グルーヴィで爽やかな楽曲をアコースティック・ギターを携え歌う新世代のギター・ヒロイン、竹内アンナ。彼女の最新E.P『at FOUR』は、これまでの“at〜”シリーズと比べるとコードの動きも激しく、ジャジィな展開も多く盛り込まれた渾身のアレンジが聴ける。そして今回、作品についての話に加え、今作にもリミックスVer.が収録された人気曲「I My Me Myself」のギター・ソロ部分の演奏動画を撮影したいとオファーしたところ、ふたつ返事で快諾してくれた。竹内自身“難易度が高くて毎回弾く時に緊張する”と語るギター・プレイにもぜひチャレンジしてほしい。
取材・文=福崎敬太 写真・動画撮影=西槇太一 採譜=石沢功治
モード奏法を自分の曲に活かすため、
インプットを増やしています。
ギタマガ初登場なので、まずはギターを始めた経緯から聞かせて下さい。
もともと母の影響で、アース・ウィンド・アンド・ファイアーとかが大好きだったんです。当時、音楽は聴く側として好きだったんですけど、小学校6年生の時にBUMP OF CHICKENに出会ったことで、自分も音楽を作る側になりたいと思って、中1でギターを始めました。その頃はテイラー・スウィフトのような初心者でもすぐにできるような簡単な曲を中心にカバーして練習していましたね。
ネットでコード譜を探して弾いたり?
そうですね。でも、最初は“ひとりで頑張ってみよう”と思ってやってたんですけど、1ヵ月くらいで早々に挫折してしまって。“私ひとりじゃ上手くなれない”と思って、今も師事している師匠のところにギターを習いに行き始めたんです。そこからは師匠が出してくれる課題曲みたいなのを中心にやってました。習い始めた時は“ギタリストになりたい”って思いが強くて歌うっていうことはまったく思っていなかったんです。
師匠からの課題曲にはどういうものがあったんですか?
ジャズやブルースのスタンダード曲を“歌いながら弾けるようになりなさい”っていうので、完コピしたりしてました。
印象に残っている課題曲は?
「Fly Me To The Moon」は、4ビートで歌いながら弾くっていうことはやったことなかったし、歌ってることと弾いてることが完全に分離していて、めっちゃくちゃ苦戦しました。でも、今となってはそういう基礎的な部分をしっかりやっていたのはよかったと思っています。プレイ面でもそうだし、コード感もそういうところから影響を受けてる部分は大きいと思います。
バンプから入って、エレキ・ギターにはいかなかったんですか?
始めからずっとアコースティック・ギターでした。バンド・サウンドからもすごく影響を受けているので、当時からエレキも“やってみたい”って思っていたんですけど、“まずはアコースティックギターをちゃんと弾けるようになってから始めよう”って。なので、しっかりエレキを触り始めたのはわりと最近になってからですね。
なぜアコギからだったんですか?
ギターを始めたのが中学生の頃だったので、周りで楽器をやってる子があんまりいなかったから、ひとりでやるしかなかった(笑)。だから、アコギを買ってひとりでずっと弾いていました。
始めに使ってたギターは何だった?
一番最初に買ったアコースティック・ギターは、ヤマハの初心者用のやつでした。
スラップのようなパーカッシブなアコギ・サウンドは竹内さんの持ち味のひとつですが、そこにはどのように行き着いたんですか?
高校2年生くらいの時に、YouTubeでたまたまジョン・メイヤーの動画を見つけたんです。当時、もちろんギターにも熱心に取り組んでいたんですけど、高校生くらいからシンガーソングライターとして活動を始めた頃、“ギターは歌うためのツール”という考えもあったんです。でも、ジョンのそのプレイを観て、“あ、この人は、歌う為のツールとか、そういうものに全然とどまってない”と感じたんです。歌は歌で独立していて、ギターはギターでオンリー・ワンのプレイ・スタイルを持っている。自分が持っていたシンガーソングライターという概念を壊してくれたんですよ。
それは何の曲をやっていた動画?
たぶん23歳くらいのジョンが、インストアライブで「No Such Thing」を演奏してる動画でした。何回観てもどう弾いているのかわからないし、“歌いながら、何故そんなにリズムを崩さずに……”と。でも、“すごく難しいことをしてるんだろうな”って思うのと同時に、“これだけ弾けたら、めちゃくちゃ楽しいだろうな”って思ったんです。それでよりギターにのめり込むようになっていたんです。で、その後いろいろとジョンの動画を観あさっているうちに「Neon」のアコースティック・ライブの映像を観て。ギター1本でスラップしながら、リズムを崩さずに涼しい顔で歌っているのを観て、“どうなってるんやろう?”って。そこからスラップを練習するようになりました。
「Neon」はスラップといってもパーカッション的に低音弦を弾くようなくらいですが、竹内さんの場合はMIYAVIさんのようなスラップ・スタイルに近いですよね?
MIYAVIさんのプレイも“めちゃくちゃかっこいいな”と思って、ほかの人が真似できないスタイルにすごく憧れを感じました。“自分もこういうギタリストになりたい、ミュージシャンになりたい”って思って、ただジャカジャカ鳴らすだけではなくて、アクセントになるような奏法をいろいろ試すようにはなりました。
今は、どういう練習をしている?
最近は“エレキをしっかりやろうね”って師匠と一緒に話しています。この前は“ロニー・ジョーダンがカバーした「So What」を完コピしてこよう”って(笑)。モード奏法っていうのを自分の曲に活かすために、いろいろインプットを増やしていこうと練習中です。
自分の基準になってるのは
“この曲で踊れるか、踊れないか”。
最新E.P『at FOUR』はこれまでのatシリーズと比べて、よりポップスに近い印象を受けました。楽曲の中でのギターの使い方やアプローチで、今作ならではの部分は?
今まで以上にコード・チェンジが多いかなって思います。いつも楽曲のベーシックな部分を自分が作って、それをプロデューサーの名村武(b)さんとお話しながら、“コードはどっちがいいかな?”って相談しながら作るんですけど、例えば「Love Your Love」のラップ部分とかは、本当に1拍ずつコードが変わっていくんですよね。そういう意味では、“いろんなコードのアプローチをトライできたかな”と思っています。
「Love Your Love」は部分転調も多いですよね。
この曲はアカペラでメロディから作った曲なんです。だから、最初はギターのことをまったく考えずに作っていて。で、“シーンが切り替わるところがたくさんあったほうがおもしろいよね”って話しながらサビを作っていて、“このあと、どこいこう?”、“次はここにいったらおもしろいな”みたいにキーボードでコードを探しながら、転調の位置が決まっていった感じですね。
この曲は途中にオクターブ奏法で攻めるギター・ソロが入りますね。
ソロも名村さんと相談しながら作っていて。最初は“この曲でスラップを入れてみようか”って話があったんですけど、全体の印象として“爽やかさや軽やかさがあったほうがいい”ってなって、“オクターブ奏法でソロを作ろっか”ということで、こういうギター・ソロになりましたね。
アドリブっていう感じではないんですか?
アドリブは、今、勉強中です(笑)。決め打ちのものはできるんですけど、まだアドリブがあまり得意ではなくて。さっき言った「So What」のコピーも、“アドリブのいい練習になるから”って理由もあるんですよね。だから、CMで流れてきた楽曲をその場で弾いてみたり、そういう練習を今はしています。
アウトロのエレキのギター・ソロは永井聖一さんが弾いているんですか?
あれは永井さんが考えて下さったものです。
自分以外のギタリストに弾いてもらう際、どういうやり取りがありますか?
最初にイメージはお伝えするんですけど、「Love Your Love」に関しては永井さんにギター・アレンジもお願いしていたこともあって、ほぼお任せの状態で弾いていただきました。最初に永井さんから“こんなのどうですか?”ってデモをいただいて、その時すでに“すごい!(拍手)”みたいな感じでしたから(笑)。
「+imagination」はなんとなくダフト・パンクの「Get Lucky」っぽい感覚がありますよね。
まさにそういう音楽にめちゃめちゃハマってた時に書いた曲です(笑)。
EW&Fなどのディスコ楽曲も聴いていたり、ダフト・パンクなどのディスコ・リバイバルもリアルタイムに触れている世代ですが、楽曲におけるビートの感覚はどう意識していますか?
ビート……う~ん。私はダンスはめちゃくちゃ下手くそなんですけど(笑)、いつも自分の基準になってるのは“この曲で踊れるか、踊れないか”ってところではありますね。あと、リズムを作る時はライブを想定していて、“このビートでこのテンポだったら、ちょっと遅いかな”、“なら、こういうビートに変えてみよう”、みたいなことはすごく考えてますね。
>「I My Me Myself」の実演動画は
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