2024年4月、アトラクションズ時代からの盟友スティーヴ・ナイーヴ(k)とのデュオ編成で8年ぶりとなる来日公演を行なったエルヴィス・コステロ。本記事ではコステロの3台のアンプと2つのペダルボードを紹介する。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊
Electric Main Set
Magnatone/Troubadour M192-5-T
シンプルなコントロールのビンテージ・アンプ
コステロが今回のデュオ・ライブで使用したメインのアンプは、1940年代後半から50年代前半に製造されていたMagnatoneのTroubadour M192-5-Tというモデル。ブラックのアリゲーター・トーレックスが貼られ、スピーカーは12インチを1発搭載。
最終日の浅草公会堂でのライブでは、66年製ジャズマスターを使用する際はすべて本機から音を出していた。
本機には楽器用のインプット(INSTRUMENTS)が2つ、マイク用のインプット(MICROPHINE)が1つあり、コントロールは楽器用のボリューム(INST. VOLUME)、マイク用のボリューム(MIC. VOLUME)、そしてトーン(SWITCH-TONE)という3つのツマミのみ。
ギターからペダルボードを通り、INSTRUMENTSの1にインプット。INST. VOLUMEは6の位置、SWITCH-TONEは7過ぎの位置に設定されていた。SWITCH-TONEには“PULL ON”と書かれたシールが貼られており、PUSH/PULL仕様になっていることがわかる。
ギター・テックによると、2019年9月、コステロがナッシュビルで開催された“Americana Honors & Awards”という授賞式に出席する日に、行きつけの“Carter Vintage Guitars”という楽器店で本機を購入し、“買っちゃった。今夜のステージで使いたいんだけど”と会場に持ってきたとのこと。
購入当初は経年劣化でコンデンサがオイル漏れしていたようだが、コステロは逆にそのサウンドを気に入り、オイル漏れした状態と同じ値のコンデンサに交換したという。このような修理/改造はよく行なわれるそうで、コステロは新品よりも経年劣化したサウンドを好む傾向にあるそうだ。
Main Pedalboard
【Pedal List】
①Mr. Black/Boost Tiger(ブースター)
②Drunk Beaver Pedals/Bloom V2(オーバードライブ)
③strymon/DECO V1(テープ・サチュレーション)
④strymon/FLINT V2(リバーブ/トレモロ)
⑤Teisco/Fuzz Pedal(ファズ)
⑥Electro-Harmonix/Deluxe Memory Man Analog.Man Mod.(ディレイ)
⑧strymon/Zuma(パワーサプライ)
これはMagnatoneのTroubadourにつながれていたペダルボードで、ステージ上手に置かれた椅子の下にセットされていた。ギターからの接続順は①〜⑥の番号どおり。
普段のインポスターズのライブではボブ・ブラッドショウが組んだCAEのシステムを使用しており、このボードはそれの簡易版だという(インポスターズで来日した際には、ぜひコステロのフル・セットの機材を撮影させてほしいとお願いしておいた)。
メインの歪みは①Boost Tiger。ゲインを上げたい時は②Bloom V2や③DECO V1のTAPE SATURATIONでブーストさせ、最も歪ませる際は⑤Fuzz Pedalを踏む。②Bloom V2はDistortionモードを選択し、VOICEスイッチをLEDに設定。⑤Fuzz Pedalはアッパー・オクターブ・スイッチがオフになっていた。
「Watching The Detectives」や「Battered Old Bird」では、④FLINT V2の’61 harmトレモロと’60sリバーブ、⑤Fuzz Pedal、⑥Deluxe Memory Manを同時にオンにし、ノイズを出しているとのこと。
ほかにも「Radio Radio」や「Tokyo Storm Warning」など、このボードを使用する時はほとんど④FLINT V2のトレモロをオンにしていたのが印象的だった。コステロはstrymonのペダルがお気に入りだという。
Electric 2nd Set
1950’s Fender/Deluxe
ロックなサウンドのTweed Deluxe
浅草公会堂でのライブでは、アンコールの「Farewell, OK」と「Alison」でCali Guitarsの折りたたみギターと共に使用された50年代のDeluxe。本機はインプット端子が3つ、ワイド・パネルという52年〜55年前半までの仕様を備えている。スピーカーが現行のCelestion G12Mに交換されていた。
ギターから後述のペダルボードを通り、INSTRUMENTS端子にインプット。各ツマミはINST VOLを5の位置、TONEを9の位置にセッティング。MIC VOLツマミが4の位置になっているが、これはゲインを落としたくなった時にMIC端子につなぎ変えるためだという。
意図的なセッティングだったのかは不明だが、メイン・アンプのMagnatone Troubadourを使用した時はモコモコした音量の小さいサウンドだったのに対し、本機を使用した際は突き抜けてくるようなロックなサウンドで、音量も大きかった。
2nd Pedalboard
【Pedal List】
⑧CopperSound Pedals/Triplegraph(ピッチ・シフター)
⑨strymon/UltraViolet(ヴァイブ)
⑩strymon/FLINT V1(リバーブ/トレモロ)
⑪Stomp Under Foot/Dire Wolf(オーバードライブ)
⑫BOSS/RE-202(ディレイ)
⑬strymon/Zuma(パワーサプライ)
上記のDeluxeにつながれていたペダルボード。ギターからの接続順は⑧〜⑫の番号どおり。
浅草公会堂でのライブでは、おそらく⑪Dire Wolfでメインの歪みを作っていたと思われる。そのほかは「Alison」で⑩FLINT V1のトレモロをオンにした以外、残りのペダルは使用されなかった。⑨UltraVioletはフランジャーのようなサウンドで使うことがあるという。
Harmony/The Vagabond Set
1954 Fender/Deluxe
Greer Amps/Arbuckle Trem
The Vagabond専用のアンプ&トレモロ
HarmonyのThe Vagabondを弾く際はDIやペダルボードを用いず、Greer AmpsのArbuckle Trem(トレモロ)を経由して54年製DeluxeのINSTRUMENTS端子にインプット。Arbuckle Tremは常時オンになっていた。
INSTRUMENTS端子にインプットし、各ツマミはINST VOLを4の位置、TONEを9の位置にセッティング。
浅草公会堂でのライブでは、「So Like Candy」、「Magnificent Hurt」、「The Man You Love To Hate」、「More Than Rain」、「I Want You」の5曲で使用された。
アンプは70年前のものとは思えないほどキレイな見た目をしているが、ツイードとサランネットが張り替えられているとのこと。本機はステージ上手の袖に置かれていた。
Acoustic DI
Radial/J48
今回、コステロは合計4本のアコースティック・ギター(HarmonyのThe Vagabondを除く)を使用しており、それぞれにRadialのJ48(アクティブDI)が用意されていた。本機はモニター・エンジニアが選んだもので、“スタンダードかつクリーンな音が得られるから使っている”とコメント。4台すべてのグランドリフト・スイッチがオンになっていた。