ギルド・ギターズは1950年代から個性派ミュージシャンたちを魅了してきた、長い歴史を持つ老舗のギター・ブランドだ。しかし、“名前は聞いたことがあるけれど、その歴史については知らない”、という方も多いのでは? 当然、単純に今“カッコ良い!”と思う感覚が大事ではあるものの、その伝統を知ったうえでギルドのさらなる魅力を知ってほしい! そこでギタマガWEBでは、次世代のプレイヤーたちにもギルドの長きにわたる歩みを伝えるべく、全10回の短期連載をスタート。まず初回は、創業時にまつわるエピソードから!
文=長谷鉄弘 デザイン=三本昌樹
はじめに
これから本稿を読んで下さるみなさん、中でも10~20代の若い方々は、“ギルド”の名前とその楽器にどんな印象をお持ちだろうか? 連載の後期で触れるが、大雑把に言って1990~2010年代のギルドは折からの楽器不況を受けた経営不振が原因で複数の出資者のもとを転々とする状況下にあった。この“受難の時代”にギターを始めた方は、もしかしたらギルドを知名度の低い地味なメーカーと感じたかもしれない。
しかし、19世紀に起源を持つマーティンやギブソンにこそ敵わないものの、1950年代前半に創業されたギルドはすでに70余年の歴史を持つアメリカの老舗で、モダン・ジャズの黄金時代にアーチトップ・ギターの名器を輩出、ブルース/フォーク・リバイバル~ロック・ミュージックが花開く1960年代以降はフラットトップ・アコースティック・ギターやシンライン・エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベースの生産に注力し、世界中のプレイヤーに愛されてきたブランドである。1970年に生まれ、1980年代末からギターを弾くようになった筆者でさえ若い頃は“マーティン、ギブソンに次ぐ第三のアメリカン・ギター”との評価を聞いて憧れたくらいだから、往年のギルドが放った輝きはとても眩しいものだったろう。
この『今ふり返る、ギルド・ギターズの正しい歴史』と題する連載では、そんな古参が歩んできた“決して平坦ではない道程”を全10回にてふり返り、近年、資本や経営体制を一新した2026年現在のギルドまでを俯瞰することにより、ブランドの魅力に迫っていきたいと思う。
ギルド誕生〜エピフォンの職人たちとのドラマ
ギルド・ギターズ社は1952年、ポーランド出身のユダヤ人であり、1916年に家族とともにアメリカ/ニューヨークへ移住したアルフレッド(アル)・ドロンジ(Alfred Dronge/1911年生まれ)により設立された。ただ厳密に言えば、当時のアルは共同経営者として副社長(Vice-president)の地位にあり、最初の社長を務めたのは、ごく短期間でギルドを去ってしまったジョージ・マンである。ジョージはニューヨークの老舗楽器メーカー、エピフォン社にて副社長などを歴任した人物で、彼とアルの起業には当時の同社が抱えていた難しい事情が関係している。
その起源をギリシア系移民であるスタソプーロ・ファミリーが開いた弦楽器工房に遡るエピフォンは、バンジョーの名器を輩出してブランド名の由来になった敏腕経営者、エパミノダス(エピ)・スタソプーロを1943年に亡くし、その後、管楽器製造で知られるC.G.コーン社へ経営の一部を委譲していた。1950年代初頭になると、エピフォンは改革の一環として生産拠点をフィラデルフィア州へ移す計画を立てるのだが、同社にはニューヨークにおけるイタリア系移民のコミュニティに愛着を持つ従業員が多く在籍しており、彼らがこの動きに強く反対したのである。
この時、激化する労使の対立に悩んだジョージは、旧知の間柄だったアルに声をかけ、ニューヨークに残りたいと望むエピフォン従業員の雇用を守るため“彼らを引き抜いて新しいギター・メーカーを立ち上げないか?”と提案した。1940年代にはイタリア製アコーディオンの輸入などで楽器商としての成功を収めつつ、もともとプロのギター~バンジョー奏者でもあったアルは、ギター・メーカーを創業するというジョージの提案に夢を託し、ここにギルドの歴史が幕を開けたのだ。
ちなみに、中世のドイツで結成された職工の組合に由来する“Guild”(独=Gilde)の名は、いかにもポーランドにルーツを持つアルが考えたようだが、実はそうではない。ギルドの創業に関わった元エピフォン従業員のひとり、ジーン・デットゲン(注:Detgenはドイツ周辺に多い姓)と付き合いのあったギター・アンプ・メーカーのひとつが“Guild”を名乗っており、アルがこれを気に入って拝借したのが真相とのことだ。
とはいえ、このブランド名は1950年代のアメリカにおいて旧世界=ヨーロッパとのコネクションや、そこで育まれてきたクラフツマンシップを印象づけるものとなり、新興メーカーが注目を集める上でうまく作用したのではないかと筆者は想像する。
著者プロフィール
長谷鉄弘(ながや・てつひろ)◎1970年生まれ。『ギター・マガジン』、『ギター・グラフィック』(いずれも小社刊)などの編集部員を経て1996年に独立。現在はライターとして、『ギター・マガジン』や『アコースティック・ギター・マガジン』、『The Effector Book』(シンコーミュージック)などに寄稿。
