フェンダー・カスタムショップが特別に制作した、“ZEAL”という名前のストラトキャスターを愛用し続けているアーニー・アイズレー。これまでに3本の“ZEAL”が誕生しているが、そもそもこのギターは彼にとってどなものなのだろうか。
文=福崎敬太 インタビュー/翻訳=トミー・モリー Photo by Jennifer Lourie/FilmMagic
“燃え続ける欲望”を宿したギター
フェンダー・カスタムショップに“バラを手彫りしたギターが欲しい”とオーダーし、アーニーが初めて“ZEAL”という名前のギターを手に入れたのは、2000年12月のこと。
“熱意”や“情熱”を意味する“ZEAL”という名前の由来を聞いたところ、アーニーはこう答えてくれた。
“燃え続ける欲望”という意味なんだ。生身の人間の中に生き続けるスピリットのようなもので、それによって俺らは生かされている。人として感じ、関係し合ってインスパイアさせる原動力なんだよ。
例えばビリヤードをやっていて“俺はお前より先に最後のショットを決めるぜ!”と思うことがあったら、それは“ZEAL”によって導かれているんだ。“俺はやってやるぞ!”というスピリットのようなものが、音楽や詩を含めたアートの中で起こるもので、生き物による創造にはZEALがともなっている。それでこのギターにも“ZEAL”を宿したというわけさ。
──アーニー・アイズレー
最初に手に入れたZEAL #1は、真っ赤なバラの絵が手彫りされた2ピースのキルト・メイプル・トップに、ゴールド・パーツが映える豪華な外観を持つ。トラ杢のメイプルはヘッドにも貼られ、パーロイド・ボタンを有するゴールド・ペグを採用。ヘッドには常にバラの造花が挿されており、さらなる華やかさを演出している。
22フレット仕様のローズウッド指板には、“ZEAL”の文字とそれをつつくハミングバードのインレイが施され、12フレットにDoves of Peace=平和の鳩が2羽あしらわれている。平和の鳩はアーニーにとって重要な存在で、サンタナとの共作『Power Of Peace』(2017年)の白い鳩が飛んでいるジャケット・デザインも記憶に新しいだろう。
ピックアップにはリップ・スティック・タイプを搭載。これはフェンダー側のアイディアで、当時のやりとりについてアーニーはこう振り返る。
フェンダーからどんなピックアップが欲しいかを聞かれて、“ベストなものが欲しい! ルックスも最高で最新のものが欲しいんだ”と答えた。手作業でのカービングを施したギターのルックスに対して、彼らはマッチするこのピックアップを組み合わせてくれた。
俺はピックアップの特徴だとかメカニカルなことに関しては深く知っているわけじゃないから、詳細は彼らに任せたんだ。当時ZEALを持ってきてくれたフェンダーの人たちは口を揃えて“これは私たちが持てるベストを尽くしたギターです”と言っていたよ。
──アーニー・アイズレー
ダイヤモンド付きストラトキャスター!?
2本目の“ZEAL”は2003年頃からステージに登場する。アウトラインが強調された“ZEAL”の文字、2ピース・キルト・メイプルのシンメトリーな杢目が覗くアッシュ・グレーのボディなどが特徴。指板材はおそらくエボニーだ。
ボディにはもちろんバラの彫刻が施されているが、#1とは違い、黄色やピンク、白など色とりどり。また蛇足ではあるが、1弦側のバラの上にある13をひっくりかえしたような文字は、アーニー・アイズレーのイニシャル=EIだ。
このZEAL #2は現在のメイン器であり、アイズレー・ブラザーズの最新作『Make Me Say It Again, Girl』のジャケ写でも抱えている。
そして2009年頃から登場する、ZEAL #3は最も豪華な1本。ネック裏やヘッドも含め、シルキーな白いフィニッシュで、“ZEAL”やハミングバードのインレイもマザー・オブ・パールで精細なデザインになっている。ゴールド・パーツ類やエボニー指板は#2と同様だが、特筆すべきはリア・ピックアップとブリッジの間にあしらわれたダイヤモンド(!)。#1〜#2の華やかな杢目こそないが、ワンポイントで控えめな豪華さを演出している。
また演奏時にはなかなか確認できないが、ボディ裏に1本の大きなバラの彫刻が施されているのもZEAL #3の特徴だ。
ゴージャスでセクシーな名曲を今なお現役で演奏するアイズレー・ブラザーズにとって、この豪華絢爛なZEALというギターは欠かせないものになっている。
最後はアーニーの言葉で締めよう。
初めてZEALを手に入れた日から俺のアイコン的な存在となったし、ルックス的にも自慢のギターとなった。俺がケースに入れてギターを持ち運んでいる時、興味深そうに“どんなギターが入っているんだ?”と近寄ってくる人がいて、中身を見せてあげるとみんな“ワォ、なんて美しいんだ!”ってなってしまうんだ。
この美しさは遠くから見ても一目でわかってしまうものだけど、直接手に取って見てみると桁外れのクラフトマンシップによって作られていることがより実感できると思う。フェンダーらしくないギターになったかも知れないけど、正真正銘のフェンダーのギターでもあるんだ。
──アーニー・アイズレー