ジミ・ヘンドリックスがギブソンのギターを選ぶ時 ジミ・ヘンドリックスがギブソンのギターを選ぶ時

ジミ・ヘンドリックスがギブソンのギターを選ぶ時

ストラトキャスターが絶対的アイコンであるジミ・ヘンドリックスだが、そのキャリアの中でレス・ポール・カスタムやフライングV、SGカスタムなどのギブソン製ギターも使用している。今回は彼とギブソン・ギターとの関係を簡単に振り返っていこう。

文=fuzzface66 Photo by James Andanson/Sygma via Getty Images

ジミ・ヘンドリックスがその伝説的なキャリアの中で最も愛用したエレクトリック・ギターといえば、言わずもがな“フェンダー・ストラトキャスター”である。それまで誰も成し得なかった、イマジネーション溢れる革新的なギター・プレイの数々は、そのほとんどがストラトキャスターによって紡ぎ出されたと言っても過言ではない。

しかし彼は、その短いキャリアの中で実に多くのギターを手にしており、シーンによってはギブソンのエレクトリック・ギターにしばしば持ち替えていたことも、またよく知られた事実である。

ブルースはギブソンで雄弁に語る

まず、時代的なことも重なってか、ジミが愛用したギブソン製エレクトリック・ギターは、フェンダー・ギターの到来を受けたあとに誕生したモデルばかり。そのため、軒並みソリッド・ボディであった。また、そのほとんどのモデルにビブラート・アームが取り付けられていた。

しかしそれらは、ストラトキャスターのような柔軟性に富んだプレイヤビリティを有しているとは言い難かった。実際、ステージにおいて「Purple Haze」、「Foxy Lady」、「Voodoo Child(Slight Return)」といったお馴染みのハード・ナンバーでギブソンを使用した形跡はまったくない。

ただ、フェンダーのソリッド・ボディとは異なる、ギブソンならではのニュアンスや、ピックアップの特性、スイッチと各ボリュームの組み合わせによって得られるミックス・サウンド、独特なフェイズ・サウンドなどは、ステージ上のジミの想像力(瞬発的作曲能力とも言いたい)を大いに刺激した。

スピード感や爆撃のような乱高下ではストラトキャスターに敵わないものの、ゆったりとしたテンポでギターに語らせることが重要なブルース・ナンバーで、わざわざギブソンに持ち替えることが多かったのも、そんな特徴に魅せられていたからなのかもしれない(ジミが敬愛するブルースの巨匠たちがギブソンを愛用していたことも無関係ではないだろう)。

幻と消えた、ギブソンによる新たな表現

またスタジオでも、楽曲によってはギブソンをメインで使用したり、時にはバンド・メンバーだったノエル・レディング(b)のアコースティック・ギター、J-160Eを爪弾くこともあったという。さらに、あのウッドストック公演へ向けて呼び寄せた旧友のギタリスト、ラリー・リーのためにジミが用意したギターも1955年製レス・ポール・カスタムだった。

晩年のジミは、のちにファンクやフュージョンといったジャンルに定義されるような方向性を強く打ち出していく。未完成なそれらのナンバーをステージで実験的に披露する際にも、ギブソンのギターを手にすることが多かった。もしかすると、来たるべき新たな夜明けをギブソンの音色で創造しようとしていたのかもしれない。

“ジミといえばストラトキャスター”という図式は揺るぎないものではあるが、ジミとギブソン・ギターという図式もまた、彼の多彩さを表わすうえで決して欠かすことのできない要素であり、その勇姿は我々の記憶に今も強く焼きついている。