Interview | リトル・バーリー【後編】『Quatermass Seven』のバーリー・カドガン使用機材 Interview | リトル・バーリー【後編】『Quatermass Seven』のバーリー・カドガン使用機材

Interview | リトル・バーリー【後編】
『Quatermass Seven』のバーリー・カドガン使用機材

サイケデリック・ロックを土台に、ブルース、ソウル、ヒップホップ、グランジなどなど、あらゆるジャンルを混ぜ込んだ楽曲を生み出す英国のロック・バンド=リトル・バーリー。2017年にドラマーのヴァージル・ハウが急逝し、その後バンドは活動をストップしていた。しかし、10月16日にヘリオセントリックスのマルコム・カトーをドラマー兼プロデューサーとして迎えた新作『Quatermass Seven』を突如リリースし、カムバックを果たす。インタビューの後編は、バーリー・カドガン(vo,g)に新作のレコーディングで使用した機材や音作りについて語ってもらった。

質問作成・文=小林弘昂 取材・翻訳=トミー・モーリー 機材写真=バーリー・カドガン 人物写真=Joby Sessions/Guitarist Magazine/Future via Getty Images 協力=Goodness Guitars


ペダルを選ぶ時の条件は
ツアーに持っていける頑丈さ

今作のレコーディングで使用した機材を教えて下さい。

 今回使った機材はかなりシンプルで、スタジオにはほんの少ししか持って行かなかったんだ。その中でも僕のお気に入りのひとつ、90年代にデニス・コーネルが作ったFuzz Faceが活躍したよ。00年代前半に手に入れたもので、ゲルマニウム・トランジスタを搭載しているんだ。

 今作で聴けるファズ・トーンは、すべてこのFuzz Faceによるものだね。ほかにも友人がやっているMagnetic Effectsというイギリスのメーカーがあって、僕のために作ってくれたファズ・ワウを「You’re Only You」で使っている。これは筐体の前面にボリューム・ノブとファズ・ノブと、ペダル部分の下にファズのオン/オフ・スイッチが付いているんだ。フィードバックをコントロールするためのワウとして使う時は、ファズをオフにして使ったりもしたよ。

 この2台以外にペダルは使っていなくて、基本的にはアンプ直のサウンドだね。スラップ・バック・エコーやリバーブも使っているけれど、それはペダルではなく、マルコムがミックスの段階でアウトボードやテープ・エコーで加えてくれたんだ。そもそも僕はそんなに多くのエフェクトを使いたいとは考えていなくて、あとはマルコムに任せようと思ってシンプルに留めておいたのさ。

Denis Cornell / Fuzz Face

Denis Cornell / Fuzz Face

90年代に製作されたデニス・コーネル・ブランドのFuzz Face。デニスは60年代にDallas-Arbiterに在籍していたという経歴を持つ、ファズ界のレジェンドである。ゲルマニウム・トランジスタを搭載しており、リイシュー・モデル中でも人気が高い。プライマル・スクリーム時代の足下にも置かれており、当時はアンプを歪ませ、ギター・ソロで本機をオンにしていた。

Magnetic Effects / Custom Fuzz Wah

Magnetic Effects / Custom Fuzz Wah

バーリーの友人でもあるクリスチャン・リビングストーンが設立したブランド、Magnetic Effectsによるファズ・ワウ。VOX系ワウの回路と、ゲルマニウム/シリコン・トランジスタのハイブリット・ファズ回路を搭載している。ツマミはVOLUMEとFUZZで、ファズ・ワウとして使う時はFUZZツマミをMAXにするそうだ。「You’re Only You」や「Fuzz Bomb」などで使用。

プライマル・スクリーム時代も足下にFuzz FaceやTone Benderがありましたが、バンドの中でファズをうまく使うコツは?

 ペダルを選ぶ時の条件は、まずツアーに持っていける頑丈さだ。だから僕が持っているペダルの多くはクローン・モデルなんだよ。オールド・ファズのサウンドが好きなんだけどね。あとはアンプの使い方によってファズのサウンドが変わってくることも注意しなければならない。

 アンプの音量を上げて軽く歪ませた状態のほうが、ファズを踏んだ時にさらに魅力的な音になる。温かみがあって、とても音楽的になるんだ。僕がFuzz Faceを好きな理由は、コントロールがしやすいから。ギター本体のボリュームで操作するのに適していて、これってまさしくジミ・ヘンドリックスがやっていたことなんだよね。ピート・タウンゼントも70年代にSuper Fuzzで同じようにやっていたよ。ギター本体でサウンドを操作するっていうのはオールド・ファッションなやり方だけど、お薦めしたいね。

今作のサウンドは、リバーブやトレモロ、ワウ、ファズといった、60年代のロックを想起させる組み合わせがクールです。音作りのこだわりや、ルールがあれば教えて下さい。

 ルールはないけど、ギター、アンプ、ペダルの組み合わせをいろいろ実験して、そこから得られるサウンドを探しているよ。僕は60年代前半から存在するリバーブやトレモロといったエフェクトが好きでね。僕が影響を受けてきたアルバムには、こういったサウンドがたくさん使われているんだ。

 もちろんエフェクトがたくさん使われている音楽も好きだけど、それが自分のスタイルになるべきだとは思っていない。ペダルがまったくない状態でプレイするのだって好きだし、ギターとアンプだけの関係を今でも楽しんでいるよ。ファズはその関係の延長線上にあるものとしか考えてないな。ワウはちょっとしたアクセントを加えてくれるといった感じだね。

 そういうペダルがあっても、やっぱりギター・サウンドを作っているのは自分自身だという感覚を保っているのさ。トレモロはステイプル・シンガーズのような古いR&Bのアルバムで聴けるエフェクトで、ゴスペルやブルースでも使われてきた。とてもシンプルだけど、エモーショナルに感じるものなんだよ。トレモロを浅くかけてゆっくり弾くと、サウンドに動きを与えてくれて、空気感がたっぷり出てきて、表現力が豊かなものになるんだ。

リバーブとトレモロは、アンプに内蔵されたものを使うことはありますか?

 僕が持っている61年製Super Ampはリバーブを搭載していないんだけど、ブラウン・トーレックス期のアンプには、共通して素晴らしいトレモロが搭載されている。そのあとのブラック・フェイス期のリバーブはけっこうナイスだし、Ampegのアンプも美しいリバーブを搭載しているよ。

 Magnatoneのアンプのトレモロもなかなか素晴らしい。古いアンプに内蔵されたエフェクトはそれだけでかなり個性を持っているし、大好きだからたまに使うこともあるんだ。でも、スタジオ用のアウトボードのプレート・リバーブやスプリング・リバーブも使うことがあるから、その時に欲しいサウンド・キャラクターに合わせて選ぶということだね。

KayのRed Devilのサウンドが
このアルバムに欲しかったんだ

では、ギターは何を使いましたか?

 いつもの白いPhilippe Dubreuilleを使ったし、黒いES-345や、数年前に手に入れた63年製のKayのRed Devilも使った。Kayにはフラットワウンド弦を張っていて、とってもクールなトーンなんだ。「T.R.A.B.S.」をプレイしたのは、まさしくこのギターだね。

 あとマルコムのスタジオはけっこう小さくて、僕らは密接した状態でレコーディングしていたから、あまりうるさくないアンプが必要だったんだ。そこで僕の友人がロンドンで運営しているJPF Ampsというメーカーから、12インチのスピーカーを一発搭載した15Wのアンプを借りたんだよ。サウンドが素晴らしかったので、今回はこのアンプ1台で録り切ってしまった。ちなみに僕はもともと、このメーカーの12インチ・スピーカーが2発のコンボ・アンプを持っていたんだ。

1963 Gibson / ES-345TDSV

1963 Gibson / ES-345TDSV

バーリーが絶大な信頼を寄せるのが63年製のES-345TDSVだ。購入時からブラックにリフィニッシュされていたそうで、安く購入できたとのこと。右肘が当たる部分は塗装が剥げ、サンバーストが顔を覗かせている。本来はステレオ・アウト仕様だが、モノラル・アウトに改造済み。ビグスビーはあと付けで、プライマル・スクリーム時代の映像を観るとストップ・テイルピースの本器を確認できる。

1963 Kay / K592 Red Devil

1963 Kay / K592 Red Devil

2年前に友人から購入したという63年製のKay K592、通称Red Devil。オリジナル・シェイプのホロー・ボディ構造を採用し、ビグスビーを搭載。バーリーは本器にフラットワウンド弦を張っており、妖艶なサウンドを演出している。本作のレコーディングでは“50年代のレコードのようなサウンド”を求め、「T.R.A.B.S.」などで使用された。

あなたのInstagramの演奏動画を見ていると、Kayの登場回数が多いですよね。

 このKayはもともと友人からずっと借りていたものだった。ある時、その友人がこのギターを地元の楽器店に委託販売で売りに出していて、偶然それを僕が見つけてね。で、試奏したら気に入り、彼は“お前が弾いたらなかなか良いサウンドになるじゃないか!”となって、売るのを止めて貸してくれたんだよ。

 2年前になって、やっと彼から購入したんだ。時には人気のあるモデル以外のギターを弾いてみるのも悪くないよ。フェンダーやギブソン、グレッチ、マーティンというのは、説明するまでもなく素晴らしい。しかし、それらに比べ認知度が低いビンテージ・ギターには、ユニークでおもしろいサウンドがある。プレイもそれにインスパイアされてしまうものだ。

 僕が持っている古いFramusのギターは、とあるビデオ収録を手伝った際に、友人からギャラの代わりに壊れた状態で貰ったんだ。ほかにもHarmony製のSilvertoneも持っていて、銀色のホイルに巻かれたピックアップがお気に入りだね。高級なギターのフィーリングはないかもしれないけど、素晴らしいサウンドやヴァイブを持っている。ほんのちょっと手を加えれば、とてもナイスなサウンドになるんだ。

あなたのメイン・ギターはPhilippe Dubreuilleのカスタム・モデルですが、そのほかにも63年製ES-345や62年製ES-330、さらには55年製レス・ポール・カスタムといった、素晴らしいビンテージ・ギターも印象的です。

 (レス・ポール・カスタムを見せながら)これはレコーディングでは使わなかったんだ。このギターはもともとブリッジ・ピックアップがザグられていて、P-90じゃなくハムバッカーが搭載されていたし、トップもリフィニッシュされていて、リフレットもかなりひどい状態でね。

 保存環境も酷かったみたいで、最初に楽器店で見つけた時はガソリンの匂いがしていたんだ(笑)。たぶん何年も動いていないような車と一緒にガレージの中に眠っていたんじゃないかな。そんな状態だったけど、持っていたギターを2本手放して、やっと手に入れることができたんだ。この時代のレス・ポール・カスタムが欲しいと20年くらい思い続けていたよ。

 もちろん使えるようにするために修理しなくちゃいけなかったけどね。ブリッジのP-90ピックアップは同じ年代のビンテージを手に入れて、ちゃんとザグりも埋めて搭載し直してもらったよ。フロントのステイプル・ピックアップもなかなかナイスなサウンドなんだ。

ギターは普段、どのように使い分けているのでしょう?

 実はレコーディングにはあまりギターを何本も持っていかないことが良かったりする。逆にたくさんのギターがあると、どれを使っていいのかわからなくなってしまうことがあるからね。あれこれ選べる贅沢な状況が良いことばかりとは言えないんだよ。

 セッションに行く時はES-345を持っていくようにしていて、それはどんな場所でも問題なく使えるからなんだ。で、Kayはこれじゃないと得られないサウンドがある。映画のサウンドトラックや、50年代のレコードでこういった音がよく聴けるよね。だからこそ、このサウンドがこのアルバムに欲しかったんだ。僕のギターって基本的に全部シンプルで、ピックアップが2個、ビグスビーが付いているのがほとんど。あとはホロー・ボディのサウンドとフィーリングが好きなんだ。

最後に、日本のギター好きのファンにメッセージをお願いします。

 僕らは日本にいるみんなのことを恋しく思っている。日本は大好きだし、第二の故郷みたいだよ。みんなぜひ互いを思いやって、健康に気をつけて過ごしてほしい。もう何年もそちらに行っていないから、その日が再び来るのを楽しみにしているよ。ギタリストたちには、ぜひプレイし続けて欲しいと思っている。

 ギターについて学ぶべき新しいことは常にたくさんあって、長くギターを弾いていると新しいスタイルを学びたい欲が出てくるものだろう。僕だってここ数年はフィンガーピッキングを学ぶようになった。学び続けるっていうのはとても素晴らしいことだよ。自分が今まで聴いたことのない音楽やギタリストをチェックしてみたり、逆に昔の時代のギタリストを掘り下げていくのも良いだろうね。

作品データ

『Quatermass Seven』リトル・バーリー

『Quatermass Seven』リトル・バーリー

Madlib Invazion/MMS043CD/2020年10月16日リリース

―Track List―

01.Rest In Blue
02.You’re Only You
03.Repeater #2
04.T.R.A.B.S.
05.Steel Drum
06.After After
07.Repeater #1

―Guitarist―

バーリー・カドガン