結成17年目を迎えたオルタナティブ・ロック・バンドの髭が、約2年ぶりとなる新作『ZOZQ』をリリース。今作ではサポート・ドラマーにMO’SOME TONEBENDERの藤田勇を迎え、パワフルなバンド・サウンドを手に入れた。もちろんギターも聴きどころが満載。気持ちの良いストレートな歪みや、変幻自在なエフェクト、そして浮遊感のあるコード・ワークを巧みに使い、バンドのストレンジな世界観を見事に構築している。須藤寿(vo,g)と斉藤祐樹(g)のふたりに、ギターの話をじっくり聞いていこう。
取材・文=小林弘昂
“いなたさ”がある音楽が好きだし
完成度ではないところに魅力を感じる
──斉藤祐樹
今作『ZOZQ』のレコーディングは今年の3〜4月に行なわれたとのことですが、楽曲の制作はいつから始まったのですか?
須藤 2019年からやっていましたね。実は去年アルバムを出すつもりだったんですよ。でも、みんなに聴かせられる曲がアルバム分そろわなかったから、“焦るのをやめよう”となって、予定していたレコーディングを今年の3〜4月に延期したんです。まさかコロナでこんなことになるとは思わずに。録っている最中に“コロナっていうウイルスがヤバいらしい”みたいになってましたね。
今作の楽曲は須藤さんと斉藤さんのデモをもとにブラッシュアップしたそうですね。デモを作る時はデータのやり取りではなく、ふたりで一緒に?
須藤 そうですね。最初にオレがベーシックなものを作ったら、斉藤君の家に行って、そこでサクッと母体を作りきっちゃうみたいな感じ。直接ふたりで曲作りをするメリットがふたつあるんですけど、まずはメンバーと会うとテンションが上がって、思ってもなかったアイディアが出てくること。もうひとつは、斉藤君の家はめちゃくちゃデカい音を出しても良いこと!
斉藤 平日の夜に普通にシャウトしてる(笑)。飲みながらやってるから、オレも楽しくなっちゃって“大丈夫、大丈夫!”って。
須藤 “本当に大丈夫か!?”って思うんだけど、“まぁ、斉藤君の家だからいっか”って(笑)。23時半とかに斉藤君がアコギを持ち出した時は“それはやめたほうが……”ってオレが言うくらい。
マジですか、良い子はマネしちゃダメです(笑)。
斉藤 5分以内ならいいかなと(笑)。隣の人も、“外で誰かが盛り上がってるんだな”と錯覚するだろって。
須藤 “まさかこんな時間に家でアコギ弾かねぇよな?”っていう(笑)。そういうのもありつつ、ひとりで作業をしていると、迷路に迷い込んでも、迷い込んだことに気づかない時があったりして、結局次の日の朝に“何やってたんだろう?”ってなるんですよ。でも、ふたりだったり、バンドでいると単純にフラットにできるというか、冷静になれるという。
前作はゴリゴリなバンド・サウンドでしたが、今作は浮遊感のあるドリーミーな楽曲が多い印象です。その中でも全曲ギターが土台となっていますが、髭の中でのギターの役割とは?
須藤 そういう楽曲を作ったら、バンドによってはエレクトロニカにいく人たちもいるし、それはそれで全然良いと思うんです。自分たちもシーケンスがおもしろくなった時期があるし。
でも、髭はギター・ロックから始まったから、中途半端にそっちに行くよりは、自分たちが始まった場所にいたほうが自由に動けそうだなと思って戻ってきたんですよね。だから斉藤君とデモを作っている時に“今シーケンスっぽい話になってきてるな”と思ったらストップをかける。そっちにいきすぎると、作ってる時はめちゃくちゃ楽しいんですけど、結局ライブでは同期を流して終わりになって、つまんないなって思うことがあったんです。
なるほど。
須藤 それだったら、少しかゆいところに手が届いていなくても良いから、斉藤君は生でギターを弾いて、シーケンスも人力で作れるというか、なるべくドラマーが同期を聴かなくてもいいような楽曲制作を軸にしていこうぜって。やっぱりギターでフレーズを作って、そこにドラムとベースを肉付けするっていうのが、オレたちには合ってるんですよ。
今作でやろうとしていることがストーン・ローゼズっぽいなと感じたんですよ。彼らもアシッド・ハウスを人力でやっていましたし、髭の9月の無観客配信ライブ(LiVE STRM HiGE)の会場や、その時に着ていたTシャツのペイントにもローゼズのオマージュが感じられて。
斉藤 ああいうペイントの手法と、今の髭の音楽ってけっこう似ているところがあって。今はCGですごくカッコ良いデザインをいっぱい作れるけど、手書きでやったほうが抜けるし、そのほうが感動の度合いが高い。音楽を聴いていても、やっぱり“いなたさ”があるものが好きだし、完成度ではないところに魅力を感じることがあるんです。
だから髭はメンバーの人間性が出ていたほうが、絶対に自分たちで納得できる曲になるって思ってるんですよ。それこそローゼズみたいにね。彼らもライブによってはめちゃくちゃなことになってるけど(笑)、あれって肉体的なような気がしますし。
須藤 そうだね。今は録音物だけカッコ良いというものには興味がなくなっちゃって、ムラを残した作りにしていて。やっぱり音源を聴いても、ライブを観に行っても、“ムラがスゴいな! ムラあるなぁ〜!”っていう愛嬌みたいなものがあったほうがいい。
だって今の時代、完璧に作ることは誰でもできますからね。だからムラっていうか、愛嬌がいかにちゃんと録音できてるかっていうのが、すごい重要だと思うんですよ。
そして今作の大きなトピックが藤田勇(d)さんの参加です。藤田さんに声をかけたキッカケは?
須藤 彼との最初の出会いは、2019年3月の新代田Feverのイベントですね。その日は対バンにART-SCHOOLを呼んでいたんですけど、ちょうどそのタイミングで木下(理樹)君が休養に入って、ART-SCHOOLが当日キャンセルになって、髭のワンマンに切り替えたんです。
でも、勇さん、(中尾)憲太郎さん、トディ(戸高賢史)はリハから来てくれていて。“彼らがいる中で何もしないのはもったいないよな”と思ったので、“アンコールで8人でセッションしましょうよ”と提案して、即興で「MR.アメリカ」(『PEANUTS FORVER』収録)をやったんです。勇さんがメインでドラムを叩いたんですけど、その時に“あれっ……これムラじゃね!?”って、恋心のように惹かれるものが(笑)。
(笑)。
須藤 ムラとか愛嬌みたいなものを音から感じたんですよね。それで“アルバムの制作を延長しよう”となった時に、新曲の可能性を見てみたくて、勇さんとはもうリハに入り始めていたんです。で、“これはもう振り切っちゃってもいいかもな”と思って、これまでサポートしてくれていた(佐藤)謙介にはちゃんと話をしました。
ハルさんに“6度って何ですか?”って聞いたら
“じゃあ勉強したほうがいいよ”って
──須藤寿
須藤さんが夏に始めたnoteの記事で、和音について“いつもウットリするのは4度、6度、7度、9度”と触れていましたが、それが今作の楽曲の浮遊感につながってるのかなと思ったんですよ。
須藤 つながってると思いますね。斉藤君と一緒にデモを作る時、今まではお互いインスピレーションでアレンジしてたんですけど、今回はコードやメロディについてかなり話しました。
例えばオレは手癖で“フレーズの終わり際にフッと半音ズレたメロディが出てきちゃう”んですけど、斉藤君に“細かいところなんだけど、そこで半音ズラしてボーカルをバックアップしてくれないかな?”と相談したり。だから今作は△7thのところが、より△7th感が満載になってたりするかもしれないですね。
斉藤 “そこ6度!”とか“ここ4度!”っていうワードが飛び交っていましたね。そういう会話ができるようになったのは、音楽を作り続ける中ではすごく良いことだなと思っています。
一聴すると簡単に聴こえるけど、実はかなり凝ったコードを使っているのが髭の独特の雰囲気につながっていますが、同じようにものすごくこだわったコード進行を使っているなと思うロック・バンドがTheピーズなんです。
斉藤 そう! Theピーズはスゴいですよ!
須藤 もうまったく同意! Theピーズが武道館でライブをやる時に、the pillowsの山中さわおさんがそれをバックアップするっていう動画の企画をやっていて、“須藤君と斉藤君も出てよ”って言われたんです。で、“オレと一緒にTheピーズのカバーやってくれない? 曲は何がいい?”って言われて、“オレは大好きな「生きのばし」がいいんですけど、ほかに参加する人も歌いたいですよね?”って聞いてみたんですよ。
争奪戦になりますよね(笑)。
須藤 そしたら、“じゃあ「生きのばし」でいいよ!”ってなったんです。で、歌ってみたんですけど、マジで難しくて。Theピーズって“歌、ギター、ベースの3つのメロディでひとつの音”みたいな、アナログ・ライクな曲の作りをするじゃないですか?
だからギターもベースも単体で聴くと、コードがどっちにいってるのかがわからなくて。“こっちだろうな”と、ざっくりフィーリングでカバーしました(笑)。Theピーズの音源ってビートルズ感があるんですよ。“どこいってるんだろう?”って、何度聴いてもわからない。
斉藤 そうなんです。Theピーズは聴く人によって、コードの解釈が全然違ったりするんですよ。ギターはさわおさんとふたりで弾いたんですけど、“あれっ、さわおさんはそっちに聴こえました?”みたいな会話をいくつかしたのを覚えていて(笑)。ベースもポール・マッカートニーよろしくじゃないけど、すごく絶妙なところにいってるから、トータルで聴いた時に単純にはわからないっていう。
須藤 オレね、ハルさん(大木温之/vo,b)と初めて話した時のことをすごく覚えていて。2003年、ライブハウスの打ち上げだったのかな。オレが“あの、髭の須藤っていいます”ってあいさつすると、ハルさんが“へぇ〜、髭君っていうんだ〜”って。
斉藤 (笑)。
須藤 “いや、髭っていうバンドの須藤です!”って(笑)。で、ハルさんに“髭君はどんなバンドが好きなの?”って聞かれて、“ビートルズとか好きです”って答えたんです。そしたら“じゃあ6度だよな”って言われて……。オレ、当時は全然意味がわからなくて。“ビートルズは7度じゃなくて6度だよな〜”みたいなことを言ってて、それが今でも忘れられないんですよね。
今は“おいしいところで来てるよね、6度”っていうことなんだと思ってますけど。で、率直に“6度って何ですか?”って聞いたんですよ。そしたら“じゃあ勉強したほうがいいよ”って。……それは愛を持ってですけどね。数年後にハルさんに再会した時にこの話をしたら全然覚えてなかった(笑)。オレが夢見てただけかもしれない!
(笑)。Theピーズの楽曲って感情がハッキリとわからないじゃないですか? それが『ZOZQ』の楽曲と似ているなと感じたんです。
須藤 一緒ですよね。アンサンブルをすごく気にしてるというか。3度や5度を取っていればすごく陽気なロックンロールになるけど、7thとか、6thとか、sus4とかのコードを入れればちょっとアンニュイな感じになる。そういう話をたくさんしたので、今作の曲はよりそれが色濃くなってるんだと思いますね。
では、レコーディングで使用した機材の話も聞かせて下さい。
斉藤 「サブタレニアン・ヘルツェゴビナ」の話になるんですけど、“この曲モズライトっぽくない?”って言われて、調べてみたんですよ。そしたら“1本持っててもいいな”と思って、翌日に買いに行ったという(笑)。Avengerっていう70年代のモデルですね。
須藤 アイゴンさん(會田茂一/2013年に勇退)以来のモズライトだね。今回の音源ができたタイミングでアイゴンさんにも聴いてもらって、後日一緒に食事をした時に“あの曲モズライトでしょ”って言われたんですよ。ピタッと当てて、“さすがっす!!”って思ったな(笑)。
斉藤 モズライトを買った話をアイゴンさんにもしていて、そのあとにアルバムを聴いてもらったんですけどね。“さすがモズ先輩!”と思った(笑)。
すごい(笑)。モズライトのほかには?
斉藤 いつものフェンダーUSAのテレキャスターが多かったですね。「ないものねだり」は日本製のジャズマスターかな。モズライトは終盤のほうに手に入れたので、「サブタレニアン・ヘルツェゴビナ」と「病ム!病ム!」のバッキングで使ったくらい。
アンプはいつものMesa/Boogieですか?
斉藤 そうですね。いつものMesa/Boogie Mark Ⅰで、たまにマーシャル1959SLPをヘッドとしてつないで、Mark Ⅰをキャビとして使いました。今回は普通のダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクと、少し離れたところにリボン・マイクも立てていて。それが効いているのか、録った音がカッコ良いんですよ。目の前で鳴ってる音に一番近いような気がしますね。
須藤 実は今回レコーディングしたスタジオに、オレが個別で録れるブースがなかったんですよ。だから斉藤君、宮川(トモユキ)君、勇さんが優先的に録って、“えーっと……須藤君のオーバー・ダビングは斉藤君の家でいいよね?”みたいな(笑)。
なので斉藤君の家にテレキャスター・カスタムを持ってレコーディングしに行ったんですけど、結局使ったのは斉藤君のシンラインとかジャズマスターという。それをラインで録ったんですけど、技術の進化がスゴいなと思いましたね。実機のアンプを鳴らすよりもアンプ・ライクな時があったというか。
斉藤 実はレコーディングが始まる直前にPCが壊れて、そのタイミングでMacやProTools、インターフェースなどの宅録のシステムを新しくしたんですけど、ライン録りの音が良くなったんですよ。今回はMesa/BoogieのV-Twin Preampっていうペダルを通して、尖ったところを落として実機のアンプっぽくしようとしたくらいで、須藤のギターは基本ラインの音です。
須藤 プリ管を変えて、自分好みの音がするV-Twinを持って行きました。斉藤君のアンプを使った王道のカッコ良い音と、オレのラインとV-Twinで作ったアンプ・ライクな音と混ぜることで、お互いのキャラクターを際立たせているっていうのはあるかもしれないですね。
最後に、『ZOZQ』リリース後の髭の活動予定を教えて下さい。
須藤 実はもうすでに新曲が2曲できています! 来年のアルバム・リリースを目指したいな。本当は『ZOZQ』の全国ツアーを組んでたんですけど、今回はツアー開催を見合わせることにしたから、願わくば『ZOZQ』と合併したツアーもできたら良いなと思っています。
斉藤 来年アルバムを作るって、けっこう素敵だなと思ってるんですよ。実際に“こんな感じの曲をやったら良いんじゃない?”っていうアイディアがあるので、楽しいんですよね。まだふたりでデモを作り始めるっていうスタート地点に立った状態なので“確実に出します”とは言えないんですけど、出す気満々でいます。
Suto’s Pedalboard
Saito’s Pedalboard
作品データ
『ZOZQ』
髭
Bauxite Music wy./BXWY-025/2020年11月25日リリース
―Track List―
01.GIZMO
02.病ム!病ム!
03.MINT
04.なかよくファビュラス
05.Morning Faces
06.パンケーキの気持ち
07.サブタレニアン・ヘルツェゴビナ
08.ないものねだり
09.ash summer
10.Surfin’ JPN
―Guitarists―
須藤寿、斉藤祐樹