作詞・作曲・編曲はもちろん、ほぼ全パートの演奏や打ち込み、さらにはアートワークまでを自身が手がける音楽家、君島大空。最新作『縫層』(読み:ほうそう)は、そうした手腕と豊かな音楽的バックグラウンドが結実し、繊細でありながらも強靭な音像を響かせる快作だ。マルチな才能を発揮する君島だが、実はそのルーツはギターにあり、現在も根っからのギタリスト。君島のライブ・バンドである“君島大空合奏形態”では共にツイン・ギターを務める西田修大を交え、若き鬼才のギタリストとしての側面に迫りたい。
取材=田中雄大 撮影=西槇太一
君島とは、ギターを弾くうえでの
美観が似ているんです。(西田)
以前より西田さんから、“君島はめっちゃギターが好きでうまくて……”って話をたびたび聞いていたんです。ということで今日はギタリストとしての君島さんの話を、西田さんを交えて聞いていきたいと思います。
君島 ありがたいです。
西田 俺が世界に伝えたい、ギタリスト君島の話をします(笑)。
ありがとうございます(笑)。新作『縫層』はタイトルが表わすようにさまざまな音が複雑なレイヤーを形成していますが、中でもギターは重要なパーツになっていますね。
君島 1st『午後の反射光』の頃は、今回よりもさらにパーツとしてギターを見ていたんですよね。でも去年(2019年)の4月から合奏形態を西田、新井和輝(b/King Gnu)、石若駿(d)とやり始めて、改めてギターと向き合ったんです。合奏形態を始めるまではバンドをしたことがなかったので、自分で歌って弾くようなことは絶対やらないと思っていたんですよ。でも、いざそうなった時に改めて自分とギターが邂逅する感覚があって。そこからこの『縫層』を作り始めたので、ギターが表に出たバンド的な音像になったと思います。ギター・キッズだった頃の自分も出てるし(笑)。
ちなみに、西田さんは「笑止」にクレジットされていますよね?
西田 そうです。でも実は『縫層』では一曲もギターを弾いていないんですよ。
え! そうなんですか!
君島 ギターは全部僕なんです。
“西田修大が参加”と紹介されていたので、てっきり弾いているものかと(笑)。その辺りの話を詳しく聞いても?
君島 曲を一緒に作ったくれたというか、サウンド・プロダクションを一緒にやってくれたという感じですね。音像や音の配置、音色選びみたいな。
西田 君島とは普段から“こういう音楽良いよね”とか、“こういう曲作りたいな”とか、よく話すんです。それが発展して一緒に楽しく作った、っていう感じですかね。プロデュースってほどでもなく、単に一緒にやった友達みたいな感じで。
君島 本当にそういう感じ(笑)。あとシンセを貸してくれたりもしましたね。
西田 シンセのテクスチャーを選んだりはしましたけど、ギターは弾いてない(笑)。
ちなみに、ふたりが一緒にやり始めたのはいつ頃からなんですか?
君島 最初に会ったのが3年前くらい?
西田 うん、そうだね。
君島 ギタリスト5人くらいが同時に弾く、ヤバいセッションがあったんですよ。その時に初対面なのに、自分がギターを弾くうえで核にあることの話が急にできて。“こういう全体が歪んでる状況だと、クリーンで弾くほうがノイズっぽく聴こえるよね”みたいな。それで“この人、話できるな”って(笑)。互いにプレイは全然違うんですけど、シュータメン(西田)は“美観が似てるね”って言ってくれて。その言葉がとても腑に落ちています。美観が似てるけどアプローチの仕方が違うから、同じところに向かっても同じやり方にならないんです。
西田さんはその話をしたことを覚えていますか?
西田 すごく覚えてますね。その日も、以前から“君島っていうすごいギタリストがいる”って周りの人から聞いてたんですよ。
君島 僕もそうだった。でもなんとなく交わらなかったよね。
西田 “すごいヤツがいる”って聞くと、“へえ~そうなんだ”とか言いつつ、気になるじゃないですか(笑)。だからやっと会えたと思いました。話にあったようにギタリストが5人もいたのでプレイでしっかり向き合う感じではなかったんですけど、まず話すのがすごく楽しいなと思って。それで、そのあとふたりでデュオをやる機会があったんです。
君島 やったね、わりと即興なやつ。3曲をインプロでつないで40分やるみたいな。
西田 そう、そのために初めてふたりでスタジオに入ったんですけど、セッションとなるとギタリストって“エフェクティブに”とか、“リズミックに”とか、“弾きまくる”とか、いわば戦いのカードがあるわけじゃないですか。それを出して返してをやっていく中で、なにやっても返されて、仕掛けられたのって君島が初めてだったんですよ。お互いやり方は違うのに、同じ質感で返せるみたいな。それが印象的でしたね。でも君島が言ったように、弾くうえで大事にしているポイントとか、今まで研究してきたこととか、そこは意外とかぶってなくて。
君島 そうそう。多感な時期に聴いてた音楽が全然違ったりね。
西田 だからお互い“それ教えてよ!”ってなることも多いんですよね。
初めてスーパー・ギター・トリオを聴いた時
これになるしかない、と思いました。(君島)
西田さんはレッチリやクラプトン、それからネルス・クラインやビル・フリゼールからの影響が大きいと思うんですが、君島さんは意外とメタルやテクニカル系を通ってきたそうですね?
君島 完全にどっぷり浸かっていましたね。
西田 意外と君島の“いつギターを始めて、こういう練習してきて”みたいな話って聞いたことないよね?
君島 たしかに言ってないかもね。
西田 だから“ギタマガ初登場ということで、まずは音楽のルーツを”って話、やってほしいです!
(笑)。ぜひやりましょう。
君島 まず、父親がギターを弾いていたんですよ。フォークが好きで、加川良とか大滝詠一、トム・ウェイツしか聴かないような感じで。それで家にギターはあったんですけど、6歳くらいの時に“小学校に上がる記念にギターを買ってやる”って楽器屋に連れていかれて、モーリスのちょっと小ぶりなアコギを買ってもらったんです。自分から“ギター弾きたい!”って言ったわけじゃないのに(笑)。それで最初はエレカシのコピーや、家にあった古いフォークの歌本を弾いたりしていて。でも、当時はまだあまりギターに興味はなかったんですよね。小説家になりたいと思っていたくらいなので。
西田 今も言葉を大事にしてるもんね。
君島 でも中学校2年生くらいの時、父親の知り合いでブラック・サバスのコピー・バンドをやってる人がいて、その人からカセット・テープを貰ったんです。それが片面にレッド・ツェッペリンのアルバムのなにか、もう片面にスーパー・ギター・トリオの『Friday Night in San Francisco』が入っていて。
アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシア、ジョン・マクラフリンの!
君島 それを聴いた時のことはすごく覚えてますね。“これはヤバい……”と。夕方の真っ暗な中、自分の部屋で手に汗握りながらギターのチューニングをして。
西田 始まったんだ。
君島 これになるしかないと思いました。中でもディ・メオラが好きになってソロ作も聴き始めるんですけど、特に1stの『Land Of The Midnight Sun』はめちゃくちゃコピーしましたね。だいたい弾けました(笑)。
西田 それは知らなかった(笑)。俺もスーパー・ギター・トリオは聴いたりしたけど、そんなに集中した時期はなかったな。
今の君島さんのスタイルからはかなり意外ですよね。
君島 でもけっこう源流にありますね。今聴くと“ダサいな~”とか思うんですけど、心の底からダサいとは思っていないんですよ。やっぱり血はたぎる(笑)。そうやってコピーしていたので、自分は耳コピが得意かもしれないと思っていたんですけど、でも例えばジョー・パスや渡辺香津美さんだったり、そういう音楽は全然コピーできなくて。これは何か違う仕掛けがあるに違いないと思い、ジャズの人を聴き始め、また変わっていったんです。そこからフュージョンを聴くようになってしまって、テクニカルなギタリストを好きになり、ガスリー・ゴーヴァンに狂いましたね。
西田 (笑)。
(笑)。ガスリーの『Erotic Cakes』は当時ギター・ファンに衝撃を与えましたよね。
君島 本当、テクニックの見世物市みたいじゃないですか(笑)。「Waves」とか「Fives」とか、よくコピーしていましたね。ほかにもグレッグ・ハウやリッチー・コッツェンにハマったり。
西田 この間もウチでコッツェンのライブ動画観たよね。
君島 同時に、その頃から福生チキンシャックというところのセッションに通うようになったんです。そこで新井和輝だったり、岡田拓郎(森は生きている)と出会って、彼らに教えてもらう音楽でまた聴くものが変わってきて。あと、父親が好きだったフォークを嫌厭してたんですけど、それが一周回って好きになってきたりもして、フリー・フォークだったりフリー・ジャズに傾倒したり。そういう内省的なものが好きになっていったのが高校生くらいですね。
フリー方面に行くのが早いですね。
君島 そして和声的・空間的なアプローチも気になり出して、アラン・ホールズワースやビル・フリゼール、マーク・リーボウとかも聴き始めて。そこからは好きなものが変わる周期はありますけど、基本はそんなに変わっていないと思います。だからいわゆる王道というか、ギタリストがみんな聴く感じの音楽はあまり聴いてこなかったなと思いますね。レッチリとかジミヘン、レディオヘッドあたりを聴いたのもわりと最近で。
西田 こうやって系統立てて聞いたことはなかったけど、改めて納得だな。
ふたりに大きく共通しているのは、ビル・フリゼールやマーク・リーボウのような、空間を彩るタイプのギタリストが好きという点ですかね?
西田 そこは共通してますね。
君島 僕は歌がある音楽は歌を一番大事にしたいんです。そこにどうやってアプローチしたらいいか考えた時、お手本になったのがフリゼールみたいなタイプなんですよ。自分の活動を始める前はよくシンガーのサポートをしていたんですけど、その時もシンガーの横でひたすら空間を広げるようなプレイをやっていたんです。音楽の残響そのものになる、みたいなアプローチの仕方というか。
西田 俺も歌が好きなんですよ。でも“歌を大事にしましょう”って時、ギターはつい影に潜むようなプレイばかりを選んでしまうことってあるじゃないですか。それが歌を生かすとは思っていなくて。例えば合奏形態の時も、俺はきっと歌の邪魔になるくらい“気になる”プレイをする時があるんですけど、それによって歌が生きたり、歌に耳を澄ましたくなったり、そうなったらいいなと思っています。それは君島に最初に会った時のノイズの話と同じで、ノイズが大きく鳴っていると、例えばその中で聴こえるちょっとしたピアノのほうが気になったりするじゃないですか。その感覚は大事にしていますね。今思うとよく最初にその話をしたなと思いますけど(笑)。
君島 急に観念的な話をしてきたよね(笑)。
西田 でも君島にはそういう感覚的な話がすんなり伝わるので、一緒にやっていて幸せだなと思うところですね。
君島 歌を大事に、っていうのがお互い当たり前のようにあって、それは大前提だから改めて“歌を大事に”みたいに意識することがないんです。
西田 うん、逆にね。
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