ジミ・ヘンドリックスが手にした様々なギブソン・ギター ジミ・ヘンドリックスが手にした様々なギブソン・ギター

ジミ・ヘンドリックスが手にした様々なギブソン・ギター

ジミ・ヘンドリックスとギブソンの関係を紐解く特集『ジミ・ヘンドリックスとギブソン〜天才ギタリストが老舗ブランドに求めたもの〜』。これまでステージで使用された印象的なモデルをピックアップしてきたが、そのほかにもジミが手にしたギブソンのギターはいくつかある。最後はそれらを一挙に紹介していこう。

文=fuzzface66 写真=ギター・マガジン2002年4月号より

ジャズとの融合の実験に駆り出された、1950年代中期製レス・ポール・スペシャル

俗にTVイエローと呼ばれるライムド・マホガニー・ボディに、ソープ・バー・タイプのP-90を2基搭載した、バー・ブリッジ仕様のレス・ポール・スペシャル(上の写真)は、ジミのギブソン・ギターとして3本目に確認できるモデルである(正確な年式は不明だが、1950年代中期頃の製造と思われる)。

このモデルは、1968年5月31日スイス、チューリッヒのハレンシュターディオンで開催された“ザ・ビート・モンスター・コンサート”の2日目の本番前に、スティーヴ・ウィンウッドやデイヴ・メイソン、クリス・ウッドらと行なったジャム・セッションで使用された。また、同年6月14日にニューヨークのレコード・プラントで行なわれた「South Saturn Delta」のレコーディング・セッションでの使用が、今のところ確認されている。

特に、1997年にリリースされた同名タイトルのアルバムにも収録された「South Saturn Delta」では、アレンジャーのラリー・フェロンの指揮による4人のホーン・セクションと、レス・ポール・スペシャルを使用したジミのリード・ギターとの絡みが、音宇宙の広がりをイメージさせるような独特のニュアンスを生み出している。

この作品は未完成に終わっているが、ジャズとの融合を試みる側面を具体的にとらえた最初の作品としても、非常に興味深い(ジャズ・アレンジャーのラリー・フェロンを指名したのもジミである)。

ただし、ベーシック・トラックは、1ヵ月以上前の5月2日にジミとドラムのミッチ・ミッチェルの2人だけでレコーディングされており、イントロから登場するバッキング・ギターもレス・ポール・スペシャルが使用されているかは不明。ちなみにベースもジミがプレイしている。

その後このレス・ポール・スペシャルがどうなったのかは、今のところわかっていない。

サイケ・ペイントVのあとに入手した、サンバーストの1960年代後半製フライングV

ジミが使用したギブソン・ギターとして5本目に確認できるのが、サンバーストのフライングV。スペックから1968年~69年製と推測されるが、正確なところはわかっていない。

このモデルをジミが入手したのは、1969年1月に“サイケデリック・ペイントのフライングV”をエール・アパレントのミック・コックスに譲渡して以降と言われている。3月にニューヨークで行なわれた、ロニー・ヤングブラッドとのジャム・セッション時と思われる写真(服装やほかの写真との比較、日程の記録などから判断)で、ジミがこのフライングVらしき1本をプレイしているので、3月頃から使用され始めたのかもしれない。

また、翌4月から始まったエクスペリエンスのラスト・ツアーにおいて、20日のメモリアル・オーディトリアム公演や、5月18日のマディソン・スクエア・ガーデン公演のバックヤードで撮られた写真でも、ジミがこのフライングVをプレイしている。しかし、ステージでの使用は今のところ確認されていない。

レコーディング・エンジニアのエディ・クレイマーは以前インタビューで、この時期にレコード・プラントで行なわれたセッションで“ジミがフライングVをプレイしていた姿を記憶している”と述べていたが、このモデルの可能性が高いのではないだろうか。

現在は、ハード・ロック・カフェが運営するラスベガスのハード・ロック・ホテル・アンド・カジノが所有しているという。

謎多き、1960年代末製のビグスビー搭載SGカスタム

ラージ・ピックガードにハムバッカーが3基搭載されたレフティー・モデルのSGカスタムは、ジミが使用したギブソン・ギターとして6本目に確認できる。ビグスビー・ビブラート・ユニットが取り付けられた1本だ。また、モノクロ写真でしか確認できないため、正確なボディ・カラーは不明(ウォルナットという説やペルハム・ブルーという説もある)。

1970年1月にニューヨークのアンガノス・クラブで行なわれた、エルビン・ビショップとのジャム・セッションで、ジミがこのSGカスタムをプレイしている。このクラブのスタッフだったと名乗る人物の証言によると、頻繁にクラブを訪れてプレイしてくれるジミのために、オーナーが用意したモデルだったと言われている(前年の11月にはこのクラブでマウンテンのレスリー・ウェストとジャム・セッションを行なっている写真も残されている)。

このSGカスタムに関して、現在それ以上のことはわかっていない。

本特集をとおして、我々が写真や映像などから知り得る限りの“ジミが使用したギブソン製エレクトリック・ギター”をひと通りピックアップしたつもりだが、きっとまだまだ知られていないモデルはあるのだろう。

スタジオには何本かのギブソン・ギターがストックされていたという証言もあるし、レコード・プラント・スタジオでレス・ポール・スタンダードらしきシルエットのギターをプレイしているモノクロ写真も存在する(不明瞭なため詳細は不明)。

さらに、“ジミが弾いたことのある〜”となると、ジャム・セッションなどで他人の物をプレイしたこともあったはずだ。

実際、1968年6月にニューヨークのシーン・クラブで行なわれたジェフ・ベック・グループとのジャム・セッションでは、ジミがジェフのレス・ポール(ピックアップ・カバーがはずされ、トップの塗装も剥がされたモデル)をプレイしている写真も残っている。

また、ジミの27歳の誕生日である1969年11月27日には、ザ・ローリング・ストーンズのマディソン・スクエア・ガーデン公演を訪れ、バックヤードでミック・テイラーのSGスタンダードを使ってジャムしている映像も残されている。

ただ、ストラトキャスターと比べると、ジミが使用したギブソン・ギターの本数はたしかに少ない。しかし、それらもまたジミが愛したギターである。今宵はギブソンのギターでジミのナンバーをプレイしてみてはいかがだろうか?

ちなみに言うまでもないが、ステージでギブソンのギターが破壊されたことは一度もない。