ロンドン・パンクの象徴的バンド、セックス・ピストルズのギタリストであるスティーヴ・ジョーンズも、レス・ポール・カスタムの愛用者だ。このセクシーなステッカーが貼られた印象的な白い74年製カスタムについて、スティーヴらしいエピソードとともに紹介しよう。
文=細川真平 Photo by Tom Hill/Getty Images
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“本物の不良”がかき鳴らした1974年製
ロックが“不良の音楽”と言われることはもうほとんどないと思うが、それでも“不良性”は今でもロックの1つの魅力だろう。そこには、優等生ぶっている人間にはできないことをやっている者への憧れみたいなものがあるように思える。
だが、“不良性”を持っているだけではなく、中には本物の不良もいる。セックス・ピストルズは間違いなく、本物の不良たちのバンドだった。怖いものなしの本物の不良だからこそ反体制の象徴にもなり得たし、政治・社会状況へ向けてのアンチテーゼとともに、隆盛を誇っていたハード・ロックやプログレッシブ・ロックなどへのアンチテーゼの姿勢も貫くことができたのだと思う。
しかし、いったんそういうことを脇に置いても、彼らの唯一のスタジオ・アルバムとなった『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols(邦題:勝手にしやがれ!!)』 (1977年)は名盤だ。改めて聴き直してみると、ストレートにしてプリミティブな、“ロックンロール”としか呼びようのないその音楽性のかっこ良さに驚くし、ギター・サウンドの重さと、同時に存在する鋭いキレにも驚く。
そのギター・サウンドを生み出したスティーヴ・ジョーンズは、ホワイト・フィニッシュの74年製ギブソン・レス・ポール・カスタムを使っていた。
ボディ・バックは2枚のマホガニー材の間にメイプル材を挟んだパンケーキ構造。カスタムのネックが3ピース・メイプルに変更されるのは1975年からなので(レス・ポール・スタンダードは1969年から)、ネックはマホガニーの1ピースだ。ピックガードとピックアップ・カバーははずされており、何よりボディ・トップに貼られた2枚の古風なピンナップ・ガールのステッカーが目を引く。
このギターは、彼の前にはニューヨーク・ドールズのシルヴェイン・シルヴェイン(g)が所有していたものだった。1974年のニューヨーク・ドールズのライブ写真には、このカスタムが写っているものがある。それを見ると、すでにステッカーが貼られていることもわかるし(ただし、確認できた写真では1枚だけ貼られていた)、ピックガードとピックアップ・カバーがはずされていることもわかる。
スティーヴは、“ビグスビー・トレモロ・ユニットが付いていたが、音が狂うので取りはずした”と語っているのだが、シルヴェインの写真ではビグスビーは確認できなかった。
またステッカーについては、“何枚も貼られていたが、いくつかは剥がれてしまったので、自分でもいくつか貼った”と言っており、もっと多くのステッカーが貼られていた時期もあったことを示唆している。
オリジナルの行方は、本人のみぞ知る
このギターは、一時期ニューヨーク・ドールズのマネージャーを務め、その後セックス・ピストルズを世に送り出すことになるマルコム・マクラーレンが、ニューヨーク・ドールズのマネージメントが終了したあとにアメリカから持ち帰ったものだ。
どうやら借金のカタにシルヴェインからこのギターを取り上げたらしい。マルコムはこのギターを、これから一儲けさせてもらうはずのスティーヴに与えたというわけだ。
これが真相だが、これまでには“スティーヴがニューヨーク・ドールズから盗んだ”、“ミック・ロンソンから盗んだ”、“ポール・マッカートニーから盗んだ”などの噂が流布しており、そういう噂が立ってしまうところも彼らしいと言える。
しかし、もっとスティーヴらしい話もある。スティーヴはこのギターの偽物を、テキサスに住む人物にオリジナルだと称して売ったのだという。これは本人が言っていることだから間違いない。
また、オリジナルはピストルズ解散後に一度手放したが、麻薬に溺れていた時期のため手放した理由は忘れた、しかしその後に取り戻した、とも言っている。
だが、そのあたりの詳細については語ろうとしない。語らない理由はこうだ。
“ちょっと言えないな。黙っておかないとな。なんせ俺は、今でも偽物をオリジナルだと言って売りたいからさ”
この意味は、実際にはもうオリジナルは手元にないのに、偽物を売るためにオリジナルが手元にあることにしておきたいということだろうか……?
これは1996年の発言なのだが、もしかしたらそれ以降、何本もの偽物のカスタムが売られてきたのかもしれない。
やれやれ、やはりスティーヴは本物の不良のようだ。
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