ミュージシャンとしての“のん”を支えるギタリスト、ひぐちけい。彼女がステージで使用する機材を、のんが2023年7月9日にZepp Hanedaで行なった“PURSUE TOUR – 最強なんだ!!! -”の現場で撮影した。音の響き方を操るシステム構築術をご覧あれ。
文=福崎敬太 写真=星野俊
Guitars
1991 Moon LB-91
信頼のムーンで見つけた、“自分に合う”LPタイプ
ライブの前半、「Beautiful Stars」や「僕は君の太陽」、「むしゃくしゃ」などでロックなサウンドを奏でていたのが、このLB-91。中古で入手したために詳細は不明とのことだが、前オーナーによってビグスビーが搭載されているのがお気に入り。
コロナ禍に入ったばかりの頃に手に入れたそうだが、その経緯とお気に入りポイントについて、以下のように話してくれた。
Raggae Masterを使っているので、ムーンがどれだけ丁寧な作りかっていうのはわかっていて。それで、さらに強めの音が出せるものを探して、このLB-91を見つけたんです。
LPタイプは自分の音楽では使い所が少ないかなって思っていたんですけど、ビグスビーが付いていることで、フワッとしたサウンドになる。その音が凄く好きですね。
本器は1991年に150本のみ限定生産された稀少なモデルで、ムーンにとって初のセットネック・モデルだった。ビグスビーの装備のほか、バルトリーニ製ピックアップへの変更なども、前オーナーによるものだそう。
1965 Gibson B-25N
音響の知識が生かされたピックアップ選び
シリアルナンバーから1965年製と思われる、ギブソンのB-25N。小ぶりで取り回しの良い本器は、忌野清志郎「I LIKE YOU」とKIRINJI「エイリアンズ」のカバーで登場した。
ライブPAなどの音響を学んだひぐちが、試行錯誤した中でたどり着いたのが、サンライズのS-2マグネティック・ピックアップとコンタクト・タイプのアンフィニ・カスタム・ワークス(Enfini Custom Works)製ピエゾ・ピックアップの組み合わせ。
2つのピックアップの割合を後述するブレンダーで、会場の鳴りに合わせて、以下のようなイメージで調整しているそうだ。
ピエゾが生っぽい音がするけど、そればかりにすると金属音っぽい感じになってしまう。なので、マグネティックでまろやかにするイメージで調整をしています。
Pedalboard for Electric Guitar
以下がひぐちけいの足下だ。写真右側がアコギ用のペダルボードで、エレキ・ギター用のシステムは中央と左側の2枚のボードで構成されている。
まずはエレキ・ギターの信号が入力される、中央のボードから解説していこう。
【Pedal List】
①AMT ELECTRONICS/WH-1(ワウ・ペダル)
②テック作/カスタム・スイッチャー
③BOSS/MS-3(スイッチャー/マルチ・エフェクター)
④Mad Professor/Sweet Honey Overdrive(オーバードライブ)
⑤Studio Daydream/KCM-OD(オーバードライブ)
⑥Marshall/The Guv’nor(ディストーション)
⑦HAYASHI CRAFT/PC-92(ディストーション)
⑧Z. Vex/Box of Rock(ディストーション)
⑨Animals Pedal/Fishing is as fun as Fuzz(ファズ)
⑩BOSS/FS-7(フット・スイッチ)
⑪Z. Vex/Vexter Series Fat Fuzz Factory(ファズ)
⑫Vemuram/Jan Ray(オーバードライブ)
Sweet Honey Overdriveが基準
ギターからワウ①に入ると、ミリメーターズ・ミュージックの力武誠氏にカスタムで制作してもらったというスイッチャー②へと続く。
②のループには、歪み類がつながれたマルチ・エフェクター/スイッチャーの③が入っている。筐体右側に“FS”という文字があるが、普段はこの端子にアンプのフット・スイッチ信号を入力しており、②を踏むと③がオフになってアンプが歪みチャンネルに切り替わる、という仕様になっている。
②のアウトからはクランチ用のオーバードライブ④、ソロで踏むケンタ系⑤に入り、ボード外へと続く。
アンプとオーバードライブ④のサウンドが基準となっており、そこに⑥〜⑨の歪みを足していく形でサウンド・メイクしている。ハードめの歪みは⑥で、ディストーション⑦、ファズ⑧⑨などは楽曲によってチョイスする。そして、それをコントロールするのがスイッチャー③、というシステムだ。
なお、スイッチャー③に接続されたフット・スイッチ⑩で、各プリセットでトレモロを加えたり、タッチ・ワウを加えられるように設定されている。
⑪、⑫は接続されていない。
前述のオーバードライブ⑤からは、以下の足下左側に位置するセクションへと接続されている。
【Pedal List】
⑬Xotic/XVP-25K(ボリューム・ペダル)
⑭strymon/Lex(ロータリー・スピーカー・シミュレーター)
⑮Xotic/X-Blender(ブレンダー)
⑯TC Electronic/Plethora X5(マルチ・エフェクター)
⑰Eventide/TimeFactor(マルチ・ディレイ)
⑱MXR/Carbon Copy Deluxe(ディレイ)
⑲TC Electronic/Polytune 2(チューナー)
⑳IK Multimedia/iRig Blue Turn(ブルートゥース・フット・スイッチ)
空間演出にこだわりあり!
写真内での信号の出発点は、ボリューム・ペダル⑬。そこから⑭〜⑯を通過してアンプへと信号が送られている。
ブレンダー⑮にはディレイ⑰&⑱が接続されており、そのミックス具合をツマミで調整している。
また、マルチ・エフェクター⑯をリバーブ専用として導入しており、ホールやプレート、シマーなど、種類を細かく設定して使い分けている。
ちなみにブルートゥース・フット・スイッチの⑳は、iPadに接続して譜面送り用に使用。
Pedalboard for Acoustic Guitar
以下がアコースティック・ギター用のペダルボード。
リバーブは曲ごとにプリセット
ギターからの信号は、スタックMarine Blender(プリアンプ/ブレンダー)に2チャンネルで入力される。
Marine Blenderのセンド/リターンには、左側のTCエレクトロニックHALL OF FAME 2(リバーブ)をインサート。曲ごとにプリセットされており、「I Like You」はシンプルなホール・リバーブ、「エイリアンズ」はプリ・ディレイを上げた状態のプレート・リバーブにしている。
そしてMarine BlenderからPAに直接出力される。
なお、写真下のフット・スイッチは、Marine Blenderのミュート/ブースト用。
Amplifier
1980s Mesa/Boogie Mark III
木材の温かみを感じる愛用アンプ
ひぐちがステージで使用するメイン・アンプは、1988年頃のMark III。“ギュッと詰まった木で作られていることもあるのか、太くて温かい音がします”と、その印象を語ってくれた。
クリーンでカッティングをした際に“ちょっとパツっとした音色”になるようにセッティングをしており、1〜6弦がバランスよく鳴っているのを確認するため、サウンド・チェックはカッティングで行なうのがひぐち流。それを前出のSweet Honey Overdriveで少し抑える、というのが基準の音となる。
なお、ステージの構造や会場の特性、立ち位置によって、Bassを上げたり、Presenceを持ち上げたりするほか、一緒に演奏するミュージシャンとの兼ね合いで音の帯域は細かく調整するそうだ。
Others
ライブ中に同期音源を操作するのも、ひぐちの役割。以下がそのシステムだ。
Mac MiniでPro Toolsを使って同期を流している。オーディオ・インターフェースはMOTUのUltra Lite Mk3を使用。
作品データ
『PURSUE』
のん
KAIWA(RE)CORD/KRCD00011/2023年6月28日リリース
―Track List―
- Beautiful Stars
- ナマイキにスカート
- わたしは部屋充
- 薄っぺらいな
- エイリアンズ
- 夢が傷むから(Inspired by 東京百景)
- こっちを見てる
- 僕は君の太陽
- Oh! Oh! Oh!
- むしゃくしゃ
- この日々よ歌になれ
- 荒野に立つ
- Knock knock (ボーナストラック)
―Guitarists―
ひぐちけい、のん、堀込泰行、後藤正文、ユウ(チリヌルヲワカ)、飯尾芳史、古澤衛