ノラ・ジョーンズとのリトル・ウィリーズなどでも知られる、現代最高峰のカントリー・ギタリスト=ジム・カンピロンゴ。そんな彼のプロジェクト=“ジム・カンピロンゴ&ハニーフィンガーズ”のメンバーでもあり、ブルックリンを拠点に活動する実力派ジャズ・ギタリスト、ルカ・ベネデッティ。このふたりが生み出したアルバム『Two Guitars』は、タイトルどおり2本のギターのみでカントリー/ジャズの楽しさを伝えてくれる快作だ。エレキ・ギターのデュオというフォーマットでさまざまな可能性を提示してくれるこの作品について、ジム&ルカのふたりに話を聞いていこう。
取材/文=久保木靖 通訳=トミー・モーリー
僕としては“ジャジィ”よりも
“プリティ”っていう印象かな。(ジム・カンピロンゴ)
まず、このデュオ活動のきっかけを教えて下さい。
ルカ・ベネデッティ ハニーフィンガーズで『Last Night, This Morning』(16年)をリリースしたあと、メンバーそれぞれが忙しくなり、全員がそろうことが難しくなってしまった。それでジプシー・ギターをプレイしているロイ・ウィリアムスを入れた3人で、55bar(NYのジャズ・クラブ)に出演していたんだけど、ある日、荒天でロイが来られなくなってしまったんだ。で、ジムと僕のふたりでライブをやることになったんだけど、これがなかなか良くてね。このデュオにはそんな経緯がある。最初はジプシー・ギター独特のリズムがなくて不安に思ったんだけど、実際にやってみたらスペースの埋め方に変化を付けるなど、いろいろ自由にやれることに気がついたんだよ。
ジム・カンピロンゴ そうだね。僕もふたりだけという自由、そして僕らのケミストリーがあることにその時気がついた。でも、過去にデュオ・アルバムをリリースしているのは“ヴァーチュオーゾ”と言われるような人たちばかりだから、いざ自分で作るとなると腰が引けてしまうところはあったね(笑)。例えばジョー・パスとロイ・クラークのアルバム(注:『Play Hank Williams』/94年)なんかは飛び抜けて素晴らしいだろ? でも、実際ルカとやってみたら“けっこういいじゃないか!”って思えたんだ。
『Two Guitars』というアルバム・タイトルを見た時、思わずスピーディー・ウエストとジミー・ブライアントのコンビが頭をよぎりました。ところが実際に聴いてみると、レイドバックしたジャジィなギター・デュオで、いい意味で期待が裏切られましたよ。
ジム タイトルはそこからもらったものではないんだけどね(笑)。流通先と打ち合わせた際に“タイトルは……えぇっと……『Two Guitars』だね!”みたいな感じで、その時パッと思い付いたことを言ったらそれに決まってしまった(笑)。まぁ、ギター・デュオであることも明確だし、自分としてはバッチリなネーミングだった思っている。ただ、僕としては“ジャジィ”よりも“プリティ”なアルバムっていう印象かな。
確かにリラックスした対話のような雰囲気がありますね。まるでチェット・アトキンスとレス・ポールがデュオ作で見せた関係のようなものを感じました。
ジム ははは! 彼らの『Chester & Lester』(76年)はチェットの作品の中で僕が最も気に入っていないアルバムなんだけどね(笑)。
ルカ そうなのかい(笑)? 僕はどんなデュオ・アルバムに近いか考えた時、ギター同士ではないけれどもビル・エヴァンスとジム・ホールの『Undercurrent』(62年)が頭をよぎったかな。
ジム ふたりでひとつのものを作り上げ、それでいてプリティなのがこのアルバムなんだ。クラシックのレジェンドたちになるけれど、ジュリアン・ブリームとジョン・ウィリアムズのコラボレーションにコンセプトは近いかもね。
ジャズのデュオというよりも、
“口数の多い会話”のような感じ(ルカ・ベネデッティ)
今作は事前にどの程度のアレンジを作り込んでからレコーディングに入ったんですか? 即興で展開しているように感じられる部分も多くあります。
ジム もちろん大枠となるところはあって……例えるなら役者が脚本を頭の中にきちっと入れておき、それを元に自然なアドリブをするのと同じ感じかな。でも、ルカに“僕のリズムに合わせてプレイするのって難しい?”って聞いたことがあった。彼のリズムは革新的なので、僕のグルーヴ・ポケットを見出せるか気になっていたんだ。でも彼は正直に“そんなことはないよ”と言ってくれたよ。このアルバムで僕が気に入っているのは、いわゆる定石とされているようなリズムで自動運転のようにプレイしているのではなく、その場で感じ取ったものをもとにプレイしていることなんだ。
ルカ ハニーフィンガーズのアルバムを作った時にも感じたんだけど、ジムが作る曲は最初から完成しているんだよ。でも、僕は誰かの音楽に何かを加えるのが好きな性分で、その時も臆することなく自分のプレイを重ねてみた。そういう経験があったからこそ、僕らは互いに意見を出し合えるようになったんだ。とはいえ、ジムがプレイするメロディってそれだけで完璧だから、例えば「Tears Waiting Inside」みたいに、バッキングする時に“僕は怠けて弾いているな”なんて思う部分もあったけどね(笑)。
ジム えっ、そうなの? 気付かなかったよ。
ルカ 例えば「Minute Waltz」のブリッジでは、僕が元々インプロヴァイズしていたところがあったんだけど、ジムから“ここをきちんとしたパートにしよう”と言われてアレンジしたんだ。そういう感じで、このアルバムの約半分は事前にアレンジしたようなところがある。ジムから“この曲知ってる?”と聞かれてやってみた「Up A Lazy River」は、典型的なジャズのデュオというよりも、僕らの“口数の多い会話”のような感じに仕上がったね(笑)。
「Mood Indigo」でのジムの音色は独特ですね。まるで管楽器のような長いサステインがあります。
ジム それはたぶんギターのトーン・ポットを使ったテクニックだと思う。ルカが提案した手法をそのままプレイしたんだけど、「Mood Indigo」の雰囲気にカチッとハマったんじゃないかな。
ルカ 僕はジムのファンだから、彼のトーン・ポットを使ったトリックはハマるだろうと思っていたんだ。そういえばこのサステインを得るためには、アンプのボリュームをかなり上げる必要があるんじゃなかったっけ?
ジム 本来はそうなんだけど、レコーディングの時、アンプのノイズがひどくて、すべてのツマミを12時にセットせざるを得なかった。このプレイをするにはトレブリーな設定が必須だから、あの日は納得いかなかったんだよね。でも後日聴いてみたら音が太くてソフトだし、目立ち過ぎなくて心地よく感じた。“Show Must Go On(注:一度始めてしまったら、何があっても続けなければならない)”の精神でやるのも悪くないってことを再認識させられたよ。
ジミー・リヴァースのスタイルが
自分に一番近いと思っている(ジム)
ジムはギター・マガジン2019年2月号のインタビューでジミー・ブライアントのことを語ってくれました。一方でリトル・ウィリーズの1st作『The Little Willies』の「Roly Poly」などを聴くと、カントリーをプレイしていた頃のハンク・ガーランドに通じる熱さを感じます。ハンクの魅力はどこにあると思いますか?
ジム もちろん僕は彼にも影響を受けている。ハンク・ガーランド、ジミー・ブライアント、バディ・エモンズ、ジョージ・バーンズしか聴かない期間があったくらいさ。ハンクのプレイは驚異的で、彼に通じるものを僕に感じてくれたというのはとても光栄なことだよ。ジョージ・ベンソンがジャズ・ギターをプレイするきっかけのひとつも、ハンクが作った『Jazz Winds From A New Direction』(61年)だったしね。彼はカントリーからジャズへ転身したけれど、『Hank Garland & His Sugar Footers』(92年/49〜57年録音)ではカントリー・ジャズをプレイした。「Sugarfoot Boogie」なんてアメイジングだ。セゴビア、レニー・ブロウ、はたまたイングヴェイ・マルムスティーンみたいな飛び抜けた人がいるけど、ハンクがプレイするスウィング・ギターは完璧だよ。でも、どちらかというと僕はジミー・リヴァースのスタイルが自分に一番近いと思っている。
ジミー・リヴァースはチャーリー・クリスチャン・スタイルを継承する古き良きウェスタン・スウィング・スタイルですね。
ジム そうなんだ。僕はジミーのソロはいくつかコピーしたこともあるし、実際昔サンフランシスコで彼と一緒に大きな会場でプレイしたこともあった。あれは彼の功績を讃えるためのコンサートで、当時彼は80歳だったかな。アルバム『Brisbane Bop』(83年/61〜64年録音)の曲をプレイするのはあまりに難しくて不安だったらしく、そういったややこしいパートを僕に任せてくれたんだ。
それは素晴らしい経験ですね! ルカに聞きたいのですが、2017年にレコーディングに参加したSpeeding Westの『Big Guitar Special』とはどういう作品なのですか? 名前が気になって……。
ルカ 確かにこのプロジェクトは“あのギタリスト”を意識しているよ(笑)。実はその数年前から、僕の妻がカナダで仕事をすることがあって、一大決心でバンクーバーに移住したんだ。現地でグループを組み、僕が影響を受けたハンク・ガーランド、ジミー・ブライアント、スピーディー・ウェストといった人たちの要素を色濃く出した音楽をやることにした。気持ちとしては、ハニーフィンガーズの続きのようなところがあったかな。バンクーバーでスコット・スミスという素晴らしいスティール・ギターのプレイヤーに出会ったことで、NYでのカントリー・リバイバルと同じようなことを、僕がバンクーバーで興せるんじゃないかと思って挑んでみたんだ。このアルバムは僕のお気に入りだし、もう5、6枚しか残ってないから、欲しいんだったら早い者勝ちだね!
あっ、1枚、確保して下さい! 再びジムに質問です。『Last Night, This Morning』の1曲目「Billy’s Bird」は、アーネスト・タブ(vo)のバックでプレイしていたビリー・バードのことですか?
ジム そのとおり! 彼の『I Love A Guitar』(59年)で誰がリズム・ギターをプレイしているか知っているかい?
ハンク・ガーランドでしたっけ?
ジム よく知ってるね! そのアルバムの中に「I Love You So Much It Hurts」って曲があるだろう? 僕はその曲のメロディを2ヵ月間ずっと弾き続けたことがある。アルバム自体はイージーリスニングみたいで少し陳腐なところもあるけど、メロディのプレイの仕方がとても美しいんだ。「Billy’s Bird」でプレイしているメロディは彼のものとは少し違うかもしれないけど、彼へのオマージュになっている。
唯一の心残りといえば
日本食を食べる暇がなかったこと(ルカ)
デュオ活動に関して、今後どのような展望を持っていますか?
ルカ NYのレトロフレットという楽器店が主催する一連の動画シリーズに参加する予定だね。
ジム あとは11月12日にストリーミングでライブを行なう予定だよ(注:日本時間は11/13 AM9:00~|詳細はこちらをクリック)。
ルカ これはアクセスすれば誰もが見ることができて、形式上はチケットを買うことになっているけど実際は寄付という形なんだ。僕らのライブを全部見て気に入ってくれたら1000ドル払ってくれたって構わないからね(笑)?
ジム 僕らは定期的にどんなコラボレーションができるか話し合っているから、今後はほかの企画も実現するかもしれないよ。
ルカにはリーダー・アルバムの予定はありますか?
ルカ 今まさに取りかかっているところで、12月にトリオでスタジオに入れたらと願っている。さまざまなプロジェクトに参加してきたとはいえ、2枚目のアルバムをリリースするまでに8年もかかったから、今後はもっと頻繁にソロ・アルバムのリリースをしていきたいと思っているよ。
では最後に、日本のギター・ファンにメッセージを!
ジム 日本には2回行ったことがあるけど、大好きになってしまった。ファンがみんな親切にサポートしてくれるんで、帰りたくなくなってしまったものだよ。きれいな街並みやルールを遵守する姿勢は僕自身見習わなくちゃいけないと思ったくらいだ。食事もギター・ファンたちも超クールだった。とにかく今すぐにでも行きたいし、もっと多くの日本のギター・プレイヤーたちに会いたいよ。
ルカ ジムにまったく同意するよ。僕は2000年代前半に一度だけR&Bのバンドで行ったことがあって、ジムの言うとおりだった。僕のバンドではなかったけど、ライブでギター・ファンと会うこともできたし、唯一の心残りといえば日本食を食べる暇がなかったことかな(笑)。B.B.キングやアラン・ホールズワースの日本でのライブ盤を聴いていて、彼らのサウンドには心からの日本のファンへの感謝が感じられたし、“Live In Japan”のアルバムがみんなグレイトな理由が僕にはわかるよ。
ジョンの機材
1957 Fender Musicmaster
▲ジムのメイン・ギターは、25年前に友人から買い取ったというフェンダーTelecaster(59年製)。弦を(ボディではなく)ブリッジにとおすトップロード仕様が最大の特徴だ。これに関してジムは“一般的な仕様(ストリング・スルー・ボディ)に比べて、弦の弾力を感じる”と言っている。
1970 Fender Princeton Reverb
▲ジムがメインで使ったアンプはフェンダーPrinceton Reverb Silverface(70年製)。スピーカーはセレッションのG10に交換してある。しわがれた感じやブライト過ぎずジャズに適したサウンドがお気に入りとのこと。
ルカの機材
1953 Gibson ES-175
▲ナチュラル・トップが美しい53年製ギブソンES-175。「Nice Dress」のソロと「Mona Lisa」で使用されている。弦はダダリオの.013〜.056(フラットワウンド)。
1966 Epiphone Riviera
▲チェリー・レッドのエピフォンRiviera(66年製)。ミニハムがお気に入りのポイントとのこと。弦はダダリオの.010〜.052(ニッケルワウンド)。
1957 Fender Duo-Sonic
▲デザートサンド・フィニッシュのフェンダーDuo-Sonic(57年製)。普段のライブでは弾いているが、『Two Guitars』収録時は使っていないそう。
1962 Fender Deluxe Amp
▲ルカのメイン・アンプはフェンダーのDeluxe Amp(62年製)。ハニーフィンガーズのアルバム録音前夜にNYのレトロフレットで購入したという。常時ボリューム4くらいで鳴らしているとのこと。
1960 Supro Coronado
▲スプロのCoronado(60年製)。こちらは「Nice Dress」や「Coal」で使用された。歪ませるためにフル・ボリュームにしてもラウドになり過ぎないのが良いようだ。
作品データ
『TWO GUITARS』
JIM CAMPILONGO & LUCA BENEDETTI
BLUE HEN/BHE55/2020年9月リリース
Digital:
http://jimcampilongo1.bandcamp.com/album/two-guitars
LP: (pre-order October 2020 release)
http://www.cityhallrecords.com/upc/725543925411.htm
CD:
http://www.cityhallrecords.com/upc/725543925428.htm
―Track List―
01.MONA LISA
02.NICE DRESS
03.UP A LAZY RIVER
04.DENISSE
05.OTTO
06.MOOD INDIGO
07.MINUTE WALTZ
08.TEARS WAITING INSIDE
09.WHISTLE WHILE YOU DON’T WORK
10.COAL(DUO)
11.GEPPETTO’S WALTZ
12.BLADE OF GRASS
―Guitarists―
ジム・カンピロンゴ、ルカ・ベネデッティ
ジム・カンピロンゴ公式サイト:https://www.jimcampilongo.com
ルカ・ベネデッティ公式サイト:https://www.lucabenedetti.com