エース・フレーリーが愛用したレス・ポール・カスタムの中に、“Budokan Les Paul”と呼ばれる1本がある。今回はその印象的なニックネームを持つカスタムについて、そしてその名の由来ともなった1977年の武道館公演についてのお話。
文=細川真平 Photo by Richard Creamer/Michael Ochs Archives/Getty Images
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日本のロック・キッズがテレビで観た、武道館公演の衝撃
1977年にキッスは初来日し、4月2日に行なわれた日本武道館公演の模様がNHK『ヤング・ミュージック・ショー』で5月7日に放送された。
今のようにネットはなく、洋楽ロックの情報と言えば雑誌とラジオからがほとんど、憧れのバンドの動く姿を観ることなど“夢”というような時代だった。そうした中で、不定期でオンエアされる『ヤング・ミュージック・ショー』を、当時のロック・ファンがどれほどまでに渇望したことか。
基本的にこの番組は海外で制作されたライブ映像を放送していたが、キッスの場合には、日本公演を特別に収録してオンエアということで、その衝撃度はかつてないほどだった。
バンドとしても、1974年にデビューし、1975年のライブ・アルバム『ALIVE!(地獄の狂獣 キッス・ライヴ)』で大ブレイク、1976年には『Destroyer(地獄の軍団)』、『Rock and Roll Over(地獄のロックファイアー)』と大ヒットを飛ばし、乗りに乗っている時期。
そうした様々な状況が絡み合って、この回の『ヤング・ミュージック・ショー』は伝説となった。
そしてまた、意外なところでは、RCサクセションの方向性にも影響を与えている。これは2008年の忌野清志郎と仲井戸“CHABO”麗市の対談で語られているのだが、2人は一緒に、仲井戸の家でこの放送を観て感激したのだそうだ(ただし、年末に行なわれた再放送だったようではある)。
清志郎はこの時のキッスを見て、自分もメイクをしようと思ったという。そして、“リズムもわかりやすい”し、“これぐらいなら弾けるだろう(笑)”とも思い、またロック精神あふれるステージングやストレートなMC、観客とのコール&レスポンスなどにも心を動かされた。
ただし、キッスだけではなく、同じ年にやはり『ヤング・ミュージック・ショー』で放送されたザ・ローリング・ストーンズのパリでのライブにも触発されたようだが、いずれにしてもこうして彼らは、翌1978年、フォーク・グループからロック・バンドへと大きく変貌する。
このように各方面に大きな影響を与えたこの武道館公演で、リード・ギタリストのエース・フレーリーが使ったのが、チェリー・サンバースト・フィニッシュ、3ピックアップ搭載のレス・ポール・カスタム。
武道館での大成功が世界的に喧伝されたためだろう、このギターは、“Budokan Les Paul”と呼ばれることになった。
エース・フレーリーの奏法と、ピックアップの配線
このカスタムは74年製。マホガニーの間にメイプルを挟み込んだパンケーキ・ボディに、3ピース・メイプル・トップを貼り付けた構造、3ピース・マホガニー・ネックが特徴だ。エースはこのギターを1976年にニューヨークのマニーズ・ミュージックで購入している。
購入後の改造点としては、ペグをグローヴァー製のバンジョー・ペグ仕様のものに変更、そしてセンター・ピックアップを増設している。このピックアップ増設は、エース自らがボディにザグリを入れて行なったそうだ。
そのピックアップは、リアがディマジオのSuper Distortion、センターとフロントがディマジオのPAF。“Super Distortion”は、1970〜80年代に世界を席巻したが、エースがこのピックアップのパワーとサウンドを世に知らしめた1人であることは間違いない。
しかし、1つ大きな特記事項がある。実は、センターとフロントのディマジオPAFは配線されておらず、リアのSuper Distortionしか音が出ないようになっているのだ。
これは、彼がリアしか使用しないこと以外にも理由がある。それは、彼が曲の最後などでピックアップ・セレクターを素早くカチカチ切り替える特殊奏法を効果的に行なうためだという(配線しなければ、セレクターのリア以外の位置がキル・スイッチとなるわけだ)。
しかし、それならピックアップは2つでいいのではないか? という気もするが、それについては“3ピックアップってのは、見た目がカッコいいからね!”と語っている。
この“Budokan”と名づけられたレス・ポール・カスタム、何から何までロックンロールなギターではないか。
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