Interview|横田明紀男求道者が目指す“終着点” Interview|横田明紀男求道者が目指す“終着点”

Interview|横田明紀男
求道者が目指す“終着点”

今回の「Spain」も今のベストだから、
自分的には一番カッコ良いですよ。

「Mission」はオリジナル楽曲ですが、これはどういう曲なんでしょう?

これは3年くらいかけてようやく完成した曲なんです。始めに最初の8小節ができたんですけど、なかなか曲にできなくて。でも、去年あたりから“次のアルバムには絶対にこの曲を入れたい”って思って、なんとか今回のレコーディングに間に合わせたんです。

楽曲のイメージは?

 「Mission」は“使命”でアルバム・タイトルの『My way』は“我が道”。どちらもギタリストとして生きてきた今、 大切に感じている事なんです。

アルバム・タイトル曲として「My way」も収録されていますね。

この「My Way」は平尾昌晃さんに捧げた曲なんです。僕は90年代に平尾さんからいろんなレコーディングにも誘ってもらったし、平尾さんが生前最後だったと思われるレコーディングに僕も呼んでもらったり、すごくお世話になったんですよ。最後にご一緒したのは『必殺仕事人』の劇伴で、その特別収録曲で“横田のギターをフィーチャーしたい”って言ってくださって。そこで「荒野の果てに」と「旅愁」で弾かせてもらったんです。

なるほど。なぜ平尾さんに捧げる曲が「My Way」なんですか?

彼のディナー・ショウでのギターを頼まれたことがあって、その時に“ショウの最後に良い曲ない?”って聞かれたんです。で、僕は“ジプシー・キングスの「My Way」はどうですか?”って提案して、実際にやってみたらすごく良い感じになったので、彼はステージの最後は必ず「My Way」を歌うようになったんですよ。その後、僕も忙しくなってしまって平尾さんのバンドからは離れてしまい、しばらく疎遠になってしまったんですが、最後のレコーディングにも呼んでもらった。彼に思いを馳せながらアレンジしたので、僕の中では“捧げる”っていう意味合いが強いんですよ。

この2曲だけリズムが入っていますし、「My Way」と対になるように「Mission」があるんですね。特に「My Way」はホール・リバーブがかかっていて、ほかの楽曲と一線を引いているような印象でした。

この曲だけはやっぱり別ですよね。リバーブはあとがけで、MTRのリバーブじゃダメだったので持っているリバーブをいろいろと試して、最終的にはZoomのマルチ・エフェクターのホール・リバーブで“5sec”くらいに設定したと思います。

「Spain」は『YOKOTA』(2016年)にも入っていましたけど、今回と比べて当時のほうはけっこう激しめでしたよね。

『YOKOTA』発売時に収録された「Spain」。

うん、今回のほうが大人しめですよね。前にやった「Spain」もその時のベストなんだけど、今のベストを今記録しておかないと。ちょっと話は変わりますが、CDを作ることって絵を描くことと共通することがあると思っているんです。単純にライブ・ペインティングで40分で描いたものもそれはそれで素晴らしいし、自分もそういうことは若い頃はたくさんやったけど、今はダヴィンチの絵のようなことにあこがれがあったりしますね。肌の色や光を何万という点で描写しているらしいんですけど、そういう感じというか。

時間をかけて作り込む感じですか?

そう。でも、あまり時間をかけすぎて作っちゃうと、例えば1年前のってもうダメなんですよ。だから9曲くらいだったら2〜3ヵ月くらいですよね。今回の「Spain」も今のベストだから、自分的には一番カッコ良いですよ。ただ、もう2ヵ月経っちゃったので、もうすでにいろんなアイディアがポツポツと出てきていますね。

今回の使用ギターについても教えて下さい。ジャケット写真で手にしているモデルは初めて見ますね。

これは新しい1本で、Martinez MSCC-14 Tribute Ⅲ。「Don’t Know Why」などでメインとして使いました。ほかにはMP-14も使っていて、スパニッシュっぽいことをやっている「Spain」や「Mission」がそうですね。で、ゴダンの5th Avenueは「Oleo」、「Sunny」、「All Blues」、「Route 66」の4曲で使っています。今回、5th Avenueはマイク・カバーをはずしたり、弦高を下げたり、自分でいろいろと調整しているんですよ。

どうして急に?

今回はフルアコをラインとマイクの両方録ってミックスしているんですけど、マイクはすごく小さい音を拾うから、軋む音とかも全部拾っちゃう。それを全部止めないといけなくて、緩衝材を貼ったりすごく苦労したんです。いっ時はギターが重症患者みたいになってましたよ(笑)。で、ジョー・パスの『ヴァーチュオーゾ』ってあるじゃないですか? あのジャケットって、彼がES-175を持ってニコニコしながら汗を拭っている写真なんですけど、そのES-175のフロント・マイクにベルトがかかってるの。それが何かずっとわからなかったんですけど、今回フルアコをマイクで録音して、ピックアップの周りがキシキシいうので、“あ、それを抑えるためだったんだろうな”ってわかりましたね。

その手法はあまり知られていないですよね?

うん、たぶんフルアコでソロ・ギターをやる人って、基本的にはラインかアンプから出た音だと思いますから。マイクで生の音は普通は録らないですよね。昔のエンジニアはそういう人もいたけど、大変なんですよ(笑)。

今作で使用されたギター。左からMartinez MP-14、Martinez MSCC-14 Tribute Ⅲ、Godin 5th Avenue CW Kingpin-Ⅱ。

最後にギタマガ読者に聴いてほしいポイントを。

ガット・ギターに関しては、「Mission」のアドリブとか、Eマイナー1発でもこんなに楽しいことができるっていうところ。初心者から見たらとんでもなく難しいことももちろんやっているわけですよ。中級以上の人であればなんとなくアウトラインは掴めると思う。ああいうソロのやり方で遊ぶとか、あのソロは僕は好きなコードなんですけど。ネタに困ったらオリジナルのコードの中にそれをぶち込んでみるとか。自分の好きなコード進行を見つけるっていうのはすごく大事で、僕の曲をよく聴いてみて参考にしてみてほしいですね。あとは、ビバップに関しては、1拍目がわかるっていうこだわりをわかってほしい。というか、聴くとわかると思います。

作品データ

『My way』 横田明紀男

T&A/T&A -0006/2020年8月19日リリース

―Track List―

01.Oleo
02.I wish
03.Don’t know why
04.Sunny
05.Route 66
06.Mission(original)
07.All Blues
08.Spain(2020ver.)
09.My way

―Guitarists―

横田明紀男