クイーンのブライアン・メイにとって初めてのギターが、オランダのギター・メーカーであるエグモンド製の1本だった。友人との交換でブライアンは一度手放したのだが、のちに彼のもとに戻ってくることに。しかし彼が再び手にした時には、塗装が剥がされた状態であった。これを修復したのが、ビルダーのアンドリュー・ガイトン。今回はアンドリューに、その修復作業を振り返ってもらった。
質問作成=ashtei 翻訳=トミー・モリー 写真=本人提供
ギター・マガジン2024年3月号
『特集:ブライアン・メイ(クイーン)』
ギター・マガジン2024年3月号では、アンドリュー・ガイトンがレッド・スペシャルの実器を解析した際のことを回想したインタビュー記事を掲載。
貴重な体験談と、彼だからこそ語れるレッド・スペシャルの魅力は本誌でチェック!
あのエグモンドを分解した時のことは、まるで昨日のことのように思い出しますね
まずはあなたがギター製作家として活動するまでのキャリアを簡単に教えて下さい。
自分が経営していた看板製作の会社で様々なペイント作業を行なってきた中で、ギターのフィニッシュの依頼も受けるようになったんです。そこから徐々にギター製作の世界へと参入していきました。
当時はYouTubeなどもない時代でしたから、ギター製作のためのノウハウ本を1冊買って最初から最後まで何度も読み返して、読んだとおりにギターを作る日々でしたよ。それが23年前のことで、自分の道を進み続けてきたら、現在に至ったということです。
ブライアン・メイのギター製作に携わることになった経緯は?
ある日、私の知人から“ブライアンが初めて手にした、エグモンド(Egmond)というブランドのギターのリフィニッシュをやってくれないか?”という依頼があったんです。
それはブライアンが7歳の時に両親からプレゼントされた最初のギターでした。一時期は知人との交換で手放して、彼の手元に戻ってきた時にはフィニッシュが完璧に剥がされた状態だったんです。
そこでギター・テックのピート・マランドロンに、再び元の状態に戻したいという相談をしたようです。その話が知人経由で私の元にやってきて、私が作ってきたギターのフィニッシュ例をブライアンに見せる機会を得たんです。
あの時からすべてが始まり、ラッキーなことに大役を任せてもらうことになりました。
世界を代表する偉大なギタリストから仕事が依頼され、当時はどんな心境でしたか?
あのエグモンドを分解した時のことは、まるで昨日のことのように思い出しますね。ブロックと紙ヤスリを手にして、本当に怯えながら作業を始めました。高価なものではないにせよ、ブライアンが所有するギターというだけでとてつもなく貴重なものですからね。でも、ヤスリがけをし始めたら単なるギターのように感じられて、少しホッとしました。
修復される前はどんな状態だったのでしょうか?
私に手渡された時点でブリッジには6ペンス硬貨が固定されていたり、ブライアンによってちょっとしたタッチが加えられていました。そして、おそらく彼が父と作ったであろうピックアップが取り付けられた時の穴が残されていましたね。そういった穴をすべて埋めて、元の状態へ戻していきました。
エグモンドの修理内容は?
再びラッカー塗装を行なうことでした。元々はタバコ・サンバーストをホワイトのピンストライプで縁取った塗装のギターだったので、ブライアンはその時の状態に戻したがっていたのです。ネック周りに関しては、ブライアンの意向であまり大きな作業はしなかったと思います。サテンのような本来の手触りを気に入っていたようです。
では、ネックを取りはずす作業はしなかったのですか?
ネックをボルトオンで固定したデタッチャブル構造だったので、角度の調整は多少行なうために一度はずしましたね。特殊な構造でしたが、それでも問題はありませんでした。
ただ、ネックはひどく反っていたわけでも弦高が高かったわけでもなく、一般的な調整の範疇だったと思います。あくまでもブライアンが手に入れた当時のルックスに戻すことが目的でしたからね。
それが元でレッド・スペシャルは24インチになったのかもしれません
エグモンドの基本スペックをあなたがわかる範囲で教えて下さい。
当時のよくある廉価版ギターのようにかなりチープで、ボディは合板だったと思います。ネックに関しては定かではないですが、メイプルよりは柔らかかったと記憶しています。サイズ感はマーティンで言うシングル・オーで、キッズ・サイズのギターと言える小ささだった気がしますね。
ただ、私が弾くとチープなギターでしたが、驚くことにブライアンが演奏すると非常に素晴らしいサウンドでした。
エグモンドのアコギのネック・プロファイルはレッド・スペシャルと近い形状だと言うのは本当ですか?
そう言えるかもしれませんね。ブライアンがこんな話をしてくれたんです。彼はほぼ完璧にエグモンドのネック・プロファイルを再現したものを製作したのですが、指板の厚みが加わることを忘れていたようで。その状態のまま指板を接着したので、ナットのところで6mmほどさらに厚くなってしまったんです。そのためレッド・スペシャルはエグモンドよりも厚いネックとなっている、ということです。
しかし、そのあとに作られたレプリカには、指板分の厚みが増えていることが忘れられてできたものもあったようです。みんなそれなりのエンジニアなのにヘンな話だと思いましたね(笑)。
エグモンドのスケールはどうでしたか?
レス・ポールやリッケンバッカーよりも短いスケールだったと思います。あってもせいぜい24インチ。ひょっとしたらそれが元で、レッド・スペシャルは24インチになったのかもしれませんね。
あの時は再び塗装することだけが目的だったので細かく測定をしなかったのですが、2/3スケールのギターにありがちなサイズのようだった気がしますね。
エグモンドの修復後は、ブライアンからどんな作業を依頼されましたか?
そのすぐあとに2件の依頼がありました。1つはカナダ製のブランド、シーガルのアコースティック・ギターの簡単なセットアップです。それからもう1つは、シタールのようなサウンドにして使っていたアコースティック・ギターの調整でした。ブライアンはブリッジ付近に服飾用の長いピンを挟んで、意図的に弦をビビらせて音を鳴らしていたのです。
クイーンの1stか2ndアルバムの時にはすでに使っていたそうで、フレディのボーカルの背景にシタールのような音が聴こえていた曲(編注:「White Queen (As It Began)」を指していると思われる)はまさにこのギターのサウンドによるものでした。サドルに隣接する絶妙なところにピンを配置させないと、キレイなシタール・サウンドが得られなかったのです。かなり前のことでもあるので具体的にどんな作業をしたのかはもう覚えていないのですが……。
このアコースティック・ギターを調整している時にレッド・スペシャルの解析の話が舞い込んできてしまい、それで記憶がすべて持っていかれたのです(笑)。
ギター・マガジン2024年3月号
『特集:ブライアン・メイ(クイーン)』
ギター・マガジン2024年3月号では、アンドリュー・ガイトンがレッド・スペシャルの実器を解析した際のことを回想したインタビュー記事を掲載。
貴重な体験談と、彼だからこそ語れるレッド・スペシャルの魅力は本誌でチェック!