MUCCの無観客配信ライヴ「~Fight against COVID-19 #3~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』」が、去る2020年9月20日に開催された。最初のリモート・ライヴも含めると今回で3回目となるオンラインでのライヴだが、サウンド・エンジニアも務めるギタリストのミヤは配信での音質にも一切妥協なし。インターネットを通じてでも理想のサウンドを観客に届けるため、さまざまな試行錯誤を続けてきたという。新時代のライヴ形式で必要な“音の考え方”について、ミヤにたっぷりと語ってもらった。ぜひその姿勢を参考にしてほしい。
取材=福崎敬太 写真=Susie
“空間で鳴っている音”を演出する。
無観客配信ライヴ<~Fight against COVID-19 #3~『惡-THE BROKEN RESUSCITATION』>は、前回の配信ライヴを踏まえた音質面のアップデートを試されたそうですね。
6月の配信ライヴの時に探り探りだった部分をなるべく良い形にするようにいろいろと挑戦しましたね。演出面もサウンド面も、前回はできなかった部分があったんですけど、今回は前もって準備する時間が前よりはあったので思い描いていたことはできたと思います。もちろん今回やってみて出てきた課題もあるんですけど、前回よりも満足度は上がりましたね。
今回はKemperを使ったライン出力でしたが、前回は?
前回もすべてライン出力でしたね。ただ、その時は手探りだった部分が確信に変わった部分があって、そこをより突き詰めていったんです。前回放送されたサウンドが悪いわけではないんですけど、実際に会場にいる時くらいの迫力や臨場感に“勝っているな”っていう点をあまり感じなかったんです。同じものにはどうしてもならないけど、別のアプローチとして“これはこれでOKだね”って言えるようなものにしたくて。わかりやすいところで言うと、ギターに配信用のエフェクトをかけてみたり。今回はそういうところを試していきました。
配信用のサウンドにするために使った機材にはどのようなものがあったんですか?
基本的にはKemper Profilerをメインで使うことは変わらないんですけど、生のライヴ会場だとマイクで音を拾ったり、スピーカーが鳴ったりっていう、空間の響きっていう要素が加わってくるじゃないですか。それも含めてお客さんの耳に届いていて、会場の空気も含めて盛り上がると思うんです。でも、ライン出力だけってなるとクリアになりすぎてしまう。例えばアナログ・レコードを聴いている時になぜ心地良いと感じるかと言うと、ノイズがうしろでなっていったりするのが良かったりする。本当は必要じゃないんだけど、感じちゃっている部分……そういう“悪い要素”をこっちであえてつけていかなくちゃいけないんですよね。
空気感を付与する、ということですよね。
そうですね。今は本当に音が良くなってどの機材も本当にクリアなので、逆に“汚していく”というか。その“空間で鳴っている音”を演出するうえで、例えばギターにディレイをかけてみたり、うっすらフェイザーをかけてみたり、“気持ち良い”と感じる部分を理解してこっちで演出していく。そういう音響的なアプローチを試行錯誤していった結果が今回の音になっています。
味付けをしないとドライな音になってしまう。
配信ライヴだとお客さんの視聴環境もなかなか想定しづらいですし、ライヴのように最終的な聴こえ方のコントロールが難しいですよね。
そうですね。最初はライヴでエンジニアがミキシングしたサウンドをお客さんの耳に届けるっていうだけで成立するかと思っていたんですけど、いろいろな配信ライヴを観ていると、やっぱりライヴに行って聴いているバランスとはまったく違う感じで聴こえてしまう。ライヴハウスからそのまま配信しているバンドもいれば、ちょっと変わった形だとiPhoneのマイクだけで配信していたバンドもいて。それはバンドのカラーもあるのでそれぞれ良いんですが、やっぱりライヴのサウンド・ミキシングとはまったく別物だなって感じたんです。
どう違うんでしょう?
ライヴのサウンドっていうのはよりピュアに届けるっていう目的があって、それを大きな音で良い音で鳴らすっていう手法の演出なんですよね。で、レコーディングはより良い音で、必要に応じて少し加工をして迫力を出していく。味付けはレコーディングのほうが多いんですよ。それで配信ライヴは、レコーディングにちょっと近い感じですよね。例えばドラムにリバーブをかけるとか、演出の部分がすごく重要なんです。そういう味付けをしないとドライな音になってしまう。その辺の演出ができる脳みそを持ってやれている人は、まだそんなにいないと思うんです。
今回の配信ライヴでもさらに改善点が見つかったと言っていましたが、どういった点をアップデートしようと考えていますか?
かなりマニアックな話になってしまうんですけど、今回は配信先のフォーマットが多かったんですよ。7フォーマットくらいかな? お客さんがその中から選んで、海外からも観れるフォーマットやコメントしながら観られるサイト、音質と映像のきれいさを重視して観れるフォーマットなど、いろいろ分けたんです。今はいろんなところが配信サービスを提供していますけど、そのフォーマットによって音量感やサウンドがけっこう違うんですよ。例えば、自分のパソコンで観ている時に、音量をマックスまで上げても“ちょっと小さいなぁ”って感じたり、逆に音量がデカかったり。例えばYouTubeだとデカくてニコ生だと小さい、みたいなことがあって。どういう環境でも同じサウンド感とバランス感で届けたいのに、フォーマットの問題でそこに差が出てしまう。今回やってみて課題が残ったのにはそういう部分がありましたね。それは、バンドがどうこうっていうよりは、この時代になってから出てきたエンターテインメントの新しい仕事のひとつだなって思っていて。次はそこをより突き詰められたら良いなって思っています。
業界全体を見わたしても、やはり新しいことなので探り探りな部分はありますよね。
そうなんですよ。音と映像が遅れるとか、今回もフォーマットによってそういうトラブルがあったみたいで。逆にこっちに知識がないので、勉強中です。そこはアーティスト側で何もわかっていない人がほとんどだと思うんですけど、やっぱりわかっていないと損ですよね。