テレキャスター・シンライン、’72テレキャスター・カスタムが加わった。
そして2012年、生産工程のすべてを見直し、大胆な仕様変更が完遂された“ニュー”・アメリカン・ビンテージ・シリーズが登場することになる。ストラトキャスター(’56、’59、’65)とテレキャスター(’52、’58、’64)のそれぞれ3モデルと共に、ファン待望だったジャズマスターとジャガー(2機種とも’65)が加わったことで話題を呼んだ。
このように長きにわたって人気を博してきたアメリカン・ビンテージ・シリーズも2018年に一旦幕を引き、これに替わる新たなラインとして登場したのが“アメリカン・オリジナル”シリーズである。特定の年のモデルを復刻していた“アメリカン・ビンテージ”に対し、“アメリカン・オリジナル”は50年代、60年代、70年代の代表的な仕様を再現。さらに現代にマッチしたスペックも加えるという、ハイブリッドな仕様をあわせ持つ。このプレイヤー目線に立った作りゆえに、多くの人から支持を受けることになった。
オリジナルに肉薄する精度の高い再現度
こうしてシリーズ誕生(1982年)から40年目の節目である今年に発表されたのが、“アメリカン・ビンテージ2”である。
今回発表されたのはギター9モデル、ベース3モデルの全12機種。ギターの内訳はテレキャスター5機種、ストラトキャスター3機種、ジャズマスター1機種となる。また1951テレキャスター、1957ストラトキャスター、1961ストラトキャスターの3機種には、左利き用のモデルも用意された。
各モデルは、カリフォルニア州にあるフェンダーのコロナ工場で精巧に作られる。また、どのモデルも各時代の仕様を再現したピックアップやネック・シェイプ、ビンテージ・スタイルのハードウェア、フェンダーらしいトーンウッドが採用されている。
フィニッシュは、50~60年代仕様のモデルにはニトロセルロース・ラッカー、70年代仕様のモデルにはポリウレタンを使用。実器を見てフィニッシュで驚かされたのが70年代スペックのモデル群で、指板面とネック裏に対し、ヘッドだけが飴色のような色味をしていること。これは1968~82年頃の個体に見られる経年変化による塗装の色焼けで、この再現には驚いた。
さらにラインナップの中で目を引くのが、1972年に登場したテレキャスターのバリエーション・モデル3機種を本シリーズでコンプリートしていることだ。しかも搭載しているワイド・レンジ・ハムバッカーは、オリジナルと同様の“CuNiFe”(銅/ニッケル/鉄による合金)によるマグネット・ポールピースを採用。これでオリジナルと完全に肉薄したことになる。
各年式のビンテージ・スペックの再現度の高さは、本シリーズ最大の魅力ではあることは間違いない。しかし、その一方でストラトキャスター3機種(1957、1961、1973)およびテレキャスター2機種(1951、1963)については、PUセレクター・スイッチを含むコントロールをオリジナル・ワイアリングにせず、より使いやすい配線にするなど、プレイヤー目線に立った仕様を優先して採用している。こうした細かい箇所にまで目が行き届いた配慮こそ、このシリーズの優れた特徴の1つと言えるであろう。
全ギター・モデル解説
次に、アメリカン・ビンテージ2にラインナップされたギターを、モデルごとに詳しく見ていこう。
*「※」が付いているカラーは、フェンダー公式オンラインショップ限定販売モデルとなる。
American Vintage II 1951 Telecaster
生産数が少なかったレア仕様を果敢に復刻
ヘッドのロゴ・デカールに“TELECASTER”というモデル名が入ったのが1951年8月末頃。よって同年製のテレキャスターは数が非常に少ないのだが、そんな超レア仕様を本器は果敢にも復刻している。
各所のネジ類はマイナス型で統一されているが、トラスロッド・ナット部のヘッド・ファスナーは1951年当時の製造仕様にのっとってプラス型を採用。
またコントロール類はボリュームとトーン、3ウェイPUセレクターはフロント/フロント&リア・ミックス/リアと、オリジナル仕様にあえてこだわらず、実用的な配線を採用している。
1951 Telecasterのカラー
【スペック】
●ボディ:アッシュ
●ネック:メイプル
●指板:メイプル
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:ピュア・ビンテージ・’51シングルコイル・テレ×2
●コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・3サドル・テレ with バレル・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・シングル・ライン・“フェンダー・デラックス”
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ツイード
【価格】
324,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1963 Telecaster
アルダー/マホガニーの新たなトーンウッドを用意
ネックと指板の接着面が曲面状になったラウンド・ローズウッド指板を採用した、1963年型テレキャスターのリイシュー・モデル。
3色用意されたボディ・カラーのうち、サーフ・グリーンと3カラー・サンバースト(※)はボディ材にアルダー、クリムゾン・レッド・トランスペアレントにはマホガニーが使用されている。
ブロンド・カラー/アッシュ・ボディから始まったテレキャスターだが、トーンウッドにバリエーションを持たせることで、テレキャスター特有のトゥワング・サウンドに新たなトーンが加わった。
1963 Telecasterのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アルダー(サーフ・グリーン、3カラー・サンバースト)、マホガニー(クリムゾン・レッド・トランスペアレント)
●ネック:メイプル
●指板:ローズウッド
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:ピュア・ビンテージ・’63シングルコイル・テレ×2
●コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・3サドル・テレ with スレディッド・スティール・バレル・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・シングル・ライン・“フェンダー・デラックス”
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラウン
【価格】
313,500円~324,500円(税込)
※Surf Green/3TSは313,500円、Crimson Red Transは324,500円
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1972 Telecaster Thinline
固有の特徴を見事に再現
セミ・ホロウ・ボディを持つテレキャスター・シンラインは、1972年に2ハムバッカー・ピックアップ仕様にフル・モデル・チェンジとなるが、そんな同器をモチーフにした復刻モデル。
ワイド・レンジ・ハムバッカーのほか、マイクロ・ティルト付きの3ボルト・ネック・ジョイントや、ヘッドに配置されたブレット型のトラスロッド・ナット、6ウェイ・サドルのハードテイル・ブリッジなど、固有の仕様が見事に再現されている。
塗料は70年代スペックにならい、ボディとネック共にポリウレタンを使用。
1972 Telecaster Thinlineのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アッシュ
●ネック:メイプル
●指板:メイプル
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:オーセンティック・CuNiFe・ワイド・レンジ・ハムバッカー×2
●コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・6サドル・ストリング・スルー・ボディ・ハードテイル with ベント・スティール・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・“フェンダー・“F”・スタンプ
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラック
【価格】
357,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1975 Telecaster Deluxe
専用パーツが多い個性派
ワイド・レンジ・ハムバッカーを搭載したテレキャスター・ファミリーの中で、フラッグシップ・モデルとして登場したのがテレキャスター・デラックス(初出は1972年)。
本器は1975年の仕様を再現したモデルだ。ラージ・ヘッドやボディ・バックのコンターなど、ストラトキャスターのスペックも持つ個性派である。
このほかにもフラットな指板やミディアム・ジャンボ・フレット、10.5㎜という狭いピッチのブリッジ・サドル、フェンダー純正のロトマティック・ペグなど、多くの専用パーツや仕様が付与されている。
1975 Telecaster Deluxeのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アルダー
●ネック:メイプル
●指板:メイプル
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:オーセンティック・CuNiFe・ワイド・レンジ・ハムバッカー×2
●コントロール:ボリューム×2、トーン×2、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・6サドル・ストリング・スルー・ボディ・ハードテイル with ステンレス・スティール・ブロック・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・テレ・デラックス
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラック
【価格】
357,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1977 Telecaster Custom
シングルコイル×ハム 魅力のミックス・サウンド
1977年製のテレキャスター・カスタムの復刻モデル。
本器の特徴はフロントにワイド・レンジ・ハムバッカー、リアにテレキャスター・スタイルのシングルコイルという、絶妙とも言えるピックアップの組み合わせにあり、両PUのミックスをサウンド的にベスト・ポジションとして挙げる人は多い。
アルダー・ボディを彩るカラーは、オリンピック・ホワイトとブラック(※)、そして1977年にスタンダード・カラーとなったワインの3種類だ。
指板はメイプルとローズウッド(ラウンド貼り)の2タイプが用意されている。
1977 Telecaster Customのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アルダー
●ネック:メイプル
●指板:メイプル(ワイン、ブラック)、ローズウッド(オリンピック・ホワイト)
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:オーセンティック・CuNiFe・ワイド・レンジ・ハムバッカー(フロント)、ピュア・ビンテージ・’77・シングルコイル・テレ(リア)
●コントロール:ボリューム×2、トーン×2、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・6サドル・テレ with スラティッド・スティール・バレル・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・“F”・スタンプ
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラック
【価格】
313,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1957 Stratocaster
固有のフィーリングを再現 歴代でも代表的な年式
歴代ストラトキャスターの中でも、50年代を代表する年式の1つが1957年製であろう。
本器は1957年製の実器からプロファイルされたデータをもとに作られており、ボディのトップとバック共に深めでなめらかに加工されたコンターや、7.25インチ・ラジアスのメイプル指板を備えたVシェイプ・ネックなど、この年式が持つ固有のフィーリングを見事に再現。
塗料にはニトロセルロース・ラッカーを使用。ボディ材は、2カラー・サンバーストとシーフォーム・グリーンのカラーがアルダー、ビンテージ・ブロンド(※)はアッシュとなる。
1957 Stratocasterのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アルダー(シーフォーム・グリーン、2カラー・サンバースト)、アッシュ(ビンテージ・ブロンド)
●ネック:メイプル
●指板:メイプル
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:ピュア・ビンテージ・’57・シングルコイル・ストラト×3
●コントロール:ボリューム、トーン×2、5ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・シンクロナイズド・トレモロ with ベント・スティール・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・シングル・ライン・“フェンダー・デラックス”
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ツイード
【価格】
313,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1961 Stratocaster
約3年の短期間のみ製造 スラブ・ボード期の名品
ローズウッド指板とメイプル・ネック本体の接着面を平面で接着したスラブ・ボードは、1959~62年という短い期間しか製造されなかったレアな仕様。本器はその中から生産量が安定していた1961年製がチョイスされている。
カラーはオリンピック・ホワイトと3カラー・サンバーストに加え、人気色のフィエスタ・レッド(※)がラインナップ。
なお、本器を含むストラトキャスター・モデルの3機種では、コールド・ロールド(冷間圧延)スティール・ブロックとベント・スティール・サドルを備えた、シンクロナイズド・トレモロが搭載されている。
1961 Stratocasterのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アルダー
●ネック:メイプル
●指板:ローズウッド
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:ピュア・ビンテージ・’61・シングルコイル・ストラト×3
●コントロール:ボリューム、トーン×2、5ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・シンクロナイズド・トレモロ with ベント・スティール・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・シングル・ライン・“フェンダー・デラックス”
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラウン
【価格】
313,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1973 Stratocaster
多くの仕様が変化したCBS期を象徴する1本
ラージ・ヘッド、ブレット・トラスロッド・ナット、3ボルト・ネック・ジョイントなど、70年代のCBSフェンダーを象徴するスペックを持った1973ストラトキャスター。
塗料は、ボディとネック共にポリウレタンを使用。
ボディ・カラーにより、指板とピックガードの仕様が異なる。印象的なブラウン・カラーのモカはメイプル指板/ブラック3プライ・ガード、レイク・プラシッド・ブルーはメイプル指板/ホワイト3プライ・ガード、エイジド・ナチュラル(※)がローズウッド指板/ホワイト3プライ・ガードとなる。
1973 Stratocasterのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アッシュ
●ネック:メイプル
●指板:メイプル or ローズウッド
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:ピュア・ビンテージ・’73・シングルコイル・ストラト×3
●コントロール:ボリューム、トーン×2、5ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:アメリカン・ビンテージ・シンクロナイズド・トレモロ with “アッシュ・トレイ”・ブリッジ・カバー
●ペグ:ピュア・ビンテージ・フェンダー・“F”・スタンプ
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラック
【価格】
324,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp
American Vintage II 1966 Jazzmaster
豪華なルックスに仕立てた改変期の実器を再現
1966年、当時のラインナップの中では上級機種にあたるジャズマスターは、外観をさらに豪華に見せるための仕様変更が行なわれた。
指板の外周にはホワイトのバインディングを施すと同時に、ポジション・マークにはパーロイド材のブロック・インレイを採用。また、1964年からはメタル・トップのアンプ・ノブ(ホワイト)が装着されている。
カラーはダコタ・レッドとレイク・プラシッド・ブルー(※)、3カラー・サンバーストの3色。前者2つは3プライのホワイト・ガードにマッチング・ヘッド仕様、後者は4プライのべっ甲ピックガードだ。
1966 Jazzmasterのカラー・バリエーション
【スペック】
●ボディ:アルダー
●ネック:メイプル
●指板:ローズウッド
●フレット:21
●スケール:648mm
●ピックアップ:ピュア・ビンテージ・’66・シングルコイル・ジャズマスター×2
●コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター、リズム・サーキット・コントロール
●ブリッジ:ピュア・ビンテージ・ジャズマスター with スレディッド・スティール・バレル・サドル
●ペグ:ピュア・ビンテージ・シングル・ライン・“フェンダー・デラックス”
●付属ハードケース:ビンテージ・スタイル・ブラック
【価格】
357,500円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp