達郎作品のギター・サウンドを語る上で、本人愛用のテレキャスターは欠かせない存在だ。ここでは長年愛用する、フェンダーのテレキャスターについて、スペックを紐解くとともに、楽曲/アレンジ面に与えている影響も考察してみよう。
文=近藤正義
オールローズ風だが
実はアッシュ・ボディ
今では “カッティングの山下達郎” と呼ばれるほど、ギタリストとしての評価も高い山下達郎であるが、アマチュア時代はドラマーとしてスタートしている。
しかし、ボーカリストでもあることからフロントに立つことを要求され、ステージでギターを持つように。サザン・ソウルやジェームス・ブラウンなどR&B系の音楽が好みであったことから、ひたすらカッティングを練習し、さらにオブリやリフといった歌伴ワザにも磨きをかけた。
また、レコーディングやライブで、松木恒秀や大村憲司といった超一流と共演してきたことも、現在のギタリスト山下達郎を作り上げた大きな要素なのだろう。
その彼のトレードマークというべきギターがフェンダー・テレキャスター。メインはダークブラウンに塗装された78~80年製と思われるモデルである。
ローズウッド指板、メイプルネック、アッシュ・ボディで、80年に友人から5万円で入手し、もともとはサブとして使っていた。それが1年ほど弾いたあたりからゲキ鳴りするようになり、81年頃まで使っていたブロンドを押しのけてメインへ昇格し、以来、82年より40年近く達郎サウンドを支えてきた。
ペグ、フレット、電気系統を始め、消耗する部分は数知れず交換メンテナンスされており、まさに実戦を駆け抜けてきたギターと言えるだろう。
特別な改造点はないが、唯一のこだわりはピックアップ・セレクターのツマミをはずすこと。ストロークした時に手に当たるというのが理由。カッティング主体で弾くため弦高はかなり低く調整してあり、弦は.011もしくは.010からのセットを使用。
テンションが少々強いようで、チョーキングした際には音がつまるポイントもあり、リード・ギターを弾くには適していないそうである。ツアーにおけるリード用としては、74~5年製でメイプル・ワンピースネック、アッシュ・ボディ、ナチュラル塗装のフェンダー・テレキャスターが用意されており、こちらは一般的な弦高に調整されている。
テレキャスターを手にした理由は、憧れのギタリストであるスティーヴ・クロッパーの影響。ストロークや単音ミュートなどを織り交ぜながら左右に2パターンもしくはそれ以上のリズム・ギターを配して、その絡みで曲のグルーヴを増幅させる手法は60年代後期~70年代にかけてのブラック・ミュージックからの影響を感じさせ、それが達郎サウンドさらにはシティ・ポップの重要な要素となった。
小細工なしのナチュラルなサウンドで勝負する達郎のギター・サウンドには、やはり一番シンプルなギターであるテレキャスターが相応しいのだろう。