クラッショキャスターとエリック・クラプトン 印象的なペイント・ストラトキャスター クラッショキャスターとエリック・クラプトン 印象的なペイント・ストラトキャスター

クラッショキャスターとエリック・クラプトン 印象的なペイント・ストラトキャスター

2000年代に入ってからエリック・クラプトンがステージで使用する、ボディにグラフィティ・アートが施されたストラトキャスターを見たことがあるだろう。クラッシュというアーティストが意匠を手がけたもので、通称“クラッショキャスター(CRASHOCASTER)”。今回はエリックとクラッシュとの出会いから、いくつか存在するクラッショキャスターについておさらいしていこう。

文=細川真平

クラッシュとの出会い

エリック・クラプトンはおもに2001年から2004年まで、グラフィティ・アートが施されたストラトキャスターを使用した。これは、グラフィティ・アーティストであるクラッシュ(本名:ジョン・メイトス)によるデザインで、エリックのギター・テックだったリー・ジャクソンによって“クラッショキャスター(CRASHOCASTER)”という愛称がつけられている。

エリックとクラッシュは1996年にニューヨークで出会っている。エリックはグラミー賞授賞式のためにその地を訪れていた(この年、「Change The World」で“レコード・オブ・ジ・イヤー”を受賞)。2人には共通の知人がいて、その人がクラッシュの電話番号をエリックに伝え、エリックからクラッシュに電話をしたそうだ。

そしてエリックは、ギターにペイントできるかどうかをクラッシュに尋ね、クラッシュは求めに応じてストラトキャスターにグラフィティ・アートを施した。“ギターにペイントするのは、なかなか難しいことだった”と本人が語っている。

彼らの馴れ初めは上記のとおりなのだが、クラッシュがペイントしたストラトは5本あり、そのうち公に登場したのは3本(後述する2019年、2023年のものは除く)。ただ、その5本がどの時期に製作されたのかというと、あやふやだ。

ギター・テックだったリーによると、2001年のツアーに備えて未塗装のボディだけをクラッシュに送り、ペイントが上がったものにフェンダー・カスタムショップのトッド・クラウスがクリア塗装を施したという。ということは、1996年に最初の1本が製作され、それを除く4本が2001年のツアーのために製作されたのかもしれない。いずれにせよ、リーの証言では、ボディが“bodies”と複数形になっているので、この時に何本かがまとめて製作されたことは間違いなさそうだ。

なぜ初期にストラトキャスターを選ばなかったのか

エリックはクラッショキャスター1号(ここでは便宜上、1号と呼ぶ。左のホーンのあたりに、サークル模様が描かれているのが特徴)を、2001年1月19日、ニューヨークのカーネギー・ホールで行なわれた“ワイクリフ・ジョン・オールスター・ジャム”で初めて使用、その後の『Reptile』ツアーでもメインで使った。
この1号は、日本でも2003年の来日ツアーで初お目見えしている。

しかし日本では、2001年11〜12月のツアーで、すでに2号(左のホーンのあたりのアメーバ状の模様が特徴)が使用されていた。この2号は2004年にも少し使われたようだが、その頃おもに使われていたのは3号だった。

3号は左のホーン部分が赤色で、全体に直線的なデザインになっており、フェンダー・カスタム・ショップのマーク・ケンドリックによる、全体が透明でコントロール部分のみが金属製になっているピックガードが特徴だ。この3号は、2004年3月15日にロンドンのロイヤル・アルバートホールで行なわれたベネフィット・コンサートでデビュー。その後、6月4日〜6日に米テキサス州ダラスで開催された、記念すべき第1回“クロスロード・ギター・フェスティバル”でも使われたが、それだけではなく、ステージ上の装飾や告知物などの公式デザインにも採用された。

それもそのはずで、このギターは目玉である“ブラッキー”などと同時に、クロスロード・センターの資金調達のために、この年6月のオークションに出品されることになっていたのだった。落札額は321,100ドルという、かなりの高額になった。

その後、2019年9月20日、21日に久しぶりにダラスで開催された“クロスロード・ギター・フェスティバル”では、クラッシュが新たにペイントした“クラッショキャスター”(6号になるだろうか)が登場した。これは、ペンキの滴を上からダイナミックに迸らせたかのような、最もグラフィティ(落書き)的なデザインとなっている。

エリック・クラプトンとクラッショ・キャスター
2019年のクロスロード・ギター・フェスティバルの模様。

また、2023年9月23日、24日にロサンゼルスで行なわれた“クロスロード・ギター・フェスティバル”でも、新“クラッショキャスター”(7号)が使われた。これは、同年にギター・センターから、クロスロード・センターの25周年記念として60本のみ限定発売された、新作“クラッショキャスター”のデザイン違い/本人仕様バージョンのようだ。市販版が左のホーンの部分が濃い青なのに対して、エリックのものは白い。

エリックはクラッシュの作品が好きだったからこそ、こうして彼の手によるグラフィティ・ギターを何本も所有、使用したのだろう。

だが実は、クラッシュ以外のアーティストにペイントさせたストラトも何本も所有している。そうしたところからは、きっとエリックは、こうした現代的なアート自体が好きなのだろうとも思わせられる。