Interview|中田裕二進化を求め続けた10年。 Interview|中田裕二進化を求め続けた10年。

Interview|中田裕二
進化を求め続けた10年。

ピックのアタック音が
自分の楽曲と合わなくなってきた。

「ふさわしい言葉」のエレキはカラッとした音が印象的で、いわゆる“良い音”というよりはチープで国産ビザール的な音です。

 “良い音とはなんぞや”ということになってきますよね。良いアンプと良いコンプ、4~5万円の歪みで作る“ブリン”っていう主張の強いギターの音って昔は好きだったんですけど、もっといろんな情景が描きたいと思った時に、昔の音楽を聴いていると、引き算の美学、我慢の美学が良さを生んでいるように感じたんですよ。ミュートしたベースの感じとかは最近も多いですけど、ギターはあえてしっかりと鳴らさない。そういうナローでローファイな音をコンプで立ち上がらせると、すごく良い聴こえ方になるんです。最初から立ち上がりの良い音にコンプをかけちゃうと痛い音になるんですけど、そのあたりは昔の音楽はすごくコントロールしているっていう印象ですね。

それで全体が馴染むようになるんですね。今作のエレキはリバーブなどの空間系をかけて背景ににじませている印象で、固いサウンドはアコギに任せて、エレキはバックと歌をにじませる役割かなと思いました。

 よくわかってらっしゃる。

ありがとうございます(笑)。

 本当にすごく原点回帰していっていて、すごく“和”なんですよ。アプローチの仕方が水墨画みたいなイメージで濃淡をつけている。色をバチっと塗っていくんじゃなくて、水の含ませ方で変えていくような、そういう境地に入ってきていますね。それと、このアルバムはほとんどピックを使っていないんですよ。指か爪で。エレキのクリーン・トーンで弾き語りをするのが今すごく好きで、そうするとピックのアタック音が最近の自分の楽曲とは合わなくなってきたんですよ。

「ゼロ」はそういう指のタッチで歪ませて濃淡をつけている感じですね。

 OD-3を中古で買ったんです。それのドライブをゼロにしてかけてますね。今回の歪みはOD-3とTS Miniをメインで、あとはビッグマフの小さいやつ。それをほとんどドライブさせない状態で弾いています。

ソロは音的にはシンセっぽいですが、これは?

 あれはけっこうおもしろい作業で。最初はアンプ・シミュレーターをとおして、ビッグマフを使っていたんです。でもなんか音が太すぎたりして、シミュレーターすら切ってラインとビッグマフのみなんですよ。トーンも下げて。そしたら“これだ”ってなって。

今作は背景に馴染むようなサウンドが多いのに対して、すごく主張が強いこの音を持ってきた理由は?

 この曲は松本清張の『ゼロの焦点』が題材になっていて、もとはストリングスが入ってきてドラマチックに盛り上がるような印象だったんです。でも、リアルな弦だと時代感が出ないと思って、その代わりにファズを使ってツイン・ギターのハモりにしてみたんです。そしたら曲の雰囲気にバッチリ合ったんですよ。

ギターは使えば使うほど
新たな一面が見えてくる。

個人的に「Predawn」が好きで、左Chのオブリのギターとソロがそのまま同じ音の流れなのがすごく気持ち良い。こういうところで熟練のセッションマンのギターみたいな印象を受けるんですよね。

 ありがとうございます。

これまで歌いながら弾くギターらしいフレーズが多かったのが、2~3作前の時にギターという楽器のとらえ方が変わったような気がしているんですよ。

 変わりましたね。ガッツリ変わったのは、たぶん『thickness』(2017年)の時かな。

以前だとアルバムに1曲は8ビートのロックっぽいリフの曲を入れたりしていたじゃないですか。

 ありましたね。そこでバランスを取ろうとしていたところもありました。それもロック・バンド上がりのサガなのかもしれない。でも、だんだん熟女の良さがわかってきた、みたいな。

(笑)。それ書いちゃいますよ?

 書いてもいいですよ(笑)。でも、そうやってギターにそういう顔があるんだ、っていうのがわかってきたんですよ。それはSGとの出会いが大きくて。

では今回のレコーディングでSGは……?

 弾いてないです(笑)。今回はほとんどG&LのTLタイプ。SGの甘い音はすごく好きなんですけど、チューニングがあんまり安定しないので、“チューニングめんどくさいな”って思って(笑)。

(笑)。

 でもピッチが少し甘いほうがカッコよかったりもするんですよね。それもアクセントとして使えれば良い。次のアルバムはデモがもうそろっているんですけど、それはSGでけっこう弾いています。

次のアルバムはどんな感じになりそうですか?

 あとは録るだけなんですけど、今回よりはもう少しルーツ・ロック的な雰囲気があったり、ジャズ歌謡みたいな雰囲気があったりしますね。今回は洋楽感が強いから、もう少し“和”な感じがします。

ギターは鳴っている?

 めちゃくちゃ鳴っていますよ。レニー・クラヴィッツみたいなリフ・ロックも作ったので。

それは楽しみです! では改めて最後に、キャリア20年目を迎えた中田裕二にとってギターってどんな存在ですか?

 ギターは使えば使うほど新たな一面が見えてくる。あと、打ち込みの音楽が主流になってきて、デスクトップ上で楽器を鳴らすことが普通になりましたけど、曲の中に人間臭さを持ち込みたいと思った時に、ギターこそがそこを担当してくれるというか。時代感や表情、情感とか、ギターが担うことが多いなって、そういう良さに改めて気づいている今日この頃でございます(笑)。熟女的ギターはこれから需要があるんじゃないかと思っているんですけどね(笑)。

Recording Gear
G&L ASAT Classic Bluesboy Semi-Hollow

2017年作『thickness』以降のメインだったSGは登場せず、今作は長年の相棒=G&LのASAT Classic Bluesboy Semi-Hollowを採用した。フロントがハム・バッカーでリアがシングルコイル、シンラインTLタイプというオールマイティな本器だからこそ、いわゆる“セッション・ギタリスト”らしい楽曲に馴染むプレイになったのかもしれない。

作品データ

『PORTAS』

Imperial Records / TEICHIKU ENTERTAINMENT/TECI-1712/2020年11月18日リリース

―Track List―

【DISC 1】
01. プネウマ
02. BACK TO MYSELF
03. ゼロ
04. おさな心
05. あげくの果て
06. 夢の街
07. Predawn
08. DAY BY DAY
09. ふさわしい言葉
10. 君が為に (album version)

【DISC 2】*弾き語りライブ音源
01. ロータス
02. 夏の終りのハーモニー
03. はじまりはいつも雨
04. 薄紅
05. 正体
06. ウナ・セラ・ディ東京
07. 結詞
08. おてもやん
09. シルエット・ロマンス
10. ただひとつの太陽
11. Deeper
12. 虹の階段
13. 白日

―Guitarists―

中田裕二、八橋義幸 (DISC 1のみ)