ギタリストのためのオーディオ・インターフェースのレビュー。最後に、13機種の試奏を終えた青木征洋/Godspeedによる総評をお届けしよう。
解説&試奏=青木征洋/Godspeed 撮影=星野俊
*本記事は、ギター・マガジ2025年11月号に掲載した「来たれ宅録入門者! ギタリストのためのオーディオ・インターフェース・マニュアル」の一部を抜粋し、再構成したものです。
総評
全部を買うわけにはいかないので、賢く選びたいですね。

撮影:大谷鼓太郎
“それはありがたい!”と思えた時が買い時です。
13機種を試奏してみて最初に感じたのは、“時代は変わったな”ということです。おおむねどの機種においてもダイレクト・モニタリングやループバック、USB-C接続が実現されていて、初めてのオーディオ・インターフェースとして使い始めるうえで機能面で困ることがなさそうです。USB1.1が主流だった時代はレイテンシーが10msecを切ることすらできなかったり、ダイレクト・モニタリングがなかったりしましたから……。
今回は10万円以下の比較的低価格帯のモデルの比較ということで様々な要素を検証してみましたが、どの製品もそれぞれ特徴的な部分を持っていて興味深かったです。入出力数や機能の面では当然メーカーごと、機種ごとの違いが大なり小なりあったのですが、インストゥルメント入力、マイク入力、マイク・プリアンプなどの音のクオリティの面でもどれも似たような印象になるかと思ったら、そんなことはありませんでした。
今回試奏するにあたって、まずはインストゥルメント入力のノイズの量を機種間で比べてみたのですが、AudientのiD4、次いでMOTUのM2やFocusriteのScarlett 2i2がノイズ量が少なく、快適なレコーディングが行なえるように感じました。ノイズが少ないからといってギターが良い音で録れるとも限りませんが、傾向としてロー・ノイズなもののほうがプラグインのシミュレーターを弾いていて気持ちいいと感じられるはずです。
個人的にはその中でもAudientが特に気に入りました。気がついたら普段使っているapollo x6との比較をしてしまっていたくらいです。あまりに衝撃的だったので、この号が発売される頃にはAudientのiD14 mkⅡを購入しているかもしれません(笑)。

もちろん、オーディオ・インターフェースの価値を決めるのは音質だけではありません。例えばApogeeのJAM-XやBlackstarのPolar Goは、気軽に出先に持ち出せるモバイル性の高さやシンプルなUIが強みだし、PreSonusのQuantum HD2は今回紹介した中では唯一リアンプ・アウトが搭載されていたり……ほかにもルックスや操作性、ユーティリティ・アプリの機能性、UXなど、総合的に判断する必要があります。
ただ、機能面が充実し過ぎると製品説明を一目読んだ時に“……で、結局何ができるの?”となりがちです。個人的には、何らかの高度な機能に対して“それはありがたい!”と思えた時が買い時で、“それは何?”と疑問符がついている間はまだそれを選ぶ時ではないのかも、と考えるようにしています。
製品に付加価値をつけるために各社様々なソフトウェアやサブスクリプションを付属させていますし、それらも重要な判断材料なのですが、個人的にはそれらはあとでお金で解決できる要素だとも思っています。
ノイズの低さやレイテンシーの短さ、入出力の数や種類、DSPエフェクトの有無は一度購入してしまうとあとからお金で解決できないので、私がインターフェースを選ぶ時はそうした買い足せない要素を基準に選ぶようにしています。
録音することがギタリストにもたらすメリットは計り知れません。
そもそもギタリストになぜオーディオ・インターフェースが必要なのか。それはずばり、録音するためです。録音(特に自宅録音、通称“宅録”)することがギタリストにもたらすメリットは計り知れません。
まず、録音することは演奏の上達に非常に役立ちます。普段から宅録されている方であれば共感していただけると思いますが、自分で弾いて感じている音と実際に出ている音の間にはリズム、ニュアンス、ダイナミクス、いずれの面でも大きな差があるものです。このギャップを客観視することが上達への手助けとなるのです。
宅録すれば、演奏だけでなく音作りやミックスに関する知見が溜まっていきます。アンプ・シミュレーターと呼ばれる機材は、基本的にはアンプの生音ではなくアンプを録音した時の音を再現するため、宅録に慣れているほうがシミュレーターでの音作りが上手くなる傾向はあるはずです。
スキルアップ以外にも色々メリットがあります。宅録できる環境が揃うと、自分のギターを他人に聴いてもらうチャンスが圧倒的に広がります。これまでライブでしか他人に届けられなかったものが、インターネットを介して世界中に即座に届けられるようになるのです。InstagramやTikTokに気軽に演奏動画を投稿してもいいですし、しっかりと楽曲を作り込んでApple MusicやSpotifyに配信することも、宅録環境があれば1人でできます。
また、宅録に対応することでギターの演奏を仕事にできるチャンスも増えます。“録音環境がないから毎回スタジオに行きます”でもいいのですが、低予算で1曲だけ、1フレーズだけギターの生演奏が欲しいといった依頼にも、宅録環境さえあれば柔軟に応えることができます。
レコーディングの観点で言うと、外部レコーディング・スタジオでは常に時間に追われ、時として納得のいくテイクが録れなかったり、音色を詰めきれないままセッションが終わってしまうこともままあります。しかし宅録であれば自分の好きな時間にリラックスした状態で、納得のいくところまでテイク数を重ねることができます。
もしレコーディング・スタジオでのセッションのようにディレクターとコミュニケーションをとりながら録り進めて行きたい場合でも、今ならリモート録音のためのお手軽なツールがたくさんあります。
宅録の技術が高まって環境が充実していくと、ゆくゆくはレコーディング・スタジオよりも良い音でギターを録れるようになります。自室が自分のギターを録ることだけに特化した理想のレコーディング・スタジオへと進化するのです。
私のスタジオがいい例で、私が使うアンプ、キャビネット、マイクだけがひたすら充実していて、一般的なレコーディング・スタジオに行ってもこの環境を揃えることはできません。そのレベルに到達するとなると、オーディオ・インターフェースもそれなりのクオリティが求められるようになってきます。
オーディオ・インターフェース選びの一番の難点は触ってみるまで分からないことが多過ぎる点です。今回の比較で私自身非常に多くの発見がありましたし、その学びをこの記事で皆さんに上手くシェアできていることを祈ります。全部を買うわけにはいかないので、賢く選びたいですね。