T-ボーン・ウォーカーの革新的な奏法を支えた、3本のギブソン製フル・アコースティック T-ボーン・ウォーカーの革新的な奏法を支えた、3本のギブソン製フル・アコースティック

T-ボーン・ウォーカーの革新的な奏法を支えた、3本のギブソン製フル・アコースティック

毎週、1人のブルース・ギタリストに焦点を当てて深掘りしていく新連載『ブルース・ギター・ヒーローズ』。今回は、T-ボーン・ウォーカーがキャリアを通して愛用した、印象的な3本のギブソン製フル・アコースティック・ギターにフォーカスしてみよう。

文=久保木靖 Photo by Evening Standard/Hulton Archive/Getty Images

エレクトリック・ギター黎明期に登場したES-250

シーンの第一線に登場し、不動の地位を築いた1940年代、T-ボーンが手にしていたのはギブソンES-250だ。

DVD『Guitar Signature Licks : T-Bone Walker』(Hal Leonard)のジャケット。
DVD『Guitar Signature Licks : T-Bone Walker』(Hal Leonard)のジャケット。

ES-250は、最初のエレクトリック・ギターES-150の上位機種として1939年末に発売が開始された。L-7をベースとしたボディ幅は17インチで、チャーリー・クリスチャン・タイプのピックアップを搭載。その後、いくつかの仕様変更があったものの、1940年の製造中止までに70本しか世に出回らなかったレアなモデルである。

T-ボーンが弾いたのはサンバースト・フィニッシュかつ指板が19フレットまでであることから、発売当初のモデルであることがわかる。本を開いたような形状の“オープン・ブック・インレイ”のポジション・マークや、階段状にデザインされた“ステアステップ・ヘッド”が特徴的だ。

「Bobby Sox Blues」や「T-Bone Jumps Again」、「Call It Stormy Monday」など、Black & White期の名演はこのギターで録音されたと言われている。

ゴージャスな3ピックアップ・モデル、ES-5

写真や映像で目にする機会が多いのがES-5。1960年代に収録されたライブ映像のほか、有名な股割りポーズで頭の後ろで弾いている写真、そしておそらく『T-Bone Blues』(1959年)などに写り込んだギターだ。

Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

ES-5はL-5 Cに次ぐ上位モデルとして1949年に登場。17インチのボディ幅にP-90ピックアップを3基マウントしたゴージャスな仕様となっている。

T-ボーンは、ストップ・バー・タイプのブリッジ、3つのボリューム・コントロールとマスター・トーン・コントロール、杢目がキレイなナチュラル・フィニッシュという初期の個体を使用していた。ただ、このギターは1960年代後半に盗難に遭ってしまったようだ。

ちなみに1955年、ES-5のブリッジはチューン・オー・マティックとなり、コントロールは6つへ増設、さらに4ウェイ・スロッテッド・スイッチが搭載され、モデル名がES-5 Switchmasterと変更される。

ダブル・カッタウェイを採用した“Barney Kessel Model”

そして晩年のT-ボーンが手にしたのはBarney Kessel Model。『Every Day I Have The Blues』(1969年)や『Stormy Monday Blues』(1970年)のジャケットで見られるほか、晩年のライブ映像にも登場する。

『Every Day I Have The Blues』(1969年)
『Every Day I Have The Blues』(1969年)のジャケット。

モデル名のとおり、ジャズ・ギタリストのバーニー・ケッセルのシグネチャー・モデルとして作られたものの、当の本人があまり使用しなかったという曰くつき。ネック上部からの親指による押弦をハイ・ポジションでも容易にするためにダブル・カッタウェイ仕様となったもので、フルアコでは非常にレアなフォルムだ。

RegularとCustomの2タイプがあり、17インチ・ボディ幅でハムバッカーを2基搭載、チェリー・サンバースト・フィニッシュといったスペックを共有するが、T-ボーンの個体はヘッド・インレイがクラウン、ポジション・マークがダブル・パラレログラムのRegularのほうだ。

親指で低音弦を押さえるのに便利と思ったのか(とはいえ、T-ボーンはあまりハイ・ポジションでは弾かないが……)、もしくは、以前バーニー・ケッセルと共演(『T-Bone Blues』)したことが関係あるのか、いずれにせよ、このモデルを愛用した数少ないギタリストの1人である。