後期ビートルズ・サウンドに不可欠だった、ジョージ・ハリスンのSGスタンダード 後期ビートルズ・サウンドに不可欠だった、ジョージ・ハリスンのSGスタンダード

後期ビートルズ・サウンドに不可欠だった、ジョージ・ハリスンのSGスタンダード

1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。今回はビートルズの『Revolver』など多くのアルバム・レコーディングでも使用された、ジョージ・ハリスンの1964年製SGスタンダードにまつわる物語をお届け。

文=細川真平 Photo by Jeff Hochberg/Getty Images

1966年から使い始めた64年製SGスタンダード

ジョージ・ハリスンが愛用したギターは、グレッチのデュオ・ジェットやカントリー・ジェントルマン、テネシアン、リッケンバッカーの425や360/12、エピフォン・カジノ、フェンダー・ストラトキャスター、テレキャスター、ギブソン・レス・ポールなど数々あるが、ギブソンSGスタンダードもその一つ。彼が使用したほかのギターよりも印象はやや薄いかもしれないが、実は多彩な音楽性を展開していった後期ビートルズ・サウンドにとってなくてはならないものだった。

ジョージのSGスタンダードは1964年製で、シリアル・ナンバーは“227666”。ギブソン/マエストロのビブラート・ユニットが搭載されている。このギターにはギブソン社の出荷データも残っており、出荷日は1964年10月9日。10月9日というのは、奇しくもジョン・レノンの誕生日だ。

1966年5月1日、ニュー・ミュージカル・エクスプレスのコンサートに出演した際のザ・ビートルズ。
1966年5月1日、ニュー・ミュージカル・エクスプレスのコンサートに出演した際のザ・ビートルズ。

ジョージはこのSGを1966年から使用し始めている。中古だったのか新品だったのか、どこでいつ購入したのかなどの詳細は不明だ。同年のビートルズのアルバム『Revolver』では「She Said She Said」、「Doctor Robert」などで、同時期のシングルでは「Paperback Writer」とそのB面だった「Rain」で使われた。当時制作された両シングル曲のプロモーション用映像は、今ではビートルズの公式YouTubeチャンネルに上がっており、ジョージがこのSGを弾いている姿を確認することができる。

1966年8月29日の米サンフランシスコ公演をもってビートルズがライブ活動をやめたこともあって、公の場でこのSGが使用されたのは、同年5月1日に英ロンドンのエンパイア・プール(現ウェンブリー・アリーナ)で行なわれた“New Musical Express Annual Poll-Winners’All-Star Concert”(ビートルズのイギリスでの最後の公式ライブ)と、その後のツアー初日である西独(当時)のミュンヘン公演のみ。ただし、そのツアーでは常にサブとして用意されており、それは1966年6〜7月の日本公演でも同じだった。

このSGはその後も愛用され、アルバム『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年)、『Magical Mystery Tour』(1967年)、『The Beatles』(1968年/通称『White Album』)、『Yellow Submarine』(1969年)や、同時期のシングル曲のレコーディングで活躍。楽曲で言えば、「Lady Madonna」、「Hey Bulldog」、「Hey Jude」、「Revolution」、「Everybody’s Got Something to Hide Except Me and My Monkey」、「Sexy Sadie」などでの使用が確認されている。「Lady Madonna」、「Hey Bulldog」もプロモ映像がビートルズ公式YouTubeチャンネルにあるので、ぜひご覧いただきたい。ジョージのギターの扱い方が丁寧なのか、非常にきれいな状態であることがわかる。また、『The Beatles』ではジョンがこのジョージのSGを使ったことも知られている。

ジョージが後輩に譲ったSGのその後

しかし、1969年にジョージはこのSGを、アップル・レコードからデビューすることになった弟分的なバンド、バッドフィンガーのギタリスト、ピート・ハムに譲る(実際にはバンドに対して譲り、ピートと同バンドのメンバーであるトム・エヴァンズが争った末にピートのものになったという説も)。ピートはこのギターを、「No Matter What」(1970年)や「Baby Blue」(1972年)などで使用した。

1973年、バッドフィンガーのステージでジョージのSGを持つピート・ハム。(Photo by Michael Putland/Getty Images)
1973年、バッドフィンガーのステージでジョージのSGを持つピート・ハム。(Photo by Michael Putland/Getty Images)

ジョージがSGを後輩に譲ったのは、エリック・クラプトンから赤にリフィニッシュされたレス・ポール、通称“ルーシー”をプレゼントされ、SGが必要なくなったからという説もあるが、真偽は不明。また、ここで紹介しているSGとは別に、やはりエリックがジョージに贈ったSGもあるのだが、ジョージはそれをビートルズでは使用していない。

1974年にピートは亡くなり、このSGは彼の弟の家で保管されていたが、2001年に米オハイオ州クリーブランドのロックの殿堂に貸し出され、展示されることに。その後、2004年になってオークションに出品され、56万7000ドルで落札された。落札したのは実業家であり、アメリカン・フットボールのインディアナポリス・コルツのオーナーでもあるジム・アーセイ。彼はまた、ビートルズ機材のコレクターとしても知られている。

このオークション出品時の写真を見ると、ペグがオリジナルのクルーソン製からシャーラー製に交換されていることがわかる。また、ボディ左サイドにやや大きめの傷もついている。ビートルズのプロモ映像と見比べてみると、これらはピートに譲られて以降の変更・変化だと思っていいだろう。

ジョージの使用ギターの中では目立たない存在でありながら、実際には非常に重要な役割を果たしたSG。ビートルズ・ナンバーの中で、そのサウンドは永遠に生き続けている。

2021年12月9日にテキサス州オースティンで開催された“ジム・アーセイ・コレクション”のレセプションで展示されたジョージのSG(左上)。ペグがジョージ使用時と同じオリジナルのクルーソン製(もしくはその同等品)に戻されている。(Photo by Gary Miller/Getty Images)
2021年12月9日にテキサス州オースティンで開催された“ジム・アーセイ・コレクション”のレセプションで展示されたジョージのSG(左上)。ペグがジョージ使用時と同じオリジナルのクルーソン製(もしくはその同等品)に戻されている。(Photo by Gary Miller/Getty Images)

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