『At Fillmore East』の名演を奏でたデュアン・オールマンのSGスタンダード|ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集 『At Fillmore East』の名演を奏でたデュアン・オールマンのSGスタンダード|ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集

『At Fillmore East』の名演を奏でたデュアン・オールマンのSGスタンダード|ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集

1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。第3回はデュアン・オールマン!

文=細川真平 Photo by David Warner Ellis/Redferns

ディッキー・ベッツが所有していた1961年製のSGスタンダード

 1971年に、わずか24歳にしてオートバイ事故で亡くなったデュアン・オールマン(正しい英語の発音では“デュエイン/ドゥエイン”となるが、ここでは日本での慣例的な呼び方に従って“デュアン”と表記する)。

 米アラバマ州マッスルショールズのフェイム・スタジオでのセッション・マン時代には、ウィルソン・ピケットの「Hey Jude」(1969年)、ボズ・スキャッグスの「Loan Me a Dime」(1969年)など、その後のオールマン・ブラザーズ・バンドでは、ライブ・アルバム『At Fillmore East』(1971年)を筆頭に、数々の名演を遺した。

 また、客演したデレク・アンド・ザ・ドミノスの『Layla and Other Assorted Love Songs』(1970年)は、彼が参加したからこそここまでの名盤になったと言っても過言ではない。

 彼の最大の魅力は、スライド・プレイにある。

 ……とは言い切れないほど、押弦プレイもあまりにも素晴らしいのだが、彼を語るうえで最も特徴的なプレイと言えば、やはりスライドになるだろう。

 1971年に、そのスライド・プレイ時に活躍したのが、ギブソンSGスタンダードだ(ただし1961年製なので、リリースされた当時は“新レス・ポール”だった)。

 このギターはもともと、オールマンズのもう1人のギタリストで、惜しくも2024年4月18日に亡くなったディッキー・ベッツが所有していたものだ。ディッキーがこれを入手したのは1970年の春ごろ、フロリダ州ゲインズビルのLipham Musicという楽器店でのこと。

 これには、その店に取り置きしてもらっていたこのSGを、ツアーでその地に来たオールマンズのメンバーに横取りされたという旨の客の証言が残っている。

 しかし一方で、ディッキー自身は“バンド(オールマンズのことと思われる)を始めたときからこのSGを持っていた”と発言しており、このあたりの真偽は不明だ。

左から、ディッキー・ベッツ、デュアン・オールマン。
左から、ディッキー・ベッツ、デュアン・オールマン。

 いずれにしても、このSGはディッキーが所有・使用していたものだが、それがデュアンの手に渡ったのには理由がある。

 デュアンはスライド・プレイのとき、オープンEチューニングにすることが多い(オープンAのときも、レギュラー・チューニングのときもあったが)。その場合彼は、ステージ上でいちいちチューニングをし直していたそうだ。

 それに時間がかかることにうんざりしていたディッキーは、1971年に1957年製レス・ポールを手に入れたのを機に“このギターを持って行って、チューニングを直して(オープン・チューニングにして)使え!”とデュアンに自分のSGを渡したのだという。

 デュアンはこのSGを非常に気に入って、スライド・プレイで用いるようになり、冒頭でご紹介した永遠の名ライブ・アルバム『At Fillmore East』の中でも使用している。

 ただし、どの曲でこのSGが使われているのかは、今でもファンの間で議論が絶えない(前述のとおり、彼はレギュラー・チューニングでスライドをすることもあったし、相変わらずステージ上でチューニングを変える場合もあって、スライド・プレイに必ずSGを使用していたわけではないからだ)。

デュアンが愛したシリアル・ナンバー“15263”のSG

 このSGのシリアル・ナンバーは“15263”。チェリー・レッド・フィニッシュで、搭載されていたサイドウェイズ・ヴァイブローラ・トレモロ・ユニットは外され、ナイロン・サドルのABR-1ブリッジにストップ・テイルピースが付けられている。これは、ディッキーが入手した後に改造したもののようだ。

 また、ペグはロトマティック・タイプに、PUセレクター・ノブはグレッチ製のブラスのものに変更され、またトラス・ロッド・カバーは“Les Paul”の文字がない1プライのものに交換されている。これらのモディファイがどの時点でなされたのか、もしくはディッキーが入手した時点でこうなっていたのかは不明だ。ピックアップはストックのギブソンPAFを2基搭載している。

デュアン・オールマン

 デュアンが亡くなったのは1971年10月29日。『At Fillmore East』が録音されたのが同年の3月だから、そのころから彼がこのSGを使いはじめたとして、使用期間は7か月かそこらのことでしかない。

 しかしその短い間に、彼はこのSGを愛し、スライド・プレイ時の心強い相棒とした。

 彼が亡くなったとき、このSGは当初、彼と一緒に埋葬されることになっていたという。だが、弟のグレッグ・オールマンが“俺に何かあったら、このSGはジェリー・グルーム(デュアンからスライドの手ほどきを受けたこともあるギタリスト)に渡してほしい”とデュアンが言っていたことを思い出し、ジェリーに譲られることになった。

 その後、グラハム・ナッシュの奥さんが、グラハムへの誕生プレゼントとしてジェリーからこれを購入したとされている。

 だが、ナッシュはある楽器店を経由して買ったと言っており、そのあたりの詳細は不明だ。いずれにしてもどこかのタイミングからグラハムが所有していたが、2019年にオークションに出され、591,000ドルで落札された。落札者は公開されていない。

 その後、2022年6月、テネシー州で開催されたリバーベンド・フェスティバルで、ガヴァメント・ミュールのウォーレン・ヘインズ(彼はオールマンズのメンバーだったこともある)がこのSGを使用している。

 ただ、どういう経緯で彼がこのとき、このギターを使うことになったのかは分からない。

 ところで、ギブソンは2011年に、このSGのレプリカ・モデルを限定発売している。そのときのモデル名は、Dickey Betts SG “From One Brother to Another”。

 ディッキーからデュアンに渡ったこの伝説のギターのレプリカとして、これ以上ないほどに相応しい名前だった。

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