Interview|Wata×Atsuo×Takeshi(Boris)音の“余韻”に宿る表情 Interview|Wata×Atsuo×Takeshi(Boris)音の“余韻”に宿る表情

Interview|Wata×Atsuo×Takeshi(Boris)
音の“余韻”に宿る表情

1992年のバンド結成から今年で30周年目を迎えたBorisが、最新アルバム『W』を完成させた。本作は、不安や怒りといった感情を激しい音楽に昇華した『NO』(2020年)と対をなす1枚で、耳元でささやかれるような歌声が印象的な作品に仕上がっている。Wata(vo,g,k,etc)、Atsuo(d,perc,electronics)、Takeshi(vo,b,g)の3人に『NO』と『W』という2作品の制作背景について話を聞いた。

取材:尾藤雅哉(Sow Sweet Publishing

バンドの表現を前に進めていく2人のあとを
ひたすら追いかけていた(Wata)

今年は1992年の結成から30周年という節目の年ですね。これまでの活動を振り返っていかがですか?

Atsuo 全然実感がないんですよね。

Takeshi そうだね。20周年の時なんて誰も気づかないまま過ぎてしまったので(笑)。25周年の時に少し周年っぽいことをやったんですけど……そこからの時の流れがすごく早く感じる。

Atsuo そうそう。しかもコロナ禍に突入、そうやってバタバタしているうちに“もうすぐ30周年だけど、どうする?”って話になって……まだ話せないんだけど、色々と考えています。

Wataさんはいかがですか?

Wata 気づいたら30年経っていた、みたいな感じがします。私以外の2人は、バンドの表現を前に進めていくための活動のスピードがとても速いので、そのあとをひたすら追いかけていたら、いつの間にかそれだけの時間が経っていたって感じですね。

Atsuo 僕らは常に目の前にある“やりたいこと”にばかり集中してるからね(笑)。

Wata だからいつも急なんですよ、すべてが(笑)。“明日、新曲をレコーディングするから”って突然言われて“えっ、ちょっと待って”みたいなことがよくあるんです。

Takeshi まぁ作り方に関しては、時期によって色々変わりますから(笑)。

なるほど(笑)。曲はどのように作っていくのですか?

Atsuo スタジオで“適当にやろうよ”って演奏しながら作っていくこともあるし、そういう方法だけでも同じような曲ばかりになっちゃうから、準備期間を持ってネタを持ち寄ることもありますね。

そうなんですね。ちなみに30年の活動の中でターニング・ポイントになった出来事をあげるなら?

Takeshi やっぱり……『PINK』(2005年)じゃないかな。当時はすでに海外でライブをやっていたりしたんですけど、この作品を発表してからオファーもすごく増えたし、会場の規模もどんどん大きくなっていったんですよね。

Wata あの頃から、毎年のように海外へライブをしに行くようにもなったんだよね。

Atsuo そうだね。でも代表作ができたことで、それに“縛られる要素”も出てきたんですよ。そこから“どうやって自分たちの表現を新しくアップデートしていくか?”っていうことが1つの課題になったというか。

Takeshi あと個人的には2011年が一番キツかった。1年間でアルバムを3枚出して(『New Album』、『Attention Please』、『Heavy Rocks』※2002年発表の同名アルバムとは内容が異なる作品)、ツアーのためにアメリカとヨーロッパと日本を何度も何度も往復したり……もうわけわかんない感じだった(笑)。

Atsuoさんにとってのターニング・ポイントは?

Atsuo バンドのオリジナリティを完全に確立して“自分たちにしかできない表現ができた”と実感したのが『DEAR』(2017年)を作った時で……。音楽的な意味では、そこで“やり切った感”があったんですよね。この作品以降は、より一層、まわりの声を気にすることなく活動ができるようになった気がします。

 あとはコロナですよね。多くの方のターニング・ポイントになっていることだと思いますけど……。何て言えばいいのかな……もともと自分たちが持っていた価値観が、逆に全世界に広がった感じがあるっていうか。僕らはずっとインディペンデントで活動をしてきたので、すべて自分たちで仕事を作って自分たちで運営していたんです。そういう風に自身でいろんなことを判断して、どう生きるかってことを1人1人が考えなきゃならないような時代になったと思うし、今はそういう価値観をいろんな人と共有できる世界になったように感じていますね。

左からAtsuo、Wata、Takeshi。
左からAtsuo、Wata、Takeshi。

エクストリームな『NO』と相対する要素が
欲しいというところから『W』が生まれた(Atsuo)

2020年に発表した『NO』と新作『W』は、2つの作品をつなげると“NOW”になるということを含めて、コンセプチュアルな内容ですね。これらの作品制作に関してイメージしていたものは?

Atsuo 『NO』を作っている時は、現実逃避みたいな感じもあったんですよね。コロナ禍になり緊急事態宣言が出て、外出も自粛しなければならない状況だったけど、僕らはとにかく制作に集中していたんです。不安や怒りのようなネガティブな感情を激しい音楽に昇華する。結果として『NO』はかなりエクストリームな作品になりました。ただ僕らとしては、どこか相反する要素がないとひとつの作品として完成しないようにも感じていて。

Takeshi そうそう。完成したけど“何か足りないな”っていう。

Atsuo そこで2つを融合するのではなく、対比させて世界を表現する方法として、『NO』と相対するような音楽性を持った『W』という方向性が生まれてきた。

Takeshi 『NO』の制作が終わってすぐに『W』に取りかかったんですけど、『NO』をリリースする前にはもう『W』のレコーディングは終わってたんですよね。

ということは2年前の2020年にはすでに完成していたんですね。Wataさんはいかがですか?

Wata 『NO』は、ほとんどのギター・パートをすでに2人が考えていて。

Takeshi 僕らはひたすら“刻め! 刻め!”って言っていて。“もっとねじ込むように刻んで!”とか(笑)。

Wata そうそう(笑)。だから『W』は“癒し”のような方向性だったので正反対ですよね。

Atsuo 『NO』は、僕とTakeshiの音楽のルーツにフォーカスしていったので、2人のカラーが強く出た作品になったんです。なので『W』では、Wataのボーカルをフィーチャーすることによって、バランスがとられていったというか。その三人が形作る三角形のバランスはいつも揺らいでいます。例えば、先日EarthQuaker Devices(以下、EQD)からHizumitasというWataのシグネチャー・ファズ・ペダルが発売されたんですけど、それを使って新曲(「Reincarnation Rose」)を作ったら、今度はWataのパワーが強くなり過ぎちゃったりして(笑)。

やはりHizumitasがバンドにもたらした影響は大きかった?

Wata かなり大きいですね。

Atsuo 反響がものすごく大きくて。EQDの色々な記録が塗り変わったと聞いています。

Wata 私もすごくビックリしましたね。まさかそんなにも反響があると思ってなかったので。

Atsuo ペダル制作に関しては2019年から話を進めていたんですよ。“音源と関連させてプロモーションしよう”みたいな話もしていたんですけど、『W』ではファズをあまり使わなかったので、だったらHizumitas用にシングルを作ろうってところから「Reincarnation Rose」ができたという。

Wata この曲では完成したばかりのペダルを全面に押し出して演奏していますね。

Atsuo MVにはTOKIEさんや『W』でサウンド・プロデューサーをお願いしたシュガー(吉永/バッファロー・ドーター)さんに出演してもらって。僕とTakeshiは出てないという(笑)。

パッと見てわかる濃淡だけでは感じられない
“手触り”の部分を音楽に残したい(Takeshi)

『W』に話を戻すと、制作で一番活躍した機材は何でしたか?

Atsuo MattoverseのAir Trashは、Wataのギター・ソロとかで多用してましたね。

Wata 単体で使うのではなく、ほかのファズと一緒に使ったりして。

Atsuo けっこう酷い音になるもんね?

Wata 名前がAir Trashというくらいだからね(笑)。

Takeshi このペダルは“事故ってる感”が良かったです。使うたびに毎回違うことが起きるので、効果が均一にならないっていう。

Wata そうやって新しい機材を色々と取り寄せて、それを試したりしながら作り込んでいきましたね。その中でもリバーブはよく使ったんじゃないかな?

Atsuo そうそう。この『W』ではDEATH BY AUDIOのROOMSっていうリバーブがめちゃめちゃ活躍しました。

Takeshi あれはすごく良かったですね。このリバーブで作る残響感がアルバムのテイストを決めている感じがする。音の色とか奥行きとか。

Atsuo そうだね。僕らって鳴らした音の“余韻”に宿る表情について話し合うことが多くて。“こっちのほうがゴロゴロしてない?”みたいな。例えば、歪ませて白玉でジャーンとかき鳴らして音を伸ばした時、鳴っている音の中で“何かが起こっている感じ”がすごく大事なんですよ。HizumitasのもととなったELKのBIG MUFFには、その“何かが起こっている感じ”がすごくあるのでずっと使い続けているんです。余韻に残る表情がすごく大切なんですよね。

新たに導入した機材によって生まれたフレーズやサウンドも収録されているんですね。

Atsuo そうですね。ほかにもトレモロ・アームを使った微妙な“揺らぎ”に関しても、同じ理由で重要視しています。

Wata 確かにそうかも。発音と発音の間の音に、すごく豊かな表情があると思う。

Takeshi 歌で例えると……所謂“コブシ”が生まれる感じ、みたいな。

Atsuo 僕らの音楽って、1曲7分なのに白玉一発で音を伸ばすパートが多いので、トータルで30小節もなかったりするんです。でもやっぱり、“ずっと何かが起こり続けてる“みたいな感じが、僕らの音楽ではとても大事。

Takeshi 絵で例えると、色の濃淡もそうなんですけど、塗った面を光に当てるとちょっとデコボコしてたりするじゃないですか。一色の中にも塗りムラがあって、サラッとしていたり、グチャッとしていたりする。パッと見てわかる濃淡だけでは感じられない“手触り”のような部分は、音楽の中に残したいと思っていますね。

Atsuo Borisの表現って文脈が大事だと思っていて。例えば……ライブハウスの楽屋みたいに、いろんなバンドのステッカーやイベントのフライヤーが貼ってある壁の上に僕らの音楽を塗っているような感じ。そういう歴史の上へ色を塗り重ねることで、リスナーに自分たちのルーツが透けて見えたりしたらいいなと。

現在、Borisというバンドに感じている可能性とは?

Atsuo そうですね……さっき話した『PINK』のように、次はHizumitasが表現の足枷になるかもね(笑)。というのも、シグネチャー・ペダルが世に出たことで僕らと同じ音が世界中に溢れてしまうわけじゃないですか。その状況の中で、自分たちらしさをどのように提示していくかっていうのは課題になってくるんだろうね。

Wata 演奏が上手な人は世界にいっぱいいますからね。

Atsuo 僕らは本当に、今の自分が“やりたい”と思うことをやっているだけなんですよね。好き勝手やって生きていけるのは……すごく幸せです。コロナ禍に入って、Bandcampを自分たちで運営するようになったんですけど、世界中のファンからサポートされてる感じをよりダイレクトに感じるようにもなりましたね。

Takeshi 確かに目の前の楽しいことだけやってるだけですね。“こういう音色にしてこんな感じの曲調でやってみない?”みたいな軽いノリでセッションが始まって、いろんなアプローチを試してみて……言ってみたら、子供同士でお互いが拾ってきたお気に入りの石を見せ合いっこしているような感じなんですよ(笑)。

Atsuo 30年もバンドをやってきて、いろんな方法論や手法が自分たちの中に蓄積されていると感じていたんですけど……実はその方法が通じるのは自分たちだけだったりして(笑)。

バンド・メンバーだからこそ共有できる独自の共通言語があると。

Wata そうなんです。しかもそれは言語じゃなくて“感覚”の部分なんですよね。

メンバー以外だと、サポート・ギタリストとして栗原ミチオさんがバンドに参加されていますね。

Atsuo 栗原さんも非常に独特な方で……常に変化していく人なんですよ。だから同じリフをくり返し弾く=ループという概念がないんです。なのでリフ1つにしても、同じ演奏が一切起こらない人ですね。

Takeshi 常に自分の理想を追い求めている方です。一緒にツアーを回っていた当時も、毎日のようにアンプのチューブを換えたり、セッティングを変えたりして、より良い音を出したり、素晴らしいプレイをするために、常に何かを試していましたね。

改めて『NO』と『W』の2作品の制作を振り返っての一言お願いします。

Atsuo コロナ禍の真っ只中で制作に入った『NO』では、ツアーへの憧憬といったノスタルジックな部分と未来への希望を込めてライブで披露することを前提に曲作りをしたんですけど、『W』はライブのことを一切考えないで作り上げていった作品なんです。だから……未だにどうやってライブをしようか全然わからないんですよ(笑)。シュガーさんとかと一緒にやれたら面白いかもしれないですね。今は作品がリリースされて“どんな反応がくるんだろう?”っていうのが楽しみです。

作品データ

『W』
Boris

KiliKiliVilla/KKV-127/2022年1月21日リリース

―Track List―

01. I want to go to the side where you can touch…
02. イセリナの神様は言葉 -Icelina-
03. 数に溺れて -Drowning by Numbers-
04. Invitation
05. 未来石 -The fallen-
06. 善悪の彼岸 -Beyond Good and Evil-
07. Old Projector
08. 知 -You Will Know- “Ohayo” Version
09. 乗算 -Jozan-
10. ひとりごと -Soliloquy-(日本盤ボーナス・トラック)

―Guitarists―

Wata、Takeshi、suGar Yoshinaga