Interview|マサ小浜ファンタスティック・ネグリートが求めた音 Interview|マサ小浜ファンタスティック・ネグリートが求めた音

Interview|マサ小浜
ファンタスティック・ネグリートが求めた音

前作、前々作と連続でグラミー賞を獲得したファンタスティック・ネグリート。これらの作品にはひとりの日本人ギタリストによる演奏が不可欠だった───それが日本のスタジオ・シーンでも第一線で活躍するマサ小浜だ。そして最新作『Have You Lost Your Mind Yet?』でも、このふたりのコンビネーションは健在! 今回はマサ小浜にファンタスティック・ネグリートとの出会いから、グラミーを受賞するほどの最先端のブルース作品で残したギター・プレイ、最新作の制作秘話まで聞いた。

取材/機材写真=福崎敬太 ライブ写真=Hiroaki Nagino


当時コーラスをやっていたのが、
イディナ・メンゼルなんですよ。

ギター・マガジン2017年7月号のモータウン特集でマサさんにインタビューで登場していただきましたが、あの時がちょうどファンタスティック・ネグリートの『The Last Days of Oakland』がグラミーを受賞したあとでしたよね。

 あのインタビューってそんなに前でしたっけ!?

そうなんですよ(笑)。その時に“彼がイグザヴィア名義で活動している頃から一緒に演奏していた”と言っていましたが、そもそもの出会いってどういうものだったんですか?

 アース・ウィンド&ファイアーやウェザー・リポート、プリンスなどをビッグにした3人組のマネジメント・チームがあって、その中のひとりであるジョー・ラファロとイグザヴィアがマネジメント契約をしたんです。それでアルバムを作ることになって、彼は自分で打ち込みとかはやっていたけど、ギターはそれほど弾けなかったから、ギタリストを探していたんですよ。それでオーディションがあったので参加したら、すごく気に入ってくれて。“最初は「日本人がこういう音楽を弾けるのか?」って思っていたけど、お前が来て見方が変わった”とか言ってくれましたね(笑)。

すごいエピソード(笑)。

 それで1995年にアルバム(『The X Factor』)を作って、彼はインタースコープと契約したんですよね。インタースコープができたばかりの頃です。社長のジミー・アーヴァイン、もともとブルース・スプリングスティーンやトム・ペティのプロデュースをやっていた人ですけど、彼がイグザヴィアを欲しがっていて。当時としてはけっこうな額のディールを結んだんですよ。でも、ジミーも忙しすぎてA&Rに思ったより力を入れられてなくて、中途半端に終わっちゃいましたけどね。一応全米ツアーとかもやっていて、当時バック・コーラスをやっていたのが、「Let It Go」を歌っているイディナ・メンゼルなんですよ。

えぇ!?

 もともとデボラ(コックス)っていう女性シンガーがコーラスをやっていたんですけど、ニューヨークにいた時に喧嘩して、LAに帰っちゃったんです。それで、当時のマネージャーがニューヨークにいる女性シンガーを20人くらい連れてきて。そのうちのひとりがイディナで、イグザヴィアも僕も一番良いと思ったのが彼女だったので、そのままツアーに連れて行ったんです。あんなにスターになっちゃうとは思わなかったな。

お子さんが泣いている時に、
ギターを弾いたら泣き止んだらしいんですよ。

『The X Factor』から数曲がYouTubeにあがっていたので聴いたのですが、けっこうブラック・コンテンポラリー路線の作品ですよね。その当時からファンタスティック・ネグリートはブルースをやっていたんですか?

 いや、ブルースを一緒にやったことはなかったですね。でも、その5~6年後にやる“Me and This Japanese Guy”というプロジェクトがあって……知ってますか?

すみません……知りませんでした。

 イグザヴィアと僕のふたりのプロジェクトで、そのアルバムで僕がスライド・ギターをやり出したんです。本人は自覚していないかもしれないですけど、その延長線上に“ファンタスティック・ネグリート”があると、僕は感じているんですよね。ヒップホップっぽいドラムのうえでアコギのスライド・ギターが入って、彼が叫んでいる、っていう形式は10数年前に“Me and This Japanese Guy”としてやっていたんですよ。

そうなんですね!

 それで、1996年くらいにBET(ブラック・エンターテインメント・テレビジョン)に彼とベースと僕のアコースティック・ギターに出たら、たまたまデ・ラ・ソウルがその演奏を観て気に入ってくれて、彼らとも一緒にツアーをしたこともあるんです。そうやってすごくいろんな経験をしましたね。でも、結局レコード会社ともマネージャーともうまくいかず。ほかにもインディーズで“Chocolate Butterfly”っていうプロジェクトを僕とふたりでやっていて、それもけっこう良いR&Bの作品なんですよ。それはたしかサブスクで聴けると思います。あとは“Blood Sugar”っていうパンクっぽいことも一緒にやったり。

その後ファンタスティック・ネグリートが始動する前に、彼は一度表舞台から離れますよね?

 僕も日本に帰ってしまったし、彼もスタジオにあるものを全部売り払ってオークランドの田舎に行っちゃったんですよね。たまにフェイスブックなんかを見ると鶏の写真とかがアップされていて、自給自足みたいな生活をしていたから“あぁ、音楽やめちゃったのか”と思っていたんです。そしたら突然メールでファイルが送られてきて、“これにスライド・ギターを入れてくれ”と。“よかった、また音楽をやり始めたのか”と思ってギターを入れて送り返したのがEPになったんですけど、イギリスとかで評判になったんです。なので、今度はもっといっぱい曲を録ってアルバムを作ろうということになって、それがグラミーを獲っちゃうんですよね(笑)。

いやぁ、すごい音楽人生ですね。

 一旦音楽をやめちゃってから1st作を録ったから、僕も彼がそんなに本気だとは思っていなかったし、彼自身もここまでのことになるとは思っていなかったかもしれない。彼もしばらくギターは弾いてなかったらしいんですけど、ひとり目のお子さんが泣いている時に、ギターを弾いたら泣き止んだらしいんですよ。それがきっかけでまた音楽をやり出したって言ってましたね。

ファンタスティック・ネグリートが日本で演奏する際は必ずマサ小浜がバックを務めている。

彼との制作はリモートのほうが合っている(笑)。

彼がソウルやR&Bをやっていた時代はギターに対する要求はどういう感じでしたか?

 ファンキーなカッティング系を求められた時とか、当時からすごくリズムにシビアでしたね。その頃はまだPro Toolsじゃなくてテープで録っていたんですけど、ちょっとでもズレると、“あぁ! ズレた!”って言ってやり直させられたのを覚えています。

そのシビアさは今も変わらず?

 そうですね。ギター・ソロとかは全然口出しせずに自由にやらせるタイプなんですけど。ただ、前2作品に関しては僕が勝手に自分の家で録ったデータを送っているからすごく自由にやらせてもらっていて。最新作は2019年の末にアメリカで一緒にやったんですが、横でごちゃごちゃ言ってきてやりづらいなって思って(笑)。彼との制作はリモートのほうが合っている(笑)。

リモートでやる時はギター・プレイについてどういうやりとりがあるんですか?

 最初はスカイプしてくれって言われたんですけど、僕は面倒だからスカイプとかで話もせず勝手に弾いて送ってたんですよ(笑)。

えぇ~(笑)、アレンジの相談もせずに?

 メールでひと言だけ“スライドを弾け”みたいに書いてあったりはしたので(笑)。何曲かは口でギターのフレーズを歌ってきたやつもありましたね。デモ的に彼がギターを入れてくることもあったけど、当時はそこまでなかったかな。

1st作の「Working Poor」などで聴けるスライドとヒップホップ・ビートの組み合わせはMe and~の時からあったそうですが、どのようにこのスタイルは生まれたんですか?

 当時はいつも一緒に音を出していたから、ごく自然に出てきたっていう記憶しかないですね。

彼の楽曲はブラック・ミュージックやロックまでのあらゆる要素をサンプリングしているけど、その中でアコギのスライドなどがブルースたらしめいている感じがするんです。

 それは本人もこだわっていたと思いますね。けっこうしつこいくらいにどの曲にも“スライド入れて!”とネグリートが言うので、“えぇ、またスライドやるのかよ!”なんて思うこともよくありましたよ(笑)。彼はルーツ・ミュージックのエッセンスを僕のパートで入れたいんだろうなって伝わってきたので、自然にああいうアプローチになりましたけど。僕のスライドはピッチが良くないので、それがまた昔のレコードっぽくて良いんでしょうね(笑)。うますぎないから(笑)。

(笑)。でも、ああいうピッチ感ってブルース好きの人特有というか、逆に意図的だと思っていました。

 そう思っていただけていたならうれしい……でも意図的じゃないんですよ(笑)。単に僕のスライドが粗いだけ(笑)。

>インタビューの続き、使用ギターは下部から次ページへ

【Profile】 マサ小浜

まさ・こはま◎1991年の渡米後、ビリー・プレストン、スティーヴィー・ワンダー、チャカ・カーンなどのソウル・レジェンドと共演し、帰国してからも在米時からの盟友=ファンタスティック・ネグリートと作った『The Last Days Of Oakland』がグラミーを受賞するなど、数々の名作に携わってきた日本を代表するセッション・ギタリスト。国内ではEXILE、AI、加藤ミリヤ、堂本剛など、さまざまなアーティストをサポートしている。

公式HP>http://masakohama.com/
Twitter>https://twitter.com/masa_kohama
YouTube>https://www.youtube.com/user/melodyjet
Instagram>https://www.instagram.com/masakohama1/