約20年にわたりエリック・クラプトンをサポートしてきたドイル・ブラムホールII。2023年4月の来日公演で、ドイルが使用したギターを一挙に紹介しよう。
取材・文=菊池真平 撮影=星野俊 協力=マティアス・ヨハンソン、前むつみ
Gibson Custom
ES-335TD(Doyle Bramhall II Custom Model)
カスタムで制作されたメインのES-335
2006年に行なわれたエリック・クラプトンの来日公演で、デレク・トラックスを含めたトリプル・ギター編成の一角として帯同し、弦を逆さまに張って弾く(※1弦側が6弦、6弦側が1弦)独自のスタイルで、日本のファンに強烈な印象を残したテキサス州出身のミュージシャン、ドイル・ブラムホール2世。その後の来日公演でも度々サポート・ギタリストとして登場し、2023年のツアーにも参加した。
彼はサポートだけではなく、精力的にソロ・アルバムをリリースするシンガーソングライターとしても活躍するミュージシャンだ。
そんなドイルが好むギターは、シンガーソングライターも愛用するモデルが多い。今回のツアーでメイン・ギターとして数多くの曲で使われたのが、世界初のセミ・アコースティック・ギターとして知られるES-335TDだ。エリック・クラプトンがクリーム時代に愛用したモデルとしても、ファンにはお馴染みだろう。このギターについて、ドイルのギター・テックを2015年から務めるマティアス・ヨハンソンに話を聞いた。
このES-335TDは、ギブソンがドイルのために作った、彼仕様のカスタム・モデルです。このギターをメイン・ギターとして使用し始めたのは、2018年頃だったと思います。ドイルはすべてのギターにアーニーボールの弦を張っていて、ゲージは.010~.048(Ultra Slinky #2227と思われる)です。
今回の撮影時、セットアップ中だったのか、もしくは本人が楽屋に持って行っていたのかはさだかではないが、舞台袖にセッティングされてはいなかった。そのため間近で確認することができず、詳しい仕様は不明だ。
ドット・ポジションマーク、ショート・ピックガードという仕様のため、ビンテージを意識したのであれば61~62年途中までの短い期間に作られたマニアックな仕様と言える。
Heritage H-535
美しいフレイム・トップのH-535
マーティンの000-28ECを手にしたエリック・クラプトンが、ジェフ・ベックを偲んで演奏したトラディショナル・フォークソング「Sam Hall」。その曲でドイルが手にしたギターが、ヘリテイジを代表するモデル“H-535”だ。これはそのレフト・ハンド・モデル。ボディやピックガードもにも、美しいフレイム杢が浮き出て高級感を感じさせる。
ヘリテイジ(・ギターズ)は、1985年にミシガン州カラマズーで生まれたブランドだ。ギブソンが1984年にカラマズー工場を閉鎖したあと、同地に留まるジム・デュローを中心としたクラフトマンたちによって生まれたため、伝統的なギブソンらしさも感じられる楽器作りに定評がある。
このギターはヘリテイジのH-535というモデルで、96か97年製だと思います。セミ・ホロウ・ボディでテキサス州ダラスのKiller Vintage Specialty Guitarsのカスタム“BAF”ピックアップを搭載しています。
ピックアップはオリジナルであればシャーラー製がマウントされているが、マティアスが教えてくれたとおりすでに交換されている。その詳細はわからなかったが、BAFというモデル名からPAFをベースとしたピックアップと思われる。またボリューム&トーン・ノブも、メタル・トップへと変更されているようだ。
ちなみに、Killer Vintage Specialty Guitarsは、テキサス州ダラスにあるビンテージを中心に中古や新品も取り扱う楽器店だ。
ES-335TDをメインに使っているように、ドイルはセミ・アコースティック・ギターを好んでいる。このギターはオープンGなどのチューニングで使われるようだ。
Fender
Stratocaster
かなりレアな左利き用のビンテージ・ストラトキャスター
ES-335TDがメイン・ギターとなる以前は、このビンテージのストラトキャスターをよく手にしていた。レフト・ハンド・モデルだが、もちろん弦は逆に張られている。そのためナットは作り変えられているはずだ。彼がストラトキャスターを手にするのは、ジミ・ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーンからの影響もあるのだろう。2023年4月24日公演では、「Crossroads」や「Cocaine」で使用された。
このギターは、1967年製の左利き用のストラトキャスターです。ドイルは毎回、どんなギターを使うか特に決めているわけではありません。その日の演奏やバンド、楽曲によって、使用するギターが変わることが多いですね。
マティアスは1967年製と教えてくれたが、ネック・プレートに刻まれたシリアルナンバーは、Lから始まる6桁でありFの刻印もなかった。このシリアルナンバーから年式を推測すると65年製となる。またスモール・ヘッドのため、おそらくは67年製ではなさそうだ。
ボディとネックが別ということも考えられるが、67年はストラトキャスターの市場に出てくることが少なくレアで、さらにレフト・ハンドとなれば幻の1本とも言える。また赤味が残っていて面積が少ない塗装の質感からも、おそらく65年頃のモデルという可能性のほうが高そうだ。
かなり弾き込まれており、チューナーは交換されていた。以前に来日した時よりも木部が見える面積が明らかに広がっている。ボディはアルダー材で、シンクロナイズド・トレモロのスプリングは、真ん中をはずして両側に2本ずつ張られていた。
Collings I-35(Doyle Bramhall II Custom Model)
ビンテージ・サウンドを奏でるカスタム・セミアコ
詳しい仕様は不明だが、ドイルのためにカスタム・メイドされたというコリングスのセミ・アコースティック・ギター“I-35”。ビル・コリングスが立ち上げた同ブランドは、マーティンのスタイルをベースにしたアコースティック・ギター作りで有名だが、近年では質の高いエレクトリック・ギターも手がけている。
このギターはピックガードが右側に付いているため、パッと見は右利き用に見えるが、おそらくマスター・ボリューム&トーンと思われるコントロールやピックアップのトグル・スイッチは左側に付けられた個性的な1本。通常のI-35は、ギブソンのES-335TDと同じ2ボリューム&2トーンとなっている。
ラミネイト・メイプル製と思われるボディは、深みのある3トーン・サンバースト・フィニッシュで、ラッカーが吹かれエイジド加工が施されている。ドイルのギターに近いレギュラー・モデルはI-35 LC Vintage Agedだが、やや赤みが強いフィニッシュに仕上げられている。
ちなみにレギュラー・モデルは、ピックアップにPAFのリプロダクションとして有名なThrobakのESG-102B、コンデンサーにLuxe製のBumblebeeレプリカがマウントされ、ビンテージ・ライクなトーンが得られる。ドイルのカスタム・モデルにマウントされたピックアップやコンデンサーは不明だが、やや角張ったピックアップ・カバーの形状は、初期のPAFを連想させる。
ネックやボディ・バックはやや赤味のあるブラウン系の色に塗られ、ヘッド裏には、コリングスのロゴが入ったゴトー製のチューナーが取り付けられていた。
Fender American Standard B-Bender Telecaster
右利き用ネック&左利き用ボディのベンダー搭載器
シリアルナンバーが“Z3”から始まることから、おそらく2003年製の左利き用のアメリカン・スタンダード・テレキャスターと推測できる1本。
このギターには、フェンダーの標準的な左利き用のBベンダーが取り付けられています。ドイルの好みに合わせてベンディングのテンションを私が調整した以外は、すべてフェンダーの工場から出荷された標準品と同じです。
とマティアスは教えてくれたが、ネックは右用が付いているため、カスタム・モデルもしくは、ネックのみ交換された個体なのだろうか。ほかの仕様に関しては、大きく変わっていないように思われる。
ちなみに2003年製のアメリカン・スタンダード・テレキャスターは、22fフレットの指板、6つに分かれ各弦の高さやピッチも調整できるサドルなど、現代的な仕様が盛り込まれている点が特徴だ。
Bベンダーはクラレンス・ホワイトとジーン・パーソンズ、2人の偉大なミュージシャンが発明したユニットで、パーソンズ・ホワイト・プルストリングと呼ばれていた。このシステムは、演奏中にヘッドを押し下げると、ストラップ・ピンにテンションがかかり2弦(B)をベンドして全音上げる(C♯)ことができる。おもにカントリー系のギタリストに愛用者が多い。
今回のツアーでは使われることはなかったが、ドイル・ブラムホール2世のプレイ・スタイルが幅広いことを物語る1本と言える。
アコースティック・ギター・マガジン2023年9月号 SUMMER ISSUE Vol.97
2023年7月27日発売の『アコースティック・ギター・マガジン2023年9月号 SUMMER ISSUE Vol.97』では、2023年4月来日公演でエリック・クラプトンが使用したアコースティック・ギター&関連機材を掲載!
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