Charとムスタングの絆 Charとムスタングの絆

Charとムスタングの絆

Charといえばムスタング。そしてムスタングといえばChar、である。日本イチのギタリストが武器に選んだのは、フェンダーがスチューデント・モデルとして発表したモデルだったのだ。Charの象徴的な存在であり、現在は自身が監修したオリジナル・モデル=Char Mustang 2020 -Zicca Limited Edition-を作るまでになった両者の関係について、少し話をしよう。

文=井戸沼尚也 撮影=イノクチサトシ(上部写真)


Charとムスタング───
切っても切れない関係の考察

 ジミ・ヘンドリックスがストラトキャスターのポテンシャルを引き出したように、Charはムスタングが持つポテンシャルを完全に引き出した。フェンダーのギターを愛用する名手は多いが、ムスタングに関してはCharこそがNo.1であることに異論はないだろう。

 例えば、名曲「Smoky」がムスタングによって生み出されたのは、有名な話。ムスタングの24インチ/ショート・スケールという仕様がEm(9)、Dm(9)の短3度の音を押さえやすくしており、ソロで炸裂する1弦22フレットのチョーキングもムスタングならではのプレイだ。フロント・ピックアップとリア・ピックアップをミックスしたあの極上のサウンドも、ムスタングにしか出せない。Charとムスタングの組み合わせだからこそ生まれた、名曲・名演なのだ。

 筆者は以前、Charがムスタングをいかに知り尽くしているかを示す出来事に遭遇したことがある。ある取材の最中に、Charはムスタングを手にして“ペグに触れずに、アーム・ダウンやアップをくり返すことでチューニング”をしていた。もちろん、チューナーなどは使っていない。唖然とする筆者に“ペグを回してチューニングして、それからアーミングすれば、ペグもブリッジも動かしているんだからチューニングが合わなくなるのは当たり前。ペグは固定しておいてアームでチューニングすれば、アーミングしても狂わない(もしくは、狂っても元に戻せる)。覚えておくといいよ”と言ったのだ。

 もちろん、それを可能にするギター本体のセッティングも重要だろう。しかし、アーミングでチューニングするという発想、それを可能にする技術と耳の良さ、そして何よりムスタングの個性を知り尽くしていなければできない芸当であり、Charとムスタングの関係の深さを思い知らされた瞬間だった。

Charとムスタングとの出会い

 Charは1976年のソロ・デビューの前に、ムスタングを手にしている。それ以前は、ストラトキャスターを弾いていたという。8歳でギターを始め、高校生の頃にはすでにスタジオ・ミュージシャン/サポート・ギタリストとして仕事をしていたCharは、友人からフェンダー・ストラトキャスターを購入。これをとても気に入り、愛用していた。ところが、ある日そのギターが盗難にあう。落ち込んでいたCharは、外国の友人らが開いたガレージ・セールで白いムスタングと出会う。“フェンダーならなんでもいい”という気持ちで購入したその1本が、“持って鏡を見ると、圧倒的にハマっていた。自分にシックリきた”という。Charとムスタングの、運命ともいえる出会いだ。

 それまではあまりエレキで作曲をすることがなかったCharが(ギター以前にはピアノを弾いていた)、このギターを手にしたことによって「Smoky」などの曲を続々と生み出していく。Charはかつて、ムスタングについて次のようにコメントしている。

 「ストラトをかっぱらわれて落ち込んでた時に偶然に出会った楽器だからね。今となれば不思議なもんだよ。それが自分の代名詞になったっていうのは、偶然とはいえ……なんだろうね、ありがたいってのもヘンだし(笑)。逆に俺にあこがれて買っちゃった人たち、ごめんね、そんな簡単に弾けないよって感じ(笑)」

歴代の相棒たち

 デビュー前から今に至るまで、数多くのムスタングを操ってきたChar。現在は本人の手元に残っていないものもあるが、資料として残っているCharのビンテージ・ムスタングを紹介しよう。

 まずは本人もお気に入りの1本で、ミニ・アルバム『MUSTANG』でも使用された白の1967年製ムスタング。大きな改造はなく、状態の良い個体。次に紹介する有名な個体と交換する形で手に入れたものだ。

 続いては、ソロの初期(’76年〜’78年)〜JOHNNY,LOUIS,&CHAR(以下、JL&C)〜PINK CLOUDと長年に渡って活躍し、よく知られた代名詞的1本。製造年は、1966年末〜1967年と思われる。トレモロアームが黒キャップのものに交換、ペグも交換され、ストリング・ガイドが追加されるなど改造点が多い。

 3本目は、1992年に入手したというブルーの個体。1966年製の、状態の良い1本だ。90年代半ば〜後半にかけてメインのムスタングとして活躍。ギター・マガジンにも度々登場しているので、ご存知の方も多いだろう。

 4本目は79年12月のJL&C初の武道館公演で使用され、88年のChar & The Psychedelixのツアーでも使用された1978年製の白い個体。ネック・ピックアップがミニ・ハムバッカーに改造され、スパイダーマンのシールが貼ってあるのが特徴で、他の個体とはひと目で見分けがつく。

 5本目は、1978年製の黒いムスタング。神田すずらん通りの中古楽器店で、格安で手に入れたという。アルバム『PSYCHE』、『PSYCHE Ⅱ』などで使われた。

 最後は、1978年製の、ネック・ピックアップがハムバッカーに改造されたコンペティション・ストライプ入りのブルーの個体。実はこれはリフィニッシュで、元々はサンバースト/黒ピックガードだったもの(ギター・マガジン1984年1月号では表紙で手にしている)。

理想のムスタングを求めて

 さまざまなビンテージ・ムスタングで、多くの名曲を生み出してきたChar。Char自身は年式にこだわらず、今もムスタングを愛用している。

 2013年にはフェンダーカスタムショップからChar Signature Mustangとして“Free Spirits”、“Pinkloud”の2種が発売。フェンダーは1978年にムスタングの生産を止めており、これらのモデルは米国製ムスタングとしては約30年振りのものだった(日本製としては、80年代以降も生産されている)。

 Free Spiritsは日本の伝統色である御召茶(おめしちゃ)色、Pinkloudは同じく撫子(なでしこ)色で、どちらもマッチング・ヘッドの美しいギター。ライブ・アルバム『414 -Live at Hibiya Open Air Concert Hall-』などで使用されており、次の動画ではPinkloudのハリのあるムスタング・サウンドを楽しめる。

 2020年現在、最新のシグネチャー・ムスタングは日本製のChar Mustang。それに加え、自身のレーベルZiccaからコラボ・モデルとしてFender Char Mustang 2020 -Zicca Limited Edition-もリリースしている。シンクロナイズド・トレモロ、3ポジション・トグルスイッチなど、ストラトキャスターの機能性をムスタングに盛り込んだ日本製のオリジナル・モデルで、特にZicca Limited Editionはオリンピックホワイト、墨色(黒)、緋色(赤)、支子色(黄)、濃藍(青)、青磁色(緑) の6色展開で、すべてマッチング・ヘッド仕様が特徴となっている。

 Zicca公式サイトにて購入可能で、ボディ・カラーのほかにピックガードも白、黒、べっこうの3種から選択できる。ぜひ以下の本人解説動画で詳細をチェックしてほしい。

オリンピックホワイト(白ピックガード)。

青磁色(SEIJI IRO)。

墨色(SUMI IRO)。

緋色(HI IRO)。

支子色(KUSHINASHI)。

濃藍(KOIAI)。

オリンピックホワイト(べっこうピックガード)。

 新しいムスタングで作る、新しいCharの音楽。日本を代表するギタリストのこれからが、ますます楽しみだ。

Fender × Zicca
Char Mustang 2020 -Zicca Limited Edition-

【スペック】
●ボディ:バスウッド●ネック:メイプル●指板:ローズウッド●フレット:22●スケール:610mm●ピックアップ:シングルコイル・ムスタング×2●コントロール:ボリューム、トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター●ブリッジ:6サドル・ビンテージ・スタイル・シンクロナイズド・トレモロ●ペグ:ビンテージ・スタイル with プラスティック・ボタン●付属品:ギグバッグ●カラー:オリンピックホワイト、濃藍、支子色、墨色、青磁色、緋色