1990年代から続くヤマハの人気エレクトリック・ギター・シリーズ、Pacifica。2024年に、これまでのPacificaを進化させたモダンな新設計のニュー・モデル、Pacifica Standard Plusが発表された。今回はDAW環境での本モデルの実力を試すべく、自身でも宅録を行なっており、様々なレコーディング現場でも活躍するギタリスト、THE CHARM PARKと有賀教平の2名を招き、Cubaseを用いた特別セッションを行なってもらった。
取材・文＝森部真衣 人物撮影＝星野俊
Yamaha Pacifica Standard Plus
有賀教平 × THE CHARM PARK
Special Session
Yamaha
Pacifica Standard Plus
人気のPacificaを現代にアップデートした
モダンなSSHレイアウト
1990年代、ロサンゼルスに拠点を置くYamaha Guitar Development（現在はYGG=Yamaha Guitar Group/Custom Shop）でデザインされたPacificaは、あらゆる音楽ジャンルに対応するスペックをあわせ持ったギターとして、その発売以降、プロからアマチュアまで国内外の様々なプレイヤーに愛されてきた。
そして2024年、日本製のフラグシップ・モデル“Pacifica Professional”と、フラグシップ・モデルの表現力と演奏性を受け継いだハイグレード・モデル“Pacifica Standard Plus”という2つの新しいシリーズが登場した。どちらも基本的なパーツはほぼ同じで、現代の情報量が多い音楽にマッチするようにモダンなスペックが盛り込まれている。
ボディ材にはアルダーを採用。設計はヤマハ独自の音響解析や3Dモデリング技術“アコースティック・デザイン”が用いられ、リッチな中域とタイトな低域の鳴りを実現した。さらに従来モデルよりもバックのコンターを深くし、トップのコンターに丸みをもたせることでフィット感を向上させている。
ピックアップは、あのRupert Neve Designsと4年間の共同開発により生まれた“Reflectone（リフレクトーン）”を採用。
もともと2000年代前半〜中頃にかけて、ヤマハとRupert Neve Designsはオーディオ事業で協業していた。ある時、Rupert Neve Designsの研究開発施設を訪れたヤマハのスタッフが、机の上に置かれていたピックアップを発見。それはRupert Neve Designsのベテラン・スタッフが趣味で自作したもので、興味を持ったヤマハのスタッフが了承を得て日本に持ち帰りギターに取り付けたところ、そのサウンドに驚いたという。
そこからピックアップの共同開発が始まり、このReflectoneが生まれたというわけだ。アルニコⅤマグネットを使用し、コイルのターン数や巻き方、ポールピースの高さにもこだわってイチから開発されており、低域から高域までバランスの取れたサウンドを出力する。ポッティング処理も施されてるため、余計なハウリングも防止。
また、リアのハムバッカーのみボディにダイレクト・マウントされており、ボワつきがちなサウンドをタイトに引き締めている。トーン・ノブをプルするとコイル・タップされ、シングルコイルとしても使用可能だ。
ネック材はメイプルで、スムーズな弾き心地のサテン・フィニッシュを採用している。さらにスリムCシェイプ、長寿命のミディアム・サイズ・ステンレス・フレット、ハイ・ポジションの演奏性を高める新設計のネック・ヒール加工など、プレイアビリティを極限まで追求した仕様にも注目したい。
カラーはスパークルブルー、アッシュピンク、シェルホワイト、ブラックの4色展開で、スパークルブルー、アッシュピンク、ブラックはそれぞれローズウッド指板とメイプル指板のモデルをラインナップ。シェルホワイトのみローズウッド指板モデルのみとなる。
Yamaha
Pacifica Standard Plus
【スペック】
●ボディ：アルダー
●ネック：メイプル
●指板：ローズウッド or メイプル
●フレット：22
●スケール：648mm
●ピックアップ：Reflectone HS7: Single Coil（フロント／センター）、Reflectone HH7: Humbucker（リア）
●コントロール：ボリューム、トーン（コイル・タップ）、5wayセレクター
●ブリッジ：Gotoh 510T-FE1
●ペグ：Gotoh SG381 MG-T
●カラー：スパークブルー、アッシュピンク、シェルホワイト（ローズ指板モデルのみ）、ブラック
●付属品：ギグ・バッグ
【希望小売価格】
145,200円（税込）
【問い合わせ】
ヤマハミュージックジャパン お客様コミュニケーションセンター
TEL：0570-056-808
https://jp.yamaha.com/products/musical_instruments/guitars_basses/el_guitars/pacifica/pac_standard_plus.html
有賀教平 × THE CHARM PARK
Talk Session
昔の有名なギタリストが出していた音も、
モダンな音も作ることができる。
──Charm
普段からCharmさんは様々なギターを使用していると思いますが、Pacifica Standard Plusを弾いてみた第一印象はいかがでしたか？
Charm 多くの人は昔の有名なギタリストが出していた音を再現するために色んなギターを買ったり使ったりすると思いますが、Pacifica Standard Plusはそういう音も出せるし、モダンな音も作ることができる気がして、可能性がすごくあるギターだなと思いました。
有賀さんは普段Pacifica Professionalを使っているとのことですが、どういうシチュエーションで手に取るんですか？
有賀 僕もPacificaは広いレンジ感に一番特徴があるなと思っていて、アンプのシミュレーターだったり、歪みやエフェクトをすべて受け止めてくれるような感じがしますね。最新の機材と相性が良いので、色んな音色を使う現場や楽曲に合うのかなと思っています。
Standard PlusとProfessionalの違いがあれば教えて下さい。
有賀 いや、それがあんまり感じないんです（笑）。塗装はProfessionalのほうが若干高級感がありますけど、それ以外のプレイアビリティやサウンドに関しては全然申し分ないというか。ProfessionalとStandard Plusは、ラジアスやカラー・ラインナップの好みで選んでも良いんじゃないかなって思いますね。この価格帯でこのクオリティはなかなかないと思います。
生音はProfessionalのほうが大きいかもしれないですけど、弾き込めばStandard Plusも育ってくると思うので、Professionalは最初から楽しめるかも。もしかしたら、そういう違いはあるのかもしれないですね。
ステップアップとして買うのも良いですし、
これ1本でやっていきたい人にもオススメできる。
──有賀教平
今回はCubaseを立ち上げ、DAW環境でライン録りで使っていただきました。DTMにおけるPacificaの強みはどういったところだと思いましたか？
Charm 自分が幅広く曲を作りたい時、ギターのチューニングを変えると本当に可能性が広がるんですよ。今、このStandard PlusもドロップCチューニングに下げていますが、こうやって気楽にチューニングを行ったり来たりできるのは、ちゃんと作られているからこそ。チューニングも安定している気がするので、それがすごく良ですね。インスピレーションがわくようなギターだと思いました。
有賀 フロントがシングルコイル・ピックアップなんですけど、けっこうノイズが少ないところが感動した点でした。
Charm そうでした。そうだ、そうだ。
有賀 そうですよね。今日はアウト・ボードで色々エフェクトを組み合わせたんですけど、全然ノイズが乗ってなかったじゃないですか？
Charm うん。そうなんですよね。
有賀 そこがすごいなと思って。こういうアナログ機材との組み合わせも相性が良かったので、Pacificaは普段エフェクターを使う人にもオススメできるかなと思います。
Rupert Neve Designsと共同開発されたオリジナルのピックアップ（Reflectone）を搭載し、低域から高域までバランスの良いサウンドを出力できる設計となっていますが、こちらはどう感じましたか？
有賀 ハムバッカーって、やっぱりものによってはちょっとハイが出づらかったり、太くなりすぎて歪みが抜けなかったりっていうことがあると思うんですけど、このReflectoneはハイのキラッとした部分がリアでも出せるし、ボディに空洞があることによってちょっとエアー感が足されているので、空気感をまとったリード・トーンが出しやすかった。良い意味で色んな倍音をしっかり拾ってくれるので、リードを弾いた時の気持ちよさが際立っている気がします。
現在のJ-POPは打ち込み音楽が多く、ギターのピッチはシビアになると思うのですが、Pacificaは安定したピッチも特徴です。
有賀 実際にProfessionalをレコーディングで2〜3時間弾いた時、そんなにペグを回さなかったんですよね。だからちゃんとチューニングの安定感があって、プレイに集中できる環境を提供してくれているのがすごく嬉しかったです。
Charm 自分がメインで使っているギターは古いモデルのレプリカだったり、ビンテージだったりする場合が多くて、久しぶりに現行のギターを触らせていただきましたが、本当に新築のマンションに引っ越したような感覚で。
有賀 ハハハ（笑）。
Charm もしかしたら今は当たり前かもしれないですけど、ロッキング・チューナーは独立洗面台みたいで、コイル・タップは追い焚きできるお風呂というか、色々と楽なんですよ（笑）。そんな気持ちで演奏できるのも、絶対大事なインスピレーションのような気がします。
今回はDTMの視点からお話をうかがいましたが、Pacificaはライブの現場でも活躍しそうでしょうか？
有賀 この間、ラインで音を出すライブ現場でProfessionalを使ったんですけど、ちゃんと音が抜けてくるので、自分がどの位置にいるのかが見えやすかったです。
Charm ライブではまだ使っていないですけど、Pacificaってスリット加工だからなのか軽いんですよね。コンターも座って弾いても立って弾いてもすごく弾きやすい形状になっている気がします。あと、僕は手汗が多いほうなんですけど、このネックのすべりやすさも良いですね。
有賀 あっ、大事ですね（笑）。これは大事。
Charm たまに手がつまずいて気持ち悪いギターもありますので。
有賀 夏フェスとかだと、けっこうびっちょびちょになりますもんね（笑）。
Charm そうなんです。これは弾きやすいネックだと思います。
Pacifica Standard Plusはどんなギタリストにオススメですか？
有賀 価格帯だけ考えると、初心者の方が2本目に買うくらいを想定されているのかなと思うんですけど、実際に使ってみて、全然このまま現場で使えるなという感じがしました。なのでステップアップとして買うのも良いですし、これ1本でやっていきたい人にもオススメできるかなと思います。
Charm 例えばスタジオの中には、ギターが1本しか置けないような小さい場所もたくさんあると思うんです。その場合、トラックメーカーだったらPacificaのSSH、しかもコイル・タップでSSSにできるギターって本当に理想じゃないかなと思うし、どの音にも近づけるような気がするので、そういう方たちにオススメします。
最後に、今回のセッションはいかがでしたか？
Charm 有賀さんは今日が初めましてだったんですが、本当に何のストレスもなく……ストレスもないどころか、すごくインスピレーションがわいたので、ぜひまたご一緒できれば良いなと思いました。
有賀 こちらこそ、ありがとうございます。僕も“最高”の一言です（笑）。トラックもCharmさんが作って下さって、同じ方向を向いて作れたので楽しかったですね。あとは僕が弾いたフレーズの間を縫った良いアンビエントのフレーズとかもCharmさんが弾いてくれて、“そんなアイディアあるんだ！”みたいな刺激にもなりました。出会えて良かったです。
THE CHARM PARK Profile
ザ・チャーム・パーク◎シンガーソングライター、Charmによるソロ・ユニット。叙情的で美しい音世界とオーガニックかつダイナミックな楽曲スケール、緻密なメロディ・センスとアレンジで注目を集める新世代ポップス職人。自身の作品とは別に、数多くのアーティストへの楽曲提供や映画やアニメの主題歌、CMソングなど様々な分野で作品を手がけるマルチ・クリエイターとしての側面もあわせ持つ。
有賀教平 Profile
ありが・きょうへい◎10代からプロとして活躍しているギタリスト。松田聖子、Official髭男dism、SixTONESを始め、様々なアーティストのサポートを行なう。独自のグルーヴを活かした演奏スタイルは国内外で高く評価されており、プロ／アマ問わず、多くのギタリストから注目を集めている。
