映像や写真の情報が少ないカル・グリーン。ここでは知りうる限り調べた、彼の愛用ギターを紹介しよう。
文=久保木靖 Photo by Ebet Roberts/Redferns/Getty Images
ジョージ・ベンソンへの憧れから手にしたアイバニーズGB10
テキサス・ブルースに始まり、R&Bコーラス・グループを経てジャズファンクへ、そして後年はテキサス・ブルースへ回帰したカル・グリーン。本稿では当然ながらジャズファンク期にフォーカスしたいところだが、残念ながら代表作『Trippin’ With Cal Green』(1969年)前後に手にしていたギターの情報を得ることができなかった。
ジャズへの情景を募らせ、ジャック・マクダフ(org)と共演した1960年代後半、自身の新たなチャレンジであるジャズファンクという音楽に対応すべくフルアコの必要性を感じ始めたカル。マクダフ・バンドの先輩であるジョージ・ベンソンのプレイに魅了されていたが、当時ベンソンが手にしていたギブソンのジョニー・スミスやSuper 400CESは高額のため手が出なかったのではと推測される。『Trippin’~』からは、鼻にかかったようなシングル・トーンや粘り気のあるコード・サウンドからハムバッカーを搭載したセミホロウ・モデルあたりがイメージされるが、果たしてどうか。
さて、1970年代後半以降は、そのベンソンのシグネチャー・モデルであるアイバニーズのGB10を愛用していた。1977年に完成したこのモデルは、ハウリングを抑制するためにスモール・ボディ&肥厚なトップ板というアイディアが採用されたため、シングル・カッタウェイのフルアコであるものの、胴幅は14-3/4インチとレス・ポールに迫る取り回しの良さを実現。スケールも628mmとショート仕様となった。
そして、2基搭載されたオリジナルのピックアップはギブソンのジョニー・スミス・モデルからアイディアを拝借したフローティング・タイプ。もちろん、これはボディの鳴りを最大限に活かすためだ。さらに画期的なのが1~3弦と4~6弦に分けられたテイルピースで、これはブリッジの高さを変えることなく弦のテンションを調整できるという優れもの。
残された写真を見る限り、カルのGB10はナチュラル・フィニッシュ仕様で、特に大幅な改造はされていない。また、フレット数が22あるので、少なくとも1979年以降に製造されたものであることがわかる。箱鳴りを活かしたジャズ・トーンが得られると同時に、オルガンや管楽器との共演で必要な大音量でもハウリングを抑制できるこのモデルは、“憧れのベンソンが手にしている”という以上に実用的な意味合いがあったに違いない。
テキサス・ブルース~R&Bコーラス・グループ期(おもに1950~1960年代)はフェンダーのストラトキャスターを手にする写真が残っている。サンバースト・フィニッシュと(おそらく)ゴールド系フィニッシュの少なくとも2種類、ともにメイプル指板のものを所有していた。
ストラトキャスターは、テキサス・ブルース・スタイルに回帰した『White Pearl』(1988年)のジャケットにも現われるが、こちらはホワイト・フィニッシュでローズ指板。また、1970年代のR&Bのセッション・ワークではテレキャスターを使っていたこともあるようだ。
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