結成10周年を迎えた爆弾ジョニーが、6年ぶりとなる3rdフル・アルバム『H1OPE』をリリースした。2019年に事務所とレコード会社を独立し、レコーディングやミックス、さらには流通まで、ほぼ自分たちで作り上げた人間味溢れる1枚。今回は彼らの友人である編集部の小林が、りょーめー(vo,g)、キョウスケ(g)、ロマンチック☆安田(k,g)の3人に、アルバム制作や最近のバンド活動のこと、さらには彼らの原動力の源となっているTWICEとロバートの話までを深掘りインタビュー。
取材・文=小林弘昂 写真=一色華
苦労がいっぱいあったから、
それを知れたのはすごく良かった。
──キョウスケ
まず、事務所とレコード会社を独立してからの活動内容を聞かせて下さい。
安田 2019年の頭くらいには自分たちで動く方向にシフトしていましたね。
りょーめー 去年は“CDをリリースできるようにがんばろう”って動いてました。レコーディング資金をライブとかで稼いでね。
安田 マネージャーは決めていなくて、メンバー5人全員がフワッと動いてるんです。なぜならお金が等分だから。マネージャーを担当した人がお金を多くもらうべきだと思うので。
キョウスケ 誰かがマネージャーをやるのはムリだってわかったよね。オレたちは関係性で動いているものがあまりにも多すぎるから、誰かの仕事を引き継いで他人がやるってムリじゃん。例えばオレがお世話になったa flood of circleとライブの話をしていて、“じゃあこのあとは小堀君(b)に引き継いでもいいですか?”っていうのは、わけがわからないことになる(笑)。
安田 そういう運営スタイルでやっています。
1年くらいやってみてどうでしたか?
りょーめー オレは超楽しい! CD出せるし(笑)!
安田 今の爆弾ジョニーはこっちのほうが向いてると思います。前はMAXで年に80本くらいライブをやっていたんですけど、正直オレは今そのペースで動きたいわけではないから。“そういうのも自分たちで決められるし、いいんじゃない?”って。
なるほど。
安田 デビューしたのが2014年なんですけど、当時とは世の中も変わってきてますからね。大きな資本や、多人数のスタッフのもとでやっていくという人たちが少なくなってきていますし。
今作『H1OPE』は結成10周年イヤーにリリースした作品ですが、制作時はどのような完成形のイメージを持っていましたか?
りょーめー 何か……優しい感じ(笑)。温かさと優しさを追求したら、“音が悪い”って言われるサウンドに仕上がりました(笑)。時代に合ってないんだよね。
安田 パッと聴きでは引っかからないかもしれないけど、何回も聴けると思います。あとタイトルの『H1OPE』には10が入っていて、それが10周年ってことで。
りょーめー イェーイ!
安田 今まではミックスとかを他人に頼んでいたし、流通作業とかも全部レーベルにお願いしていましたけど、今回は一部の録りとマスタリング以外は、ほぼ自分たちでやってみました。
自分たちでアルバムを作ってみて、3人の一番の収穫は?
安田 オレは流通の人とのやり取り、ミックス、マスタリングとデザインまわりの発注という、いわゆるレーベル業務をやっていて。それでどういう仕組みでCDができるのかが全部わかりましたね。だからもう自分でレーベルできます。
りょーめー 良いじゃん、やさせかRecords! オレは“安田のギターがけっこう好きだな”という発見がありました。
安田 アザァス!
りょーめー 安田は一応キーボードなんですど、2017年に出した『クレイジービートラリアット』からギターを弾く曲があったしね。それからだんだん増えていって。
安田 あんまり気にしてなかったけど、実は今回は半分くらいギターを弾いてたな。
キョウスケ オレは苦労がいっぱいあったから、それを知れたのはすごく良いことだったんじゃないかなって思います。特に安田君がすごくがんばっていたところが多くて、“苦労してんなぁ”と。
安田 それオレの話じゃん(笑)。
キョウスケ いや、オレも3曲くらいミックスしたし、自分のギターの音録りもやったから。そういうのをイチから考えるとなると、すごく大変だったろうなって。
安田 オレとキョウスケはリハスタでギターを録ることがあって、スタジオに置いてあるJCM900やTwin Reverbに自分たちでマイクを立ててやってみたんですけど、そんなに良い音にならなかった(笑)。
キョウスケ 経験値としてはすごく良かったよ。良くも悪くも音は粗っぽくなったけど。
りょーめー 今回は曲によって音質が違うよね。「ディラン」はデモ感があるけど、「緑」は池内(亮)さんが録ってるからちゃんとしてる。
安田 「緑」はちゃんとお金をかけてレコーディング・スタジオで録ってるからね(笑)。でも、ほかの曲も音圧を上げてないから車で流したら良い感じよ? 母親から“音良いじゃん”って言われました。
りょーめー 今までの曲がバッキバキだったからね。
安田 そうなんだよね。それはそれでカッコ良いんだけど。
このアルバムを聴いていると、奥田民生さん、おとぎ話、踊ってばかりの国など、爆弾ジョニーのメンバーが好きなアーティストの影響をところどころに感じたんですよ。
りょーめー 結局バンドが好きで、オレたちが影響を受けた人たちって感じですよね。その中でも今回は安田の色がけっこう強いと思うな。
安田 そうかも。前回はわりとキョウスケが強かったんですけど。
キョウスケ それって安田君が書いてる曲が多いからなんじゃないの?
安田 「feel colors」、「めきめき」、「パリピポ」、「あしあとJAPAN」、「HOPE」がオレです。共作が「ガンギマリサマーデイズ」。
りょーめー オレは最初の3曲(「緑」、「明後日」、「stalking」)と「ディラン」ですね。で、「歩く」はキョウスケ、「たまらない日々〜情緒ver.〜」がタイチ(d)。
安田 ボーナス・トラックの「滑空キラー」がキョウスケですね。
みんなで作って、みんなで歌って、なんだかUNICORNみたいですね。
りょーめー この5人になった時に“UNICORNみたいな感じが良いよね”ってスタートしたから、ずっとこういうバランスなんです。これまではキョウスケの曲を多くやったりもしたんですけど、今回はオレもめっちゃ指揮を執っていたから、オレと安田の色が特に強い気がしますね。
爆弾ジョニーだったら、
優しく歌うような曲だけやればいい。
──りょーめー
今作で3人がそれぞれ気に入っている曲は?
安田 オレは「明後日」が好きですね。これはりょーめーの元ネタがあって、そのメロディが良かったんですよ。でもお蔵入りになりそうだったので、引っ張り出して“やろうよ”って言って、イントロのアレンジはオレが考え直しました。
りょーめー 3本のギターのイントロがカッコ良かったから、やろうってなったんだよね。
安田 リンダ&マーヤと対バンした時に、マーヤさんが“3本のギターがまともに機能しているバンドを久々に観た”って、すごくうれしいことを言ってくれました。
アレンジはどういう風に進めていくのでしょう?
キョウスケ 安田君の曲は、だいたいギターができているんです。“こんな感じで”って言われて、“わかった”っていう感じで。でも、足りないところや、固まってないところはぶん投げられる。
安田 キョウスケのギターは曲が明るくなるから、自分にはない良いフレーズが返ってくる時があるんですよ。「EVe」(『BAKUDANIUS』収録)という曲を作っていた時も、間奏でおもしろいフレーズがあって。
りょーめー たしかに。キョウスケが弾くと陽キャのテイストが入ってくるよね(笑)。
安田 ミックスもそうで。「ガンギマリサマーデイズ」や「feel colors」はキョウスケに投げたんです。
りょーめー そう。オレが安田の「feel colors」の仮ミックスを聴いて、“これは迷ってるからキョウスケに投げよう”って提案して。キョウスケがやったほうがまとまったしね。
キョウスケ 安田君が自分で書いて、まとまってない曲をぶん投げられるという(笑)。“これはどうすりゃいいんだろう?”と思いながらやりました。で、オレは「ガンギマリサマーデイズ」が気に入ってますね。
りょーめー オレは「緑」と「あしあとJAPAN」かな。
安田君は忘れらんねえよのサポートと、自身のバンドHOT CAKEでもギターを弾いていますよね。その2バンドと爆弾ジョニーでは、どういったプレイ・スタイルの違いが?
安田 爆弾ジョニーの曲のアレンジはガッチリ固まっているので、その3バンドの中でも実は一番ちゃんとやらなきゃいけなくて。
りょーめー HOT CAKEは安田のめっちゃパーソナルな部分が出ていて、忘れらんねえよは柴田(隆浩)さんに合わせなきゃいけない。その間が爆弾ジョニーだよね。
安田 HOT CAKEは歪みエフェクターが1個で、忘れらんねえよが2個、爆弾ジョニーは3個必要です。爆弾ジョニーと忘れらんねえよは柴田さんから借りているRam’s Head(ファズ)が、HOT CAKEはFFM Fuzz Face Mini Hendrix(ファズ)がキモになっていて。
りょーめー君とキョウスケ君はSAMURAIMANZ GROOVEを結成しましたが、それが爆弾ジョニーにどんな影響を?
キョウスケ 爆弾ジョニーのガシガシした曲が減ったかな?
りょーめー たしかに、そういう棲み分けはあるかも。SAMURAIMANZ GROOVEはキョウスケが作った勢いのある曲をやることが多かったからね。その代わりCD(『見参ッ!!!』)は昔のメタルみたいな音質になった(笑)。
キョウスケ 9曲なんだけど、本当に聴きづらいんだよね(笑)。
りょーめー キョウスケは曲が2種類あるんだよ。ガーッて全部“がなってる”曲と、優しい曲と。爆弾ジョニーだったら、優しく歌うような曲だけやればいい。
安田 あと「滑空キラー」や「歩く」みたいなアンセム系の曲を書けるのがキョウスケの強いところだね。
TWICEから勇気をもらって、
ロバート秋山さんに挑む。
──ロマンチック☆安田
レコーディングで使用した機材についても教えて下さい。
りょーめー おお! ギタマガっぽいぞ!
安田 そういう話大好きです!
キョウスケ 今回はギブソンカスタムショップの57年リイシューのレス・ポールがメインでしたね。たぶんそれ以外は使ってないと思うな。
安田 オレは66年製のジャガーですね。「feel colors」だけ68/69年製のレス・ポール・カスタムを小林君から借りて使いました。あとはオレのグレコのSTタイプを「明後日」でりょーめーが弾いています。
りょーめー あとオレ「緑」で赤いタルボ使ってるわ(笑)。
安田 そうだ! マジでベチャベチャな音のバッキングはタルボ。アコギはりょーめーのJamesです。アンプはレコーディング・スタジオにあったDeluxe Reverbか、リハスタにあったTwin ReverbかJCM900か。『New CD』に入ってなかった最新の曲はラインとアンプ・シミュレーターで録っています。
キョウスケ エフェクターは、JCM900を鳴らした時はVEMURAMのJan Ray(オーバードライブ)を使ってたんじゃないかな。モジュレーション系は基本的にLine 6のM9(マルチ)です。あとはVOXのワウ。現行品ばかりでしたね。
安田 オレはRam’s Headと、狩野(省吾/hotspring)から借りているHoly Grail(リバーブ)が活躍しました。「緑」と「めきめき」のソロはRam’s Headで、バッキングはBOSSのBD-2(オーバードライブ)。その2曲のアンプは自分の70年代の銀パネTwin Reverbだったと思います。マニアック情報を言うと、中身は65年ブラック・フェイスのリイシューの回路に改造されていて、スピーカーはJBLのアルニコが載っています。で、プリ管は現行のMullard。
キョウスケ キモ(笑)。
キョウスケ君の最近のサウンドの好みは?
キョウスケ 最近はAORばっかり聴いてるんですよ。イアン・マシューズとかドナルド・フェイゲンとか、普通に聴けるやつが多いかな。
安田 普通に聴けるやつだそうです(笑)。
キョウスケ テンションが上がるわけでもなく、眠くなるわけでもなく(笑)。あとはVaundyとか藤井風君とか君島大空君とか、なるべく最近の音楽をちゃんと聴くようにしてる。すごいと思うな。
安田 そういう意味では、オレはもう韓国にドハマリです。特にTWICE。これからはギターが入ってないK-POPの要素を生かしてギターを弾こうと思っています。
最後になりますが、今後の爆弾ジョニーはどういう活動をしていく予定ですか?
りょーめー TWICEを聴いた安田からの、爆弾ジョニーに対する表現が気になる(笑)。でも、オレもちゃんとロバート秋山(竜次)さんのソロを聴いて、バンドにどう還元するかってのを考えてるから。
安田 出た。爆弾ジョニーに一番影響を与えているのはロバートです。特にオレとタイチとりょーめーの3人が進もうとするあらゆる方向に秋山さんがいるんですよ。
りょーめー そう。秋山さんが立ちふさがってる(笑)。
安田 しかも全部とてつもなく高い壁なんだよね。
りょーめー でも、秋山さんにぶつかるだけぶつかりたくない?
安田 秋山さんにぶつかって跳ね返されるっていうのは……やりたいですね! TWICEから勇気をもらって、秋山さんに挑みに行くっていうのが今後のオレの活動だと思います。
りょーめー ロバートって3人とも仲良いじゃん? ビックリしたのが、秋山さんの携帯の動画フォルダは山本(博)さんで埋め尽くされてるんだって。
安田 オレの動画フォルダのタイチと一緒じゃん。
りょーめー で、山本さんのボイスメモは秋山さんの歌のデータで埋め尽くされてるんだって。良くないそれ?
安田 あれ……何の話だっけ(笑)? とにかく秋山さんは陰と陽に振り切った希有なアーティストです。お笑い界のイチローって言えるくらいの努力と天才の人だと思うな。爆弾ジョニーはそこを目指しています!
作品データ
『H1OPE』
爆弾ジョニー
やさせかRecords/YSSK-001/2020年9月23日リリース
―Track List―
01.緑
02.明後日
03.stalking
04.ガンギマリサマーデイズ
05.めきめき
06.feel colors
07.パリピポ
08.歩く
09.あしあとJAPAN
10.ディラン
11.HOPE
12.たまらない日々〜情緒ver.〜
13.滑空キラー(Bonus Track)
―Guitarists―
りょーめー、キョウスケ、ロマンチック☆安田